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万年「F」ランク冒険者、呪われた装備で最強を目指す  作者: 秋栗稲穂


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120/156

120話 死霊王の軍勢

街中心部。


アレフが森へ向かう間にも、街では激戦が続いていた。


「ジャンヌ様、危ない!!」


シスターが身を挺して斬撃を受け、血を吐く。


「お願い……死なないで……!」


ジャンヌは浄化光で治癒を施すが、魔物たちはその隙を狙い突撃してくる。


ジャンヌとシスターたちは、すでに満身創痍だった。


「はぁ……っ、はぁ……っ……聖なる光よ……皆を護りなさい……!」


ジャンヌが杖を地面に突き立てると、波紋のような光が街路に広がる。


しかし——


光の隙間を縫って突っ込んできた黒獣の牙が、ジャンヌの肩を裂いた。


「——ッ!!」


「ジャンヌ様!!」


血が飛び散る。

ジャンヌは顔を歪めながら、片手で傷を押さえ、再び光を放つ。


「まだ……倒れるわけには……いかない……!」


その時だった。


「道を開けろ!」


轟音と共に、アスタロスの巨大な戦斧が地面を叩き割り、数十の魔物を吹き飛ばした。


「お前ぇらは下がってろ!前は俺様が受ける!」


ジェームスは負傷者たちを抱えて素早く後退させる。


グリモワールは両手を広げ——


「《フレイム・バースト》!!」


炎の壁を生み出し、シスターたちを包囲する魔物の群れを焼き払った。


その光景を見て、ジャンヌは息を飲む。


「無事か?聖女さん」


目の前のアレフが複製であるとジャンヌは知らない。

それでも、アレフたちの姿を見て自然と涙がこぼれ落ちる。


「みなさん……来てくださったのでさね……」


彼らの登場は、ジャンヌが尽きかけていた気力を取り戻すには十分だった。


「……これが、一万の魔物の進軍ですか」


ジェームスが街を眺めながら低く呟いた。


本物のアレフは街を離れ、ライカとシノと共にダンジョン・コアの破壊に向かった。

ここに残るのは複製アレフ。そしてジェームス、アスタロス、デュラ、そしてグリモワール。


「さて……これより先は、芸術の領域ですな」


ジェームスはフォークとナイフを構え、にやりと笑った。


「複製である貴方に、アレフ様の力がどこまで再現できるのか……興味がありますね」


アスタロスが静かに問いかける。

その瞳は、複製アレフの内包する“呪力の総量”を見極めようとしていた。


「俺は俺だよ。複製だろうと、やるべきことは変わらない」


複製アレフは、胸の奥に湧く呪力を確かめながら死霊王のワンドを握った。


その時――。


街の外壁に集まった冒険者たちが、悲鳴混じりに叫び声を上げた。


「ま、また来たぞ!! 森の方角に……魔物の津波が……!!」


「う、嘘だろ……百や二百じゃねぇ……!?」


大地が震える。


揺れる。


踏みしめる無数の足音が、地盤そのものを圧迫し、街の空気を震わせる。


森の影が揺れ、やがて――“地平線が動いた”。


それは全て、魔物の群れ。


ゴブリン、オーガ、ヘルベア、マンティコア、森林系の魔獣すべてが、怒涛のごとく押し寄せてくる。


冒険者たちの顔色は一斉に蒼白となった。

恐怖と戦意がないまぜになり、いっそ泣き出す者すらいた。


だが――複製アレフは一歩、前へ出る。


「――始めようか」


地面に漆黒の魔方陣を展開させた。

呪力の奔流が、ワンドを中心に世界へ溢れだす。

霊気が渦を巻き、空気が霜のように白く染まり――。


「死霊王のワンド、解放――」


世界が、震えた。


次の瞬間。


無数の死霊(レイス)が、地面から湧き上がるように出現した。

ぼろ布のような亡霊、骨だけの戦士、獣型の亡霊……形も性質も多種多様だが、いずれも魔物の大軍に十分対抗できる規模だった。


死霊の数は――百、二百……瞬きする間に“千”を超えた。


「ほう……複製とは思えない力です。お見事」


ジェームスの声が震える。

単純な攻撃量では魔物の群れが上だ。だが……死霊は倒れても、呪力が続く限り何度でも蘇る。


再び魔物の奔流が、街へ到達した。


――激突。


「ガアアアアアッ!!」


猪型魔獣ハルボアが突撃してきた瞬間、

複製アレフの指揮で動く死霊兵たちが一斉に槍を構え、受け止める。


死霊は吹き飛ばされても、形を失っても、即座に復元。


そして、さらに別の死霊がハルボアの喉笛を貫いた。


――しかし。


「くっ……さすがに、この数は……!」


複製アレフの額に汗が滲む。

“死霊王のワンド”は確かに無限に死霊を呼べるが、維持には膨大な呪力を消費する。

