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万年「F」ランク冒険者、呪われた装備で最強を目指す  作者: 秋栗稲穂


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124話 連鎖する狂気

空気が、違っていた。


豊穣の街を襲ったスタンピードが終息した翌朝。


アレフは宿の窓を開けたまま、夜明けの冷たい風の中で目を覚ました。


胸の奥で燃えるものは、一向に収まらない。


ーー聖浄の神殿。


ーー実験施設


ーー大神官セレーネ。


ベレティックの惨劇、王都の奇病、アバンダスの悲劇……。


全てがひとつの線で繋がっていた。


(もう……放置できねぇ)


アレフは静かにローブを羽織り、魔剣グラトニーを背に背負った。


宿の一階に降りると、仲間たちはすでに準備を整えていた。


ライカが大きな瞳を揺らし、真っすぐこちらを見つめる。


「……お兄ちゃん、行くんだね」


「ああ。決着をつける」


その言葉は短かったが、全員にとって十分だった。


「このジェームス、どこまでもアレフ様にお供いたしますぞ」


ジェームスが優雅に礼をする。


「聖浄の神殿の連中か……妾もいい加減決着をつけねばの……」


シノは爪を軽く鳴らし、戦闘態勢の気配を纏っている。


「俺様は強い敵がいりゃあいい」


アスタロスは戦斧グロウ・アックスを肩に担いだ。


「首を狩る敵がいるのならば、我が剣は振るわれよう」


デュラは無言の首を小脇に抱え、重々しく言葉を続けた。


「目的は明確。すなわち連鎖する狂気の根源を断つこと」


グリモワールの瞳は、感情よりも使命を優先させた冷たい光を宿していた。


そして——聖女ジャンヌが両手を組み、アレフに頭を下げる。


「どうか……全ての真実を暴いてください。 私は祈っています。あなたに、光があらんことを」


「祈りじゃなくていい。 ジャンヌ、お前は街を守れ。俺たちは神殿を壊してくる」


アレフの言葉に、ジャンヌは小さく笑い、うなずいた。


こうして——聖浄の神殿への旅が始まった。



馬車や徒歩では遅すぎる。


アレフは、シノの竜化によって空路を選んだ。


「しっかり掴まってろッ!」


魔竜へと姿を変えたシノの背に全員が跨り、風を切るような速度で空へ飛び立つ。


王都ルクレシアから遠く離れた辺境の地——バロール。


そこには、白亜の大理石で作られた巨大な建造物がありながら、温もりではなく不気味な静謐が漂っていた。


「……あれが、聖浄の神殿」


ライカが呟く声は、恐れよりも警戒に満ちていた。


人影はほとんどない。

周辺の街に人が寄り付かなくなったのも無理はない。


この街は“神殿の庭”と呼ばれ、一般人が入ることを許されていない。


シノが静かに着地し、アレフはローブを深く被った。


「行くぞ。正面からじゃなく、裏口だ」


「裏口とは?」


ジェームスが首を傾げる。


「グリモワール、例の位置で合ってるよな?」


「ええ。地下の排水用トンネルが封鎖されているけれど……破壊は可能」


「破壊するのは任せろ」


アスタロスがにやりと笑い、斧を振り上げた。


——ズドォオオオオンッ!!


大地が震え、古びた石壁が一撃で粉砕される。


「見事です、アスタロス殿」


「ふふん、任せときな!」


アレフたちは瓦礫を越え、薄暗い洞窟のようなトンネルへ潜り込んだ。



「……臭いが違う」


シノが鼻をわずかにひくつかせる。


湿った土、消毒薬、そして人ではない何かの腐敗臭——。


《やはりここは……呪いの気配が濃いな》


「そうだろうな。あいつらは呪いを“浄化”なんて言ってるが、実際は……」


「呪いを研究してる側、だよね」


ライカが言葉を継ぎ、アレフは黙って頷く。


奥へ進んだ瞬間——


金属音が鳴り響いた。


ガン、ガン、ガンッ!!


「侵入者、確認」


白い法衣を纏った神官たちが、無表情のまま武装して迫る。


彼らの目はどれも、生気が欠けていた。


「こいつら……まさか」


「自我がねぇ。操られてるな」


アレフは黒炎を纏う。


「シノ、前衛! ジェームス、援護!」


「任せてッ!」


「心得ました!」


次の瞬間、戦闘が爆ぜた。


「竜炎ッ!!」


シノが魔竜の口に竜気を溜め、漆黒の灼熱の奔流を吐き出す。


神官たちは壁のように吹き飛び、石床に叩きつけられた。


そこへジェームスが滑り込む。


「パーフェクト・アタック!!」


飛来した闘気を纏った三枚の銀トレイが三人まとめて吹っ飛ばし、壁にめり込む。


「破衝烈斬ーークラッシュ・バースト!!」


アスタロスの斧が振り下ろされ、衝撃波が走り、後続の神官たちを一網打尽にした。


デュラは黙々と大剣を振るい、魔導砲銃で遠距離の神官を撃ち抜く。


「アレフ様、後方から三十!」


「任せろ……喰らえ、獄炎ッ!!」


アレフの黒炎が床を走り、神官たちは次々と倒れた。


やがて、神殿の奥の扉が見えてくる。


「ここが……聖堂への入り口」


重厚な扉には奇妙な紋章が刻まれ、呪力が渦巻いている。


《この扉の向こうに“強い呪い”がある》


「分かってる。行くぞ」


アレフは黒剣を振りかざし、斬りつけた。


——轟音。


扉は真っ二つに割れ、奥の部屋の光が漏れ出す。


その瞬間、アレフたちの肌を刺す異様な冷気が走った。


澄んだ光を放つはずの聖域が、どこか湿った黒い瘴気に満ちている。


そこには。


「……!」


仲間全員が息を呑んだ。


壇上、白銀の装束を纏い、冷たく微笑む老人——


大神官セレーネ


そして、その中央に――


「……お前は……」


アレフは思わず息を呑んだ。


そこには、手枷と足枷に繋がれ、鎖で祭壇に固定された女剣士がいた。

次回タイトル:125話 災厄の魔女と堕ちゆく灰域の亡剣

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