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万年「F」ランク冒険者、呪われた装備で最強を目指す  作者: 秋栗稲穂


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123/156

123話 傷痕の街で交わす決意

――焦げた森の匂いが、まだアレフの鼻に残っていた。


魔樹と化した神官長を討伐し、“魔樹の種”を回収したアレフたち三人は、シノの魔竜の背に乗って豊穣の街へと急行していた。


風を裂く音が耳を打つ。

ライカはアレフの腰にしがみつき、震える声で呟いた。


「……お兄ちゃん、街、無事だよね……?」


「……大丈夫だ。俺の分身とジェームスたちが戦ってる」


アレフは言い切った。

不安を断ち切るように。


彼の胸の奥では、魔剣グラトニーが低く笑う。


《用が済んだら、小僧の分身は喰っていいのか?》


「黙れ。てめぇは黙ってろ」


《ふふ。珍しく焦っているな》


その軽口すら、アレフには街の惨状を想像させる材料になった。


シノが眼下を見下ろし、低く唸る。


「アレフ、街が……」


「……ああ」


煙が上がっていた。


遠くに見える豊穣の街。

収穫祭を祝うための広場は裂け、建物のいくつかは倒壊し、道には魔物の屍が積み上がっていた。


その中心で――

複製アレフと、ジェームスの闘気が交錯しているのが見える。


「急ぐぞ!!」


シノが大きく翼を広げ、街の中心へと急降下した。


複製アレフはグリードの鎖を振り回し、アスタロスは巨斧を振りかざし、デュラは魔導砲銃を連射し、ジェームスは戦場の中央で“教育的指導”の鉄拳を振るっていた。


空から降り立ったアレフ、ライカ、シノは、真っ先に仲間——いや、“もう一人のアレフ”が戦っていた中央広場へ向かった。


彼らが到着した時には既にスタンピードは止み、街を巡っていた怒号と悲鳴は、ようやく静まろうとしていた。

しかしそれは“終わり”ではなく、“後始末”と“再生”の始まりでしかない。


そこでは、五人が魔物の軍勢を押し返した余波がはっきりと残っている。


崩れた家々。

魔物の影に怯えて泣きじゃくる子どもたち。

絶え間なく怪我人を運び込む人々。

そして、魔物の残骸を焼き払う臭いが、空気に濃く残っていた。


広場の石畳には無数のひびが走り、爆ぜた魔力の跡が焦げついていた。

大剣を担いだデュラが仲間に指示を出しながら、周囲の警戒を続けている。

アスタロスは崩れた建物の瓦礫を軽々とどかし、下敷きになった人々を救助していた。

グリモワールは魔導を行使して治癒魔法の補助を行い、ジャンヌは大量の負傷者を休む間もなく癒していた。


そして——


「……本物のほうか」


ジェームスが、汗と土埃にまみれながらも凛としてアレフを一瞥した。 


「……やはりご無事でしたか、アレフ様」


彼は闘気を収め、汗を拭うように両手を払った。


「お帰りなさいませ」


「ジェームス……!」


アレフの後ろから、ライカとシノも続いた。


――その時。


聖女ジャンヌが駆け寄ってきた。

戦闘で汚れた白い衣を翻し、大きく見開いた瞳が二人のアレフを交互に映す。


「ア、アレフさんが二人、いる……?」


ジャンヌが、傷だらけの両手をぶら下げたまま、ぽかんとアレフを見ていた。


正確には、本物と複製の“二人のアレフ”。


アレフは苦笑する。


「ああ。嫉妬の鏡の能力で作った複製……“分身体”みたいなもんだ」


アレフは短く説明した。


「ぶ、分身体……? つまりもう一人のアレフ様、ですか?」


「そういうこった」


ジャンヌは、驚きで一瞬だけ目を丸くしたが——すぐに微笑んだ。


「……街を守ってくださって、本当にありがとうございました」


複製アレフは無言だったが、確かな誇りを宿して頷いた。


だが、その身体はすでに霧が溶けるように薄くなっていた。


「俺の役目はもう終わった。元の本物が戻った以上、俺は消えるだけだ」


複製アレフが、自分とは思えないほど落ち着いた声で言った。


「……すまねぇ、お前に任せっきりで」


「なに、同じ“俺”だろ? 礼を言われる筋合いはねぇさ」


複製アレフは笑い――

その身体が黒い光へと変わり始めた。


「……ありがとう」


ライカが涙をこぼす。


複製アレフは、消えゆく縁の中で小さな手に触れた。


「泣くなよ、ライカ。――お前を守るのは、本物のアレフの仕事だ」


そして、アレフの肩を軽く拳で叩く。


「役目は果たした。あとは頼んだぜ、“俺”」


黒い光は霧のように消え、風に溶けた。


ジャンヌは胸に手を当て、静かに祈りを捧げる。


残ったのは、一人のアレフ——そして、深い傷跡が刻まれた街だった。


アレフは静かに街並みを見渡した。


崩れた壁、焦げ付いた大地、泣きながら家族を探す人々。

その景色に、彼の脳裏に嫌な記憶がぶり返す。


——標的にされた異端者の街ベレティック。

——王都に持ち込まれ、国全体を揺るがした奇病。

——そして今、豊穣の街アバンダスの悲劇。


いずれも、中心に“聖浄の神殿”の影があった。


拳を握る。

骨の軋む音がした。


(ベレティックを……あの街を、救えなかった。

王都の病も、誰かの人生を奪った。

そして今回は、アバンダスが……)


怒りが背筋から全身に走り、憤怒のラースが黒い呪力を微かに漏らす。


「アレフお兄ちゃん……?」


ライカが不安そうに見上げた。


アレフは肩を上下させながら——低い声で言った。


「これ以上……聖浄の神殿を野放しにはできねぇ」


アレフの声は震えていた。

怒りだけではない。

悔しさ、無力感、恐怖……多くの感情が混ざっていた。


ジェームス、アスタロス、デュラ、シノ、グリモワール、そしてジャンヌまでもが、アレフに視線を集める。


「ここで終わりじゃねぇ。俺は……あいつらを止める。ベレティックや王都、アバンダスみたいな悲劇を、二度と起こさせねぇために」


アレフは天を見上げた。

聖浄の神殿——その本拠は、王都から遠く離れた辺境の街にある。


あそこには、大神官セレーネがいる。


「ここからは……“やられっぱなし”じゃ済まねぇ」


アレフの言葉に、仲間たちは静かに頷く。


新たな戦い——聖浄の神殿との決着が始まろうとしていた。

次回タイトル:124話 連鎖する狂気

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