人間の肉体では負担が大きい。


そこに――。


「アレフの負担を減らす」


デュラが駆け出した。


「瘴気連弾ッ!」


機関銃のように射ち出された瘴気の弾丸が、押し寄せる魔物たちを塵に変えていく。


「やるじゃねぇか……デュラの旦那。俺様も負けちゃいられねぇぜ!」


アスタロスが戦斧を振り上げ、地面を蹴った。


「破衝烈斬ッ(クラッシュ・バースト)!!」


戦斧を地面に叩きつけることで衝撃波を発生させる。

その威力は本来の彼女の姿ーーミノタウロスに相応しい破壊力だった。


「ずいぶんと楽しそうだな……」


デュラが腕を回し、大剣を構えた。


「なら我も行く――潰れろッ!」


瘴気を纏わせた大剣の一撃ーー


地面が陥没する。

その一撃はまるで隕石の衝突のようで、前衛の魔獣が一列まとめて粉砕された。


「死霊の維持は私が見るわ。複製アレフ君。無茶はしないで……」


グリモワールが複製アレフの側に並び、呪術陣で補助をかける。


「《呪力循環》――《不死者の鼓動》」


死霊の活動効率が上がり、複製アレフにかかる負担がわずかに軽くなる。


「……助かる」


複製アレフは息を整え、再びワンドを掲げる。


魔物の数はまだまだ尽きない。

終わりなき激闘――だが、街を守るため後退する選択肢はない。


その時、空に巨大な影が走った。


「――マンティコア!? 森にあんな魔物いたかよ!」


冒険者の叫びとともに、マンティコアが咆哮しながら空を横切った。


人面、ライオンの体、コウモリのような翼、そしてサソリの尾を持つ魔物。

毒や鋭い棘を扱い、凶暴性が高いことで知られている。

本来なら森林地帯には存在しない高位種。

ダンジョン化の影響で、強制的に召喚された個体だ。


「クソッ……あんなのまで混じってるのかよ……!」


冒険者たちの声が震える。


しかし――。


「それくらいなら問題ない」


複製アレフがつぶやいた瞬間、


「《霊王騎士団(ファントム・ナイツ)》――出ろ」


死霊の中から、鎧を纏った精鋭騎士隊が姿を現す。

高位の死霊に分類され、空中戦にも対応可能な“霊騎士”たちだ。


「飛べ」


一斉に黒い羽を広げ、霊騎士たちが飛竜へ突撃する。


マンティコアが炎弾を吐き出す――が、死霊は燃えない。

形は崩れても即座に再生する。


霊騎士たちがマンティコアの翼を斬り裂き、喉元へ槍を突き立て――。


「グォアアァァァッ!!」


マンティコアは地面に激突し、死霊の群れに飲み込まれていった。


「連激ーメイン・ディッシュ!!」


ジェームスが高速で繰り出す、フォーク&ナイフの連続攻撃。

すでに彼一人で数百体は倒している。


「……しかし、数が減らん。まるで無限だな」


デュラの声が沈む。


だが、それは事実だった。


敵は“ダンジョン・コアが自動生成”した魔物の軍勢。

核を破壊しない限り、生成は止まらない。


街を守る彼らは時間稼ぎにすぎず、最終的な勝敗は森へ向かった本物のアレフたちに託されている。


一時間後。


戦場は血と炎と霊気が渦巻く地獄と化していた。


街門前には魔物の死骸が積み上がり、死霊の群れも半数以上が再召喚された存在。

複製アレフの呪力は限界に近かった。


「……っ、はぁ……!」


肩が上下し、魔力の枯渇と呪力の反動が混じり合って視界が歪む。

複製体とはいえ、人間の器の限界は存在する。


だが――まだ倒れられない。


「アレフ殿、下がってください。次はわたしたちがやる」


ジェームスが背後から声をかけた。

彼のタキシードは血飛沫と煤で汚れていたが、戦意は一切衰えていない。


「俺が倒れたら……死霊の維持が……」


「グリモがいる」


アスタロスが言った。


「お前が無理をすれば、本物のアレフ殿に迷惑がかかる」


デュラが大剣を肩に乗せ、にやりと笑った。


「ここは任せろ。お前は指揮だけしていればいい」


複製アレフは歯を噛みしめ――。


「……わかった。なら……」


ワンドを高く掲げ、最後の呪力を絞る。


「――《冥府の軍勢(ゲヘナ・レギオン)》!!」


大地が裂け、地獄の底から死霊獣・死霊騎士・巨大な亡霊兵器までもが出現した。


複製アレフが扱える死霊術の“最終階位”。

一時的に呪力を物理法則から切り離して強制的に召喚する、禁断の術式。


「これで……少しは持つ……!」


魔物の大群と、死霊の大軍が激突する。

まさに戦争――いや、“世界の終末”そのものだった。


戦線の中央で、複製アレフは、ふと遠く森の方向を見つめた。


(頼む……本物の俺――あとは任せた)


そして――


街での激闘は、なおも続いていく。

次回タイトル:121話 呪果の森胎

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