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万年「F」ランク冒険者、呪われた装備で最強を目指す  作者: 秋栗稲穂


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116話 料理の基本は火加減と愛情

収穫祭で賑わうアバンダスの大通り。


祭りらしい香ばしい匂い、トウモロコシを焼く音、どこかで鳴る笛や太鼓の音が溶け合い、街は普段以上に活気に満ちていた。


「よし、受付はあっちだな!」


胸を張るアレフに、ライカはまだ不安げに袖をつまむ。


「アレフお兄ちゃん……ほんとに大丈夫?」


ライカが心配そうに見上げる。


「まかせとけ。最強の料理を作ってやる」


「“最高”の料理じゃなくて……“最強”の料理なんだね……」


ライカの微妙な笑いに、ジェームスは優雅にうなずく。


「料理においても最強を目指す……さすがアレフ様ですな。しかし、料理の基本は火加減ですぞ?」


彼は美しい手つきで、受付でもらった食材を確かめていた。

鱗のついた川魚、祭り名物の黄金カボチャ、香草、色鮮やかなスパイス。

それらの食材をエレガントに包丁で捌いていく。


シノも腕を組み、胸を張る。


「ふむ、良いことを聞いた。火の扱いなら、わらわの得意とするところじゃ!」


シノが腕を組み、胸を張る。


「……嫌な予感しかしねぇ」


アレフは眉をひそめた。


それから間もなくして、

受付を済ませた四人は、ステージ脇の控室で各自の調理台へと向かった。

各自が持ち場につき、調理がスタートする。


まずシノが鉄板に野菜を並べ、胸を反らした。


「ふはは……見ておるがよい。わらわの竜の炎でこの食材を焼き上げてくれるわ!」


「違う違う違う! 魔導コンロを使うんだよ!」


アスタロスが遠くから叫ぶも、間に合わない。


「竜炎――ドラゴン・フレイム!!」


ドオォォォォン!!


ステージが一瞬白光に包まれ、風圧に観客がよろめく。

次の瞬間、鉄板に乗せられた肉は完全なる黒炭へと昇華した。


「……食材を消し炭にしてんじゃねえッ!」


アスタロスが酒を吹き、絶叫する。


「ふむ、火加減とは……実に奥が深いものじゃのぉ」


珍しく肩を落とすシノ。

その背中はしょんぼりと丸まり、観客たちからは同情の拍手が送られた。


その隣では、


「次は俺の番だな。火加減なら、俺だって負けやしねぇ」


アレフが焦げた鉄板の横で胸を張る。

食材を鍋に入れ、手をかざした。

次の瞬間ーー


「黒炎ッ!!」


ズオオオオオッ!!


鍋全体が禍々しい黒い炎に包まれ、

周囲の参加者たちが悲鳴を上げて飛び退いた。


「あんたらの火加減の概念はどうなってんだ!!」


アスタロスが頭を抱える。


数分後――


鍋の中から、不気味な紫の湯気が上がった。


「……完成だ」


アレフが得意気に見せた瞬間、


「これ絶ってぇ呪われるやつ!!」


アスタロスが青ざめた声で悲鳴を上げた。


鍋の中では、毒々しい色の……なにかが蠢いている。


「しょ、食材が動いとるように見えるんじゃが……?」


シノも後ずさる。


魚が紫色に発光し、骨が勝手に動き、スパイスが四方八方にはねていた。


「アレフお兄ちゃん……料理に“黒炎”を使っちゃダメだよ」


ライカの正論が全力で突き刺さった。


審査員の判定。


「……ええと……これは……判定不能ですね」


「双方、失格といたします」


「ま、当然じゃな……」


「くっ……!!」


《そう落ち込むな、小僧。我には上質な馳走だ》


「………」


二人は頭から湯気を出しながら控室へと下がった。


「元気出して、お兄ちゃん!

 僕がアレフお兄ちゃんの分まで頑張るから!」


ライカは大きな鍋にカレーを作り始めた。

大きな鍋に向かい、丁寧に食材を切っていく。

香草、野菜、肉、そして祭り特製のスパイス。


「やっぱりカレーは辛さが決め手だよね……?」


そうつぶやきながら、

ライカは最後の仕上げに、ジェームスにもらった“デンジャラス・スパイス”の瓶を取り出した。


“危険物につき、多用厳禁”


ラベルには小さくそう書かれている。


(以前ジェームスさんからもらった……超激辛スパイス……! これをいっぱい入れれば絶対美味しい……よね?)


どばぁぁぁぁ!


アレフが遠くから叫んだ。


「おいライカ! 今変な音しなかったか!?」


「大丈夫だよー!!」


大鍋の表面がぼこぼこ波打ち、不穏な赤煙が立ち昇っている。


数分後。

審査員がスプーンを口に運んだ。


「…………?」


「………………」


「…………ッッッ!!??」


審査員たちは椅子ごと吹っ飛んだ。

全員、泡を吹いて悶絶した。


「え、ええっ!? 言葉が出ないほど美味しかった……ってこと?」


ライカが満面の笑顔を見せる。


その横ではアレフが頭を抱えていた。


「違うわ、ライカ。あれは声が“出ない”んじゃない……”出せない“のよ」


グリモワールが混乱しながらフォローする。


そんな地獄絵図の中、ジェームスは優雅だった。


「さて、そろそろ仕上がりますぞ」


彼の鍋は澄んだ出汁の香りを放ち、黄金カボチャの甘み、香草の香り、川魚の旨味が調和している。


「具材は大地の恵み。味付けは……聖女様が育てた愛情でございます」


彼は微笑み、別鍋で作った特製ソースを注ぎ込んだ。


「――完成でございます」


湯気が立ち上り、心地よい香りが会場全体に満ちる。


審査員が一口、口に運ぶ。


「……っ……う……うまい!!」


「体が……温まる……これは……」


「祭りの味だ……!」


会場からどよめきが起きた。


結果は――


他の出場者をも寄せ付けることなく、ジェームスの圧勝だった。


観客から歓声が上がる。


「優勝おめでとうございます、ジェームスさん!」


ジャンヌが駆け寄る。


「いえいえ。聖女様が愛情を込めて育てた食材のおかげでございます。

 料理において、愛情は最大のスパイスでございますからな」


ジャンヌは顔を赤くしながら微笑む。


「アレフが込めたのは“愛情”ではなく、“呪い”であったからな」


デュラがつぶやく。


「うるせぇ!」


アレフは横でむすっとしていた。


「では、こちらが優勝賞品になります」


運営が持ってきたのは、美しい銀の瓶に入った青い液体。


ラベルには『品種改良魔導液』とある。


「品種改良……?」


「はい。農作物や家畜の性質を変え、より強く、より豊かに育てるための魔導具です」


それは、豊穣の街の人々の生活がいっそう豊かのものになるように……という想いから作られたものだった。


「ただし……生物・非生物を問わず“性質”を変える力がありますので、取り扱いにはご注意を」


「性質を……変える?」


アレフが眉をひそめる。


「さぁ、何が起きるんでしょうね……ふふ」


グリモワールが妖しく笑った。


「ま、農業には興味ねぇし、関係ねぇだろ」


アレフは鼻で笑った。


しかし、彼はまだ知らない。

この魔導液が後に、彼らの運命を左右することをーー

次回タイトル:117話 第八の器――聖浄神殿の暗黒計画

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