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Chapter3

 今日も詩歌と一緒に教室に残った。二人で演劇の台本を考えるためだ。

 まだ文芸部として活動できるわけじゃないが、水沢先生はこの台本を文芸部が作ったものとして紹介してくれるらしい。部員募集のチラシも用意してくれて、本当に良くしてくれている。

「文芸部、できるといいな……」

 そう呟くと詩歌は笑顔で頷いた。

「ありがとね。――私が小説書きたい理由……翔には聞いて欲しいかも」

 詩歌は少し言葉を濁らせてそう言った。オレは黙って聞く姿勢になる。

「あのね、笑わないでよ……? 本の世界って、私たちのいるココとは違う世界なわけじゃん? それで、そういうのが重複世界――パラレルワールドって言うのかなって。だったら、それを書くのってすごいことでしょ。それに……」

 詩歌は少し頬を赤らめてそう言った。続きがあるのかと思って黙っていたが詩歌は黙ったままだった。

「……なんか凄いこと考えてたんだな。確かにそういう考えもあるかもな」

 オレは真剣な表情で頷いた。詩歌はそれを聞くと再び話し始めた。

「私ね、多分この世界の人じゃないの……。確かに昔の記憶はあるけど、少しずれてると言うか……変なの」

 は……? 意味がわからない……。

「なにが……?」

「だから、記憶が変なの……。中学より前くらいから自分の記憶が変なんだよ……」

 はぃ……? 記憶が変……? オレの表情を読み取った詩歌は再び口を開く。

「翔だって、前に言ってたでしょ? 私と昔会った気がするとか……」

「言ったけど……」

 そこでハッと息を呑んだ。オレが詩歌といる時に感じているモヤモヤ……オレも何か忘れてる。大切なことなのに思い出せない……。けど、それは昔の事だぞ? 重複世界やらは関係のないことだ。

「なぁ、オレで良ければ詳しく聞かせてくれ」

 気がつくと、そう言って詩歌の話しに耳を傾けている。詩歌は少し驚いて嬉しそうな顔をした。

「あのね、中学くらいかな、それから後の記憶はちゃんと私のものだって確信できるの。けど、それ以前の記憶はどこか曖昧で……。それに私普通に笑えてるでしょ? けど、中学より前の時、私が笑ってるのが何故か不思議なの。私は笑えないはずなのに泣けないはずなのにって……」

 自分が自分でないような感覚ってことだろうか。本当のことなら中学より前だけってのは確かにおかしいのかもしれない。

「それで詩歌はどうしたいんだ……?」

「私は、自分の本当の世界を探したい……。だから、いろんな世界を見たかった」

「それで小説か……」

 軽く息を吐く。詩歌は冗談を言ってるわけじゃないらしい。



「それじゃ、私は自分の世界を、翔は自分の過去を、目的は一致だね!」

 オレは、なんとなく自分が詩歌に対して抱いているモヤモヤを話した。話しておいたほうがいいと思ったからだ。

「いや、全く一致してないし……。てか、何の目的だよ……?」

「んー? 自分探し? 大体一緒だと思うけどな」

「そうですか……。てか、オレは昔の事を忘れてるだけだし重複世界がどうとか知らないからな……?」

「ホントに重複世界はあるんだよ……。まっ、これからもヨロシクねー」


 こうして、始動前から文芸部はよくわからん方向に突っ走って行くことになってしまった……。

 


「夢も重複世界ってわけか……?」

 帰り道、遅くなったので詩歌を家まで送りながら呟くように尋ねた。

「ほぇ……。私はそう思ってるけどよくわかったね」

「最初に会ったとき、夢のこと気にしてただろ?」

「そうだったね……」

「なんか元気ない……?」

 元気がなさそうに俯いた詩歌を見て何事かと首を傾げた。

「ん……。翔はどこにも行かないでね……。もう、嫌だから大切なひとが私の前からいなくなるの……」

「大切だって思ってくれてるんだな……? てか、もうって昔何かあったのか……?」

 少し頬を赤く染める。やばいドキドキしてきた。

