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万年「F」ランク冒険者、呪われた装備で最強を目指す  作者: 秋栗稲穂


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108話 虚栄王アザゼル(後編)

爆風が吹き荒れる中、各々が“己の影”と対峙していた。


ライカの分身が光魔法を放ち、本物のライカの防御壁を粉砕する。


「な、なんで……同じ魔法なのに……押し負けちゃう!?」


「模造体は“呪い”で強化されているわ!」


グリモワールが叫ぶ。


「貴女の魔力を反転させ、己の糧にしているのよ!」


その瞬間、分身の放った雷撃がライカを襲う。

シノが即座に割って入り、竜鱗盾で受け止めた。


「ッ……く、こやつら……攻撃が重い!」


アスタロスが雷鳴轟斬を放つも、自身の分身が同じ技を鏡写しに返してきた。

二つの雷がぶつかり合い、空間が軋む。


「このままじゃ、じり貧ですぞ!」


ジェームスが叫びながらも、フォークとナイフで敵の喉元を狙う。


「――ライト・ミート!!」


だが鏡像の執事も、まったく同じ構えで迎え撃つ。

両者の刃がぶつかり、静寂が爆ぜる。


「……どうするのじゃ、アレフ!?」


シノの叫び。


アレフは答えず、己の“影”を睨み据えた。


目の前の分身は、完璧な“自分”だった。

同じ呪い、同じ技。

いや――“より純粋な暴食”を宿している。


黒焔が蠢く。

鏡像のアレフも同じように黒剣を構えた。


「終焉の一閃――!」


二つの黒炎が交差し、空間が割れる。

しかし、アレフは直感した。

――このままでは勝てない。


その時、ライカの悲鳴が響いた。


「シノ! やめてっ、それは……!」


振り向くと、シノの分身が本物を押さえ込み、胸に雷撃を叩き込もうとしていた。


アレフの眼が閃く。


「……くそっ!」


左手の呪具――“処刑人のダイス”が共鳴する。

アレフは即座にそれを取り出した。


「悪趣味な代物だが……今は借りるぞ」


赤黒い光が溢れ、二つのダイスが宙に浮かぶ。


「運命の審判を――開始する。」


宙に舞う二つの黒いダイス。

表面には、数字の代わりに血のような刻印――処刑の紋が刻まれていた。


アレフの掌で、それはゆっくりと回転を始める。


「“処刑人のダイス”――」


彼の瞳が、赤黒く燃え上がる。


「――運命を、裁け。」


その声に呼応し、塔全体が震えた。

床に張り巡らされた魔方陣がせり上がり、七人の影を長く引き裂く。

数百の鐘の音が一斉に鳴り響いた。


「出目が……六と五よ!」


グリモワールが読み取る。


「十一!?――《断罪のギロチン》!!」


空間が裂け、天より巨大な刃が現れた。

それはまるで、神の手による裁きの象徴。

黒き刃が閃光を放ち、鏡像のアレフを――断ち斬る。


だがそれだけでは終わらなかった。

ギロチンの衝撃波は、鏡像たちすべてを巻き込み、粉砕する。

破片となった虚像が消えるたび、虚空が悲鳴を上げる。


「……全滅、か」


アスタロスが斧を肩に担ぎ、口元を歪める。


「いや、まだだ」


アレフの視線は、天上の玉座に向けられていた。


光の彼方から――虚栄王アザゼルが、悠然と立ち上がる。


「素晴らしい……実に見事だ。己の影を断つことで、己を完全にした。

 だが、その完全こそ“虚栄”だと、まだ気づかぬか?」


彼の翼が広がるたび、崩壊した空間が再構築されていく。

倒した鏡像が、再び立ち上がる。

いや――それは今度、**仲間たちの姿を奪った“偽者”**だった。


「っ……ライカ!?」


「違うっ、それは――!」


本物のライカが叫ぶ間もなく、偽の彼女が光弾を放つ。

防御が間に合わず、ライカは弾き飛ばされた。


「ライカぁぁッ!」


シノが飛び出し、竜爪で偽者を貫く。だが、貫いた身体は霧散し――逆に背後から雷撃を浴びた。


「ぐぅっ……!」


「シノ殿!」


デュラが叫び、黒馬を走らせる。だがその背後にも“偽デュラ”が現れ、大剣を振り下ろす。


「……これは、まずいですな」


ジェームスの顔が苦く歪む。


