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万年「F」ランク冒険者、呪われた装備で最強を目指す  作者: 秋栗稲穂


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105話 運命を紡ぐ者

塔を登るほどに、空気は濃く、重くなっていった。

まるで酸素に混じって“呪い”が漂っているかのようだ。


一階層目で遭遇したのは、ただの亡者。

十階では意思を持つ影。

二十階では、時を逆行する幻影。

三十階では、過去に倒した魔物たちが“呪いに変質した姿”で立ち塞がった。

そして四十階――そこでは、“自分たちの死体”が待っていた。


アレフたちは、幻影の自分を斬り捨て、焼き払い、砕きながら登り続けた。

だが、奇妙なことに、登れば登るほど――時間の感覚が曖昧になっていく。

何日経ったのか、誰も分からない。


「……また、昼が来ないね」


ライカが小声で呟いた。


塔の内部には、昼も夜もなかった。

ただ、淡い光の粒が宙を舞い、空間を照らすのみ。


「異界時間の歪み、ですか」


ジェームスが冷静に分析する。


「この塔……内部で、時間の流れが異なっている可能性があるわね」


グリモワールが呟く。


「つまり、外では一瞬でも……俺たちは何日も戦ってるってわけか」


アスタロスが斧を肩に担ぎ、唸るように言った。


「それでも登るんじゃろ?」


シノが微笑んだ。その紅の瞳には、竜族特有の静かな闘志が灯っている。


「もう、ここまで来たんだからな」


アレフは仲間たちの顔を順に見渡した。

道中で擦り切れ、傷だらけになった防具。

それでも誰一人、足を止めていない。


――そうだ。ここまで来たのだ。

浮遊大陸にたどり着くために。


アレフは胸の内に忍ばせていた小さなペンダントをそっと握る。

それは、ジャンヌが彼に渡した祈りの護符だった。

冷たい金属のはずなのに、今は不思議と温かかった。


「行こう。五十階だ」


バベルの塔、その50階層の床を踏みしめた瞬間、アレフ・カースの赤髪が、びりつくような魔力の奔流に逆巻いた。


50階は、中央に巨大な円形の祭壇が設けられた、広大な空間だった。天井は遥か高く、薄暗い霧が立ち込めている。

そして、祭壇の奥には、夥しい数の糸車がカタカタと音を立てて並んでいた。

その糸車群の中心に、それは立っていた。


「来たか、呪いの器よ」


声は、女とも男ともつかぬ、無機質で響く音色。


ーー運命の紡ぎ手(テクスチャ・オブ・フェイト)


白磁のように美しいが表情のない仮面をつけた、背の高い人型。

全身は、銀色の細い糸が編み込まれたようなローブに包まれている。

背後には、宙に浮かぶ巨大な織機が、絶えず「カタコト」と不気味な音を立てていた。


「我は、この塔を登る者の『運命』を紡ぎ、その『結末』を決定する者」


テクスチャは、静かに右手を上げると、その指先から眩い銀の糸が伸びた。


「お前たちが持つ呪いの力、仲間との絆、全ては織り込まれるべき運命の糸。それを断ち切ることも、紡ぎ直すことも、許されぬ」


アレフは、魔剣を抜き放った。

青空色の瞳が、冷徹な光を帯びる。


「運命? 勝手に決めつけるな。俺の道は、俺自身が切り開く!」


「行くぞ、皆!」


ジェームスが即座に動いた。


「エレガント・アイ!!」


銀髪を揺らし、鋭い黒瞳がテクスチャの全身を一瞬で見抜く。


「構造の核心です! 周囲を漂う銀の糸は、魔力を媒介とする『運命の鎖』! 触れれば動きを封じられ、呪いを上書きされます。そして、あの織機が魔力の源!」


ライカが魔導神書を開く。


「ライカ、防御は頼む! シノは後方支援だ!」


アレフの指示が飛ぶ。


「輝印結界(きいんけっかい)!!」


ライカの魔導神書から光の印が迸り、アレフたちを半円状の光のバリアで包み込んだ。


テクスチャが反応する。


「無駄な足掻き。まず、その厄介な『防御』を断ち切る」


テクスチャの指先から放たれた銀の糸が、一瞬で数百本に増殖し、光の結界に「パチン、パチン」音を立てて絡みつく。

結界の強度が急速に削られていく。


「ジェームス! アスタロス! 結界が破られる前に、あの糸車群を破壊しろ!」


「教育的指導の時間です!」


ジェームスが猛然と突進する。


「連激ーメイン・ディッシュ!!」


銀のナイフとフォークが残像を描きながら高速で繰り出される。

闘気を纏った一撃一撃が、テクスチャを取り囲む銀の糸車を粉砕していく。


アスタロスも続く。


「豪裂旋(ごうれつせん)!!」


水の精霊の加護を受けた戦斧が、凄まじい遠心力を伴って回転し、糸車を木っ端微塵に吹き飛ばす。

しかし、テクスチャは動じない。


「運命を弄ぶ無粋な行為」


テクスチャが胸元で指を組み替えると、破壊された糸車から、さらに太い、金色の糸が噴き出した。


「《厄災の紡糸》!」


金色の糸は、ジェームスとアスタロスに絡みつき、彼らの動きを一瞬で縫い止める。


「くっ…… 闘気が! 呪いの糸です!」


ジェームスが苦悶の声を上げる。


「身体が……重い!」


アスタロスが膝をつく。


この隙を逃さず、アレフが飛び出した。


「黒焔斬!!」


黒炎を纏った魔剣の一撃が、テクスチャの仮面を狙う。

テクスチャは、アレフの攻撃を全く予期していなかったかのように微動だにしなかった。その代わりに、織機が「カタタタン!」と激しい音を立てる。


「《運命の織り直し(フェイト・リライト)》」


アレフの黒炎斬が当たる寸前、テクスチャの全身から黒い呪力が噴き出し、まるで未来の映像を巻き戻すかのように、テクスチャの傷が塞がり、周囲の空間が揺らめいた。


(呪いの効果を... 打ち消した!?)


アレフは即座に悟った。

テクスチャは、アレフの呪力に対抗する、『対・呪いの呪い』を保有していると。

次回タイトル:106話 運命を喰らう者

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