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万年「F」ランク冒険者、呪われた装備で最強を目指す  作者: 秋栗稲穂


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115話 収穫祭ーー料理コンテスト開幕

大地は黄金色に輝き、麦畑の波が風に揺れる。

果実は枝から重たげに垂れ、通りには花冠を編む子供たちの笑い声が響いていた。


「……懐かしい匂いだな」


アレフが呟くと、ライカが隣で深呼吸をする。


「うん! バビロンは綺麗だったけど、こっちは“生きてる”って感じがするね」


確かに、魔導で造られた空中庭園の無機質な美とは違い、アバンダスの空気は温かい。

どこか懐かしく、心を和ませる香ばしい匂いが満ちていた。


通りを歩く人々は、皆、明るい顔をしていた。

広場には色とりどりの旗がはためき、通りの両脇では出店が並ぶ。

果物、焼き菓子、香辛料、そして揚げたての串焼き。

そのどれもが“収穫祭”を告げる光景だった。


「ほう、もう祭りの準備が始まっているようですな」


ジェームスが感心したように腕を組む。

銀髪の執事は上品な笑みを浮かべ、周囲の喧噪を楽しんでいた。


「この街はやはり活気がありますな。まるで、世界がまだ祝福に満ちていた頃のようでございます」


「俺たちがバビロンの上で苦戦してる間に、地上じゃ祭りの支度ってわけか」


アレフが苦笑いを浮かべる。


「当然じゃの。そもそも、わらわらが出かける前から『今年は大豊作』と聞いておったからの」


竜人の少女――シノが尻尾を揺らしながら笑った。


「戦いの後の祭りほど、格別なもんねぇ」


「うふふっ。お友達とお祭りに行く日が来るなんて……。わたくしは、なんて幸せ者なんでしょう」


柔らかな笑みを浮かべるのは聖女ジャンヌ。

彼女の金髪が陽光を受け、白い法衣の裾を軽やかに揺らしていた。


それから数時間後――


アバンダスの街は本格的に“収穫祭”の空気に包まれていた。


外は夕陽で朱色に染まり、

街の鐘が高らかに鳴り響く。


《アバンダス収穫祭》――豊穣を祝う、人と神の祭り。


アレフたちはその喧騒の中に歩み出した。


誰もが笑い、踊り、祈る。

戦いを越えた者たちの背に、陽の光が温かく降り注ぐ。


アレフは空を見上げて呟いた。


「――俺は、まだ喰われちゃいねぇ」


その声は祭りの音にかき消されたが、

隣を歩くライカには、確かに聞こえていた。


「……だね。だから、これからも――一緒に行こうね、お兄ちゃん」


アレフは小さく笑い、頷く。



豊穣の風が吹き抜け、通りに灯がともり始める。


広場の真ん中では、木製の舞台が組まれ、色鮮やかな布が風に舞う。

大樽からは酒が注がれ、子どもたちはリンゴ飴を振り回して走り回る。

まるで街全体が一つの宴のようだった。



「見て見て! この果実飴、すっごくきれい!」


「あら、美味しそうですねぇ……」


「ライカよ、おぬし……それを食べた後に次のを食べるのじゃな?」


シノは手に持った串焼きをすでに半分平らげている。

ジャンヌは祭りの雰囲気にすっかりほぐれ、普段の厳かな聖女としての気配は薄れ、同年代の少女らしい笑顔を見せていた。


「……この街が、こんなに賑やかになるなんて……嬉しいですね。

 街の人たちの努力が実りますように……」


「ジャンヌよ、そこは“実ってる”から収穫祭なんじゃがな?」


「そ、そうでした……!」


そんなジャンヌを見て、ライカとシノは思わず微笑んだ。

しかしそれも束の間、彼女たちは再び走り出す。


「ほら見て! 焼きトウモロコシだよ!」


「おおっ、このソースは珍しいのじゃ! 妾も食べるぞ!」


