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万年「F」ランク冒険者、呪われた装備で最強を目指す  作者: 秋栗稲穂


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121/156

121話 呪果の森胎

彼らの戦いを、遠く離れた聖浄の神殿で見ている者がいた。


大神官セレーネ。

あの悪意の声が、静かに満ちる。


「第八の神器の誕生まで――あとわずか」


神殿の奥で、セレーネは静かに瞳を閉じた。


「さあ、アレフ・カース――」


呟きは甘く、毒のように美しい。


「あなたが手にした“大罪神器”……

 あれがどこまで呪いを育てるか……わたくしは楽しみで仕方ないのです」


聖なる光に包まれたはずの聖浄の神殿。


だがそこには、神聖さという名の仮面の下で――

人の欲望と狂気から生まれた“闇”が蔓延していた。


「始まりましょう……“神を創る”ための大いなる祭りが」


その声は静かで。


しかし、世界を震わせるほど確かな悪意を含んでいた。


その背後では、拘束されたリシェルが冷たい檻の中で眠っていた。


「灰域の亡剣……あなたには、前段階の被験体として働いてもらいますよ」


セレーネの声は甘く、それでいて氷のように冷たかった。


*


魔竜化したシノの背に跨り、アレフとライカは夜風を切り裂くように飛んでいた。


眼下には、闇に沈んだ豊穣の森。


もとは収穫をもたらす生命の森であったはずが、今や大地は黒く枯れ、木々は瘴気に蝕まれて腐り落ちている。あちこちに、魔物の軍勢が行進した痕跡が残っていた。


「……ひどいな」


アレフは呟いた。

腐臭と熱気。血と焦げた土の匂い。

夜風に混じるその臭いは、森全体が“別の何か”に書き換えられている証拠だった。


「この森……全部がダンジョンになってるみたい」


ライカが震える声で言う。


《間違いないわ。森そのものが“巨大なダンジョン・コアの枝葉”みたいに再構築されている》


耳元に、グリモワールの声が響いた。


「ダンジョン全体が……枝葉?」


《そう。中心に“幹”になる本体があって、そこから瘴気が流れ出し、森のすべてをダンジョンへと変えていく。だけど……さすがにこれは異常な速度だわ》


そんな会話の最中、アレフは背後で光る閃光を見た。

街の方向だ。


ジャンヌたちが死力を尽くし戦っている光だ。


――急がなければ。


アレフは歯を噛みしめた。


「姫さん!もっと速度を上げられるか!」


「任せるのじゃ!!」


魔竜シノが、翼の竜鱗を震わせると、竜気が渦を巻き、次の瞬間、凄まじい加速が起こった。


「うわぁぁぁ!? は、はやっ……!!」


ライカはシノの背にしがみつき、叫んだ。


黒い森が、線のように後ろへと流れていく。


そして――


「……見えてきた」


アレフの目が、森の中央部の異様な塊を捉えた。


その“塊”は、森の色が変わっている部分だった。


まるで巨大な花が咲いているようにも、巨大な木が根腐れしたようにも見える。

だが、そこには明らかな“生命の悪意”があった。


何本もの太い根のような触手が地表を走り、周囲の腐った木々に絡みついて養分を吸い取っている。幹のような巨大な柱は脈動し、光る瘴気が内部を流れている。


頂上には――奇妙な果実が無数にぶら下がっていた。


人間の顔ほどの大きさ。

黒く、僅かに揺れ、まるで呼吸をしているかのよう。


《あれは……呪果の実よ》


グリモワールの声が、凍えるほど冷たかった。


「……呪果?」


《呪力を養分にする魔樹が実らせる、最悪の“種”。中には濃密な呪いと瘴気が詰まっている。落ちれば砕け、呪力が溢れ、魔物へと変換されるわ》


「つまり、“魔物の生産工場”か」


《そういうこと》


アレフは深く息を吸った。


多くの実が今にも落ちそうに揺れている。

その度に、森の奥から新たな魔物の咆哮が響いてきた。


「ありゃあ……まるで、死ぬ気で魔物を生み出しているようじゃの」


シノが低い声で言った。


そのとき――


巨大な幹から“目”のようなものが開いた。


ギロリ。


瞳孔のない白い目が、空を飛ぶアレフたちを捉える。


次の瞬間、地鳴りが走った。


幹の根元が裂け、巨大な“口”が開いた。


そして……ついに現れた。


幹の中央が破れ、そこからぐにゃりと伸び出したのは――

無数の枝、蔦、肉塊、そして、かつて人間だった痕跡。


頭部らしき部分には、神官長の面影がわずかに残っていた。

だが、口は裂け、眼は落ち、頭蓋は植物の根に侵食されて形を失っている。


全身の80%以上が、魔樹と融合していた。


《あれは……確か聖浄の神殿の神官長ーー!? 彼が自分の身体にダンジョン・コアを取り込んだようね》


「……あれが、聖浄の神殿の神官長……」


「もう人とは呼べぬ、化け物じゃの」


シノが、怒りを滲ませた声で唸る。


異形は、腐敗した声で言葉にならない呻きを漏らした。


『……ぎ……ぎ……あ、あ……れ……ふ……』


「俺の名前を呼んだか?」


『……アラ……タナ……ジ……ジン……ギ……コウホ』


か細い人間の意識が残っているのかもしれなかった。


「新たな神器……候補……? 何のことだ……」


アレフが首をかしげていると、無数の呪果が揺れ、ぶるりと震えた。


その瞬間ーー


異形は完全に狂った。

次回タイトル:122話 灰の底に芽吹く黒き種

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