「影が、仲間の姿に変わり、感情を揺さぶる。完全な“精神戦”ですぞ」


アレフの拳が震えた。

――精神の呪い。虚栄王アザゼルは、仲間との絆そのものを試している。


「なら――その絆で、叩き潰す。」


彼の全身から黒焔が噴き上がる。

憤怒・強欲・傲慢・暴食――

四つの呪いが共鳴し、周囲の光景が一瞬で黒く染まる。


グリモワールの瞳が驚愕に見開かれた。


「アレフ君、それ以上は危険よ! 呪いが――!」


「喰らえばいい……」


短く、低く、強い声。


「俺は“暴食”だ。喰らって、呪いを超える」


黒炎が形を取り、巨大な竜の顎となってアレフの背に出現する。

その姿は、まさに“黒竜”。

炎の咆哮が塔を揺るがした。


「シノ! ジェームス! デュラ! ライカ! 全員、合わせろ!」


「了解!」


仲間たちが一斉に動く。


――氷竜雷覇ッ!!


ライカの氷槍嵐が天を覆い、アスタロスの雷鳴轟斬が閃き、シノの竜雷閃がそれを導く。

三重奏の光が螺旋を描き、偽者たちを一掃する。


「ジェームス! 仕上げだ!」


「承知っ――!」


「メイン・ディッシュ!!」


ナイフとフォークの連撃が残滓を切り裂き、空気が震えた。


その中央で――アレフの黒剣が、真っ直ぐにアザゼルを狙う。


「……面白い。ならば、我が“虚栄”の力をも喰らってみせよ。」


アザゼルの周囲に数百の“顔”が浮かび上がる。

それぞれが嘲笑し、嘆き、崇拝し、絶望を叫ぶ。

虚栄とは――他者の視線に依存する存在の呪い。

その渦がアレフたちを飲み込む。


「くそっ……身体が、動かねぇ!」


「幻覚です!」


グリモワールが叫ぶ。


「虚栄は、精神を侵す!」


ライカが結界を張るが、圧力が強すぎる。

仲間たちの意識が次第に溶かされていく。


――誰かの声が頭に響いた。


《お前は、誰のために戦っている?》


(誰の、ため?)


アレフの心に、一瞬の空白。

だが、その中心で――一つの“祈りの声”が聞こえた。


――負けないで、アレフ。


それは、遠い地で祈るジャンヌの声だった。

小さな祈りが、魂を引き戻す。


「……ああ、俺は――まだ、立ってる!」


黒炎が爆ぜる。

アレフの身体から、五つ目の呪印が浮かび上がった。


「《暴食・終焉形態》――解放。」


黒竜が咆哮を上げ、魔剣が唸る。

彼は再び“処刑人のダイス”を投げ放った。


今度は――

六と六。


「出目、十二……! 最上級の処刑具です!」


グリモワールの声が震える。


「《断罪の輪舞(ロンド・オブ・ギロチン)》――!!」


アレフの周囲に十二の刃輪が出現し、時計のように回転を始める。

一つ一つが魂を切り裂く“審判”の刃。

それがすべてアザゼルを取り囲む。


「終わりだ――虚栄王」


「愚か者――この私が……神を名乗る私が……!」


「神を名乗ることが虚栄だって言ってるんだよ」


黒剣が振り抜かれる。

十二の刃輪が一斉に収束し、巨大な断罪の光となる。


アザゼルの黄金の仮面が軋み、無数の瞳が恐怖に染まる――神であるはずの存在が、初めて“死”を理解した。

轟音と共に、アザゼルの身体が崩壊した。


「我が……姿こそ……永遠……だ……」


最後の呟きが消え、白い仮面が割れ落ちる。


アレフは膝をついた。

黒炎が収まり、塔を満たしていた闇が薄れていく。


「……やった……の?」


ライカが震える声で問う。


「……ああ。終わった」


デュラが静かに剣を下ろし、ジェームスがトレイを閉じた。


シノは空を見上げ、アスタロスは無言で頷く。

そしてグリモワールが歩み寄り、アレフの肩に手を置いた。


「よくやったわ、“暴食の子”。

 あなたが喰らったのは、呪いだけじゃない――“神の虚栄”そのものよ。」


「……皮肉だな」


アレフは微かに笑う。


「喰って、初めて分かった。“完全”なんて、どこにも存在しないってことが」


静寂。

塔の天蓋が音もなく崩れ、光が差し込む。


そして――彼らの前に、新たな扉が開いた。

次回タイトル:109話 浮遊大陸ーーバビロニア王国

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