106話 運命を喰らう者
「プライドッ!!」
傲慢の鎧がアレフの呪力を吸い上げる。
魔剣に傲慢の呪いを纏わせることで、テクスチャの銀の糸に作用する刃となる。
「黒破斬・傲岸不遜の一閃!!」
アレフが糸を斬り裂きながら前進する。
「シノ! 今だ!」
アレフがテクスチャの動きを止めている間に、シノが竜人形態で躍り出る。
「竜爪ー裂斬!!」
蒼炎を纏った爪が、テクスチャのローブを引き裂く。
しかし、銀の糸が瞬時に集まり、ローブの破れを修復してしまう。
テクスチャは、わずかに苛立ちを見せた。
「無様に抗うな... 《運命の結び目》」
宙に浮かぶ巨大な織機が、急激に魔力を凝縮し始める。
アレフは本能的に危険を察知する。
「ライカ! 最大の防御魔法を!! デュラ! 威圧で動きを止めろ!」
ライカは、結界が限界に達し崩壊した直後、全身の魔力を込める。
「ルミナ・シールド!!」
精霊たちの加護を借りた、光り輝く巨大な防御壁が出現する。
デュラは、黒馬の上で首を抱えながら、呪力を帯びた眼光をテクスチャに集中させた。
「威圧の眼光!!」
テクスチャの動きが一瞬、硬直する。しかし、その顔に宿る呪いの仮面が、デュラの呪力を弾き返す。
「無駄だ。我の呪いは、『運命』。お前たちの『生』の呪いに勝る」
そして、織機から放たれたのは、一本の虹色に輝く、極太の糸。
「《終焉を告げる虹の経糸》!!」
その糸は、防御壁ごとアレフたちを貫かんとする。
虹色の糸が触れた場所は、『存在そのものが消滅する』という絶対的な呪いだった。
ルミナ・シールドが虹色の糸に触れた部分から、光の粒となって消滅していく。
「マズイ!!」
アレフは、防御壁が完全に破られる直前、ジェームスとアスタロスを縛る金色の糸を指差した。
「グラトニー!! 喰らえ!!」
「技能喰い(スキルイーター)・簒奪の一閃!!」
アレフは、強欲の指輪の鎖を魔剣に巻きつけ、テクスチャが二人を縛るために放った『厄災の紡糸』の呪力を、根こそぎ吸い取る。
バシュッ!!
ジェームスとアスタロスを縛っていた金色の糸が、魔力を失い、ただの糸になって地面に落ちる。
「ジェームス、アスタロス! 攻撃に回れ!」
そして、アレフは自身の身を守るため、虹色の糸に向けて魔剣を突きつけた。
「グラトニー!やつの呪力を喰らえ!」
凄まじい呪力の奔流が、アレフの魔剣に流れ込む。
虹色の糸の呪力はあまりにも強大で、アレフの右腕の血管が悲鳴を上げる。
(これだけの呪力……すぐには全て喰らい尽くせない...! だが、一部でも喰らえば...!)
その時、グリモワールが、力の限界を超えて叫んだ。
「ライト・パルス!!」
虹色の糸がアレフに直撃する直前、グリモワールの光弾が、虹色の糸が通る軌道上の『織機』に一瞬だけ直撃する。
「カタコト...!」
織機がわずかにたじろぎ、虹色の糸の勢いが、ほんの一瞬、減速した。
その一瞬が、勝敗を分けた。
アレフは、虹色の糸の呪力の半分を喰らうことに成功。
魔剣が虹色に輝き、その場に凄まじい呪力が炸裂する!
「くっ...!」
アレフは片膝をついたが、死の呪いは無効化された。
そして、虹色の糸は、アレフの真横を通過し、背後の壁を消滅させた。
テクスチャは、初めて驚きの感情を表した。
「...まさか、半分の呪いを... 喰らいきるとは...」
その隙に、デュラが持っていた大剣を天に掲げる。
「瘴気の壁!」
アレフとライカの前に、瘴気が凝縮された黒い霧の壁が出現し、テクスチャの次なる攻撃への準備時間を稼ぐ。
アレフは立ち上がり、喰らった虹色の呪力を魔剣に纏わせる。
「暴食の虹炎!!」
黒炎と虹色の光が混ざり合った、禍々しい炎が魔剣から噴き出す。
「ライカ! シノ! 最大の合わせ技だ!」
ライカの魔導神書が、氷の魔法陣を展開する。
「氷槍嵐!!」
空中に無数の氷槍が生成され、テクスチャに向けて降り注ぐ。
アスタロスが、巨大な戦斧を天高く振り上げる。
「雷鳴轟斬!!」
戦斧に雷撃が宿り、氷槍の嵐の中心に、雷の奔流を叩き込む。
そして、シノが咆哮した。
「竜気ー竜雷閃!!」
黒髪が逆立ち、体から発せられた雷撃が、氷槍と雷鳴轟斬の奔流と合流する!
「氷竜雷覇!!」
氷槍の多段攻撃が、テクスチャの銀色のローブを粉砕。そこに、氷と雷の合成された竜の奔流が直撃し、テクスチャの仮面と織機を凍結させる。
「我の... 運命が... 狂う...!」
テクスチャの仮面にヒビが入る。
「今だ、兄貴ッ!!」
アスタロスの言葉に、アレフが力強く頷く。
「分かってる! 仲間が切り開いた未来を、俺が繋ぐ!」
アレフは、右手に宿る『憤怒』の手甲を叩き、全身の呪力を、魔剣に集中させた。
虹色の呪力と、暴食の黒炎が一つになる。
「黒竜煉獄刃ッッ!!」
魔剣から解き放たれた黒炎は、巨大な虹色の竜の姿を取り、凍結を破壊して動き出そうとするテクスチャに襲いかかる。
「運命は... 覆らぬ...!」
テクスチャは、ヒビの入った仮面の下から、最後の力を振り絞る。
しかし、黒竜煉獄刃は、テクスチャの仮面を貫き、背後の織機を粉砕した。
ガシャン!
織機が破壊され、空間に響き渡るガラスの砕けるような音と共に、テクスチャの体も銀の糸になって崩れ落ちていった。
アレフは静かに魔剣を鞘に納めた。その青空色の瞳は、さらに上の階層を見据えていた。
遠く、遥か上――100階の光が、かすかに見えた気がした。
「行こう。ここは通過点だ。まだ、終わってねぇ」
その声に応えるように、ジャンヌの祈りの光が淡く揺れた。
――そして、塔の静寂の奥で、新たな呪気が微かに蠢き始めていた。
次回タイトル:107話 虚栄王アザゼル(前編)




