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万年「F」ランク冒険者、呪われた装備で最強を目指す  作者: 秋栗稲穂


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122話 灰の底に芽吹く黒き種

『……ギァァァァアアアアアアア!!!!!』


眼が爛れ、瘴気が爆発する。


巨木の頂上部の呪果が、一斉に震え始めた。


「嫌な予感が……」


ライカが言った瞬間――


呪果が雨のように落ちてきた。


ボトッ! ボタッ! ボトボトッ!!!


地面にぶつかると同時に砕け、黒い蒸気が爆発し、瘴気の塊となる。


そして、その瘴気は――


瞬時に“魔物の形”へと変わっていく。


「くそっ、量が多すぎる!」


地上は、一気に魔物の大群が生まれ、数秒で埋め尽くされた。


「これじゃ、いくら倒してもキリがないのじゃ!」


巨木全体が揺れ、無数の枝が槍のように伸び、アレフたちへ向け突き上がってきた。


「避けるのじゃ!!」


シノが急旋回し、枝の束が空を裂く。

巨大な蔦が鞭のようにうねり、追尾してくる。


アレフが剣を抜き、黒炎を纏わせた。


「黒焔斬ッ!!」


斬撃が一筋の黒い軌跡を描き、伸びてきた蔦をまとめて焼き切った。


しかし――


「まだ来る!」


ライカが叫ぶ。


森全体が、まるで意思を持つように枝を伸ばし、毒を含んだ葉をばら撒いてくる。


シノは竜翼を広げ、空中で翻りながら蒼炎を纏わせた竜爪を薙いだ。


「魔竜焔爪ーードラゴン・フレイムクロウ!!」


蒼炎の炎が空を埋め尽くし、迫る枝の群れを焼き払う。


だが、すぐに再生して伸びてくる。


「こいつ、再生力が異常だぞ!」


アレフが歯を軋ませる。


「じゃがあれを倒さん限り、この悪夢は終わらぬ……」


シノが呟いた。


「わかってる。こうなりゃ、一気に焼き払ってやる」


「料理コンテストの仕切り直しというわけじゃな。焼きりんごならぬ、焼き呪果でも作ろうかの」


シノが冗談混じりに言うも、表情は焦りの色を見せていた。


そんな中ーー


「でも、ちょっとおいしそう」


飄々とそう答えるライカの様子に、アレフは思わず吹き出す。


《ダンジョンコアと一体化しているから。倒すには“核”を焼き切る必要があるわ!》


「核はどこだ?」


《恐らく……体の中心部。あの顔の下あたりよ》


神官長の残骸がぶら下がる位置だ。


「姫さん! 最高速で突っ込むぞ!」


アレフはすっかり冷静さを取り戻していた。


「了解したのじゃ!!」


「ライカ!!」


「うんっ!」


《雷霆・ライトニングヴォルト!!》


ライカが放った雷撃が一直線に守護者の中心へ。

正面の魔物を薙ぎ払い、守護者までの道を切り開いた。


「確か、料理の基本は火加減じゃったな……」


魔竜のシノが口を大きく開ける。

次の瞬間、


「魔竜炎ーードラゴン・ギガフレイムッ!!」


魔竜の口から灼熱の炎が放たれた。


神官長の成れの果ては、腕とも枝ともつかぬ触手を広げ、防御を試みる。

しかし、伸ばした枝はすべて焼き払われ、全身が炎に包まれる。

それでも尚、わずかに焼け残った部分から再生しようとしていた。


だが、その直後――


「火力が足りなかったみてぇだな、姫さん」


アレフが魔剣を構えた。


「黒竜煉獄刃――!!」


黒炎が竜の姿を取り、周囲の空気を焦がしながら巨大化していく。


「終焉の獄炎ッ!!!!」


黒炎竜が咆哮し、青い炎を噴き上げながら守護者めがけて突撃した。


炎が守護者の体を焼き、木の幹が裂け、呪果が破裂し、瘴気が空に散る。


その激流の中、アレフは神官長の“顔の残骸”を見た。


かすかに、笑っているように見えた。


「ここまでやるのかよ……聖浄の神殿」


アレフの怒りに“憤怒”の手甲ラースが歓喜震える。

アレフは黒炎をさらに強めて刃を振り下ろした。


青黒い閃光が、守護者の核を貫いた。