ライカとシノが次々に出店へ飛びつく。


「わたくしはこのハーブパンを……あ、こちらの果実酒も良い香りですね」


ジャンヌまで嬉しそうに袋を抱えている。


「……おい、こいつら、完全に観光モードじゃねぇか」


アレフが呆れると、アスタロスが隣で豪快に笑った。


「いいじゃねぇか! 祭りは食って飲んでナンボだぜ、兄貴!」


既に片手に酒樽を抱え、上機嫌そのものだ。


「なるほど……景気が良いと、心だけでなく腹も満たされるというわけか。景気、だけに?」


デュラが真顔で言う。


「おい、本当にそれで良いのかお前……」


アレフが額に手を当てる。


一方、グリモワールは魔導具の出店を見て回っていた。


不思議な水晶、魔力を記録するペン、魔法陣を刻んだ指輪――

どれもが冒険者垂涎の品だ。


「アレフ君、見て。この杖、魔力の流れを三倍効率化できるらしいわ」


グリモワールの瞳が好奇心に輝く。


少し離れた通りでは、ジェームスとデュラが武具店を見ていた。


「この剣、重心の取り方がいい。しかし、刃が甘いですな」


「人間の鍛冶にしては悪くない。……修正すれば我にも扱える」


二人のやり取りに店主が冷や汗をかく。


「この鍋は面白いですね……沸点が任意に調整できるとは」


「魔導具としては粗造だが、武具で言えば……使い勝手はいいな」


二人は半ば職業病のような視点で祭りの道具を吟味していた。


――それから暫くして。


通りを歩いていたアレフたちは、人だかりを見つけた。

賑やかな声と湯気が立ち上る。


「なんだ? 喧嘩でも始まったか?」


「どうやら、料理の催しのようですな」


ジェームスが腕を組み、群衆の隙間から覗き込む。


広場の中央では、数十人の料理人が鍋や包丁を手に競い合っていた。

掲げられた札には――


《豊穣祭特別企画・料理コンテスト》 の文字。


「ほう、料理対決ですか……。 優勝者には……“高級魔導具”進呈、とありますな」


アレフが目を細める。


「魔導具か……どんなものかわかるか?ジェームス」


「どうやら、中身は“お楽しみ”といった趣向のようです」


「……もしかしたら、役に立つものかもしれねぇな」


アレフは少しのあいだ顎をさすり、やがて口角を上げた。


「よし、俺たちも出場する!」


「ええっ!?」


ライカが目を丸くする。


「料理って……アレフお兄ちゃん、そんなの出来るの?」


「できるかできねぇかじゃねぇ。やるんだよ!」


その勢いに、シノが尻尾を振って笑った。


「それは面白そうじゃの。妾も料理には興味があったのじゃ」


「なら僕も出る! アレフお兄ちゃんに美味しいものを作ってあげたい!」


ライカが元気いっぱいに両手を上げる。


「ジェームスは当然参加させるとして……牛野郎! お前はどうする?」


「俺様は飲み食い専門だ!」


アスタロスは即答した。


アレフが振り向きかけて――


「デュラは……すまん、なんでもねぇ」


「フン」


デュラは無表情に腕を組む。

思念体のデュラには食事という概念がない。


「わたしも参加したいけど、味覚がないんじゃ無理ね……」


グリモワールが肩を落とす。


「よし、じゃあ俺、ライカ、シノ、ジェームスの四人で挑むか」


「ふむ。腕が鳴りますな」


ジェームスが微笑んだ。


こうして、アレフたちは――

《アバンダス収穫祭・料理コンテスト》に参加することとなった。


祭りの喧騒は夜へと移り、屋台の灯りが星のように瞬く。

アレフたちは笑いながら広場を後にした。


――戦いを終えた英雄たちが、今度は“鍋と包丁”で挑む時が来たのだ。

次回タイトル:116話 料理の基本は火加減と愛情

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