守護者が震え、瘴気が霧散し始めた。


巨木の幹が崩れ、呪果が一斉に萎み、地面の魔物たちが灰のように砕け落ちていく。


『………………セイジョウ……シンデン……エイコウ……アレ』


最後の声は、かつての神官長のものだった。


そして、巨木は倒れ、崩れ、森の中心に巨大な空洞だけが残った。


静寂。


森に、久しぶりに風の音が戻ってきた。


「……終わった、のか?」


「うむ……どうやら、呪果も生成が止まったようじゃ」


シノが魔竜から人型に戻り、肩で息をした。


ライカは胸に手を当て、震える声で言った。


「お兄ちゃん……神官長さん、ほんとうは苦しかったんだと思う……」


「ああ。だが、せめて……苦しみは終わらせてやれた」


アレフは魔剣を収め、森の中心に残った“灰”を見つめた。


そこには、確かに戦いの終わりがあった。


*


――陽光すら通さぬ森の中心に、静寂が戻っていた。


ダンジョン・コアと融合し、巨大な魔樹の怪物と化した神官長は、アレフとシノの“終焉の獄炎”によって完全に焼き尽くされた。

辺りには灰が積もり、焦げた木の匂いが漂っている。


「……終わったな」


だが、そう言い切るには何かが引っ掛かっていた。


――その予感は、すぐに形となる。


《アレフ。気をつけて。まだ何か……“残っている”》


「残っている?」


グリモワールの声にアレフは目を細め、灰へと歩く。


灰の奥――そこだけ、かすかに“脈打っている”影があった。


「これは……?」


アレフが膝をつき、灰を払おうとした。


ちいさな、“コツン”という硬質な音。


露わになったのは、手のひらに乗るほどの黒い種――

しかし、ただの種ではない。脈動し、黒い瘴気を漏らす異質な存在。


「種……?」


《違うわ、それは……“魔樹の種”。ダンジョン・コアの残滓よ》


「……持ち帰る価値はあるか?」


《わからない。けど、危険なのは確か》


その返答にアレフはわずかに息を吐き、手を伸ばす。


《そいつに迂闊に触れるな!!》


グラトニーの鋭い声が叩きつけられた。


しかしアレフの指先は、すでに種へ触れてしまっていた。


瞬間――


「くっ……!」


アレフの手から黒い呪力が“吸われる”感覚が奔る。


魔樹の種が震え、内部の“脈動”が一気に高鳴る。


次の瞬間、


――バキッ!!


亀裂が走り、黒い根がアレフの手首へと伸びてきた。


「おいおい、芽吹くのが早すぎるだろ……!」


アレフは地面を蹴り、後方へ飛び退く。


触れた瞬間の呪力を糧にし、種が一気に発芽していた。


黒い枝がうねり、無数の根が土から生え、

みるみるうちに“大人の男ほどの大樹”へ成長していく。


「ライカ、下がれ!」


アレフが魔剣を構えると、黒炎が刃へと渦巻く。


「黒焔斬ッ!!」


黒炎を纏った刃が、魔樹を縦に裂く。

内部から噴き出した瘴気を黒炎が焼き尽くし、魔樹は断末魔の悲鳴もなく灰となって崩れ落ちた。


ライカは震えながらも残る種を見つめる。


「……これ、全部、こんなふうに暴れるの……?」


《そいつは呪力を糧として成長すると言っただろう》


「……なら、俺には触れねぇ」


アレフの言葉に、ライカはこくりと頷き、外套を脱いでその布で種を包み込むよう慎重に拾い上げた。


グリモワールが低く囁く。


《持って帰るのは危険だけど……調べる価値はあるわ》


「判断は街に戻ってからだな」


アレフは空を仰いだ。


森の向こうで、まだ戦いの煙が上がっている。

複製アレフや仲間たちが、魔物の大群と戦っているはずだ。


「……行くぞ。ジャンヌたちが待ってる」


「うん!」


シノが魔竜の姿へと変わり、その背にアレフとライカが乗る。


翼が風を裂き、黒い森を離れる。


こうして収穫祭の悲劇は、ひとつの決着を迎えた。

だが、“魔樹の種”という新たな謎が残された。

次回タイトル:123話 傷痕の街で交わす決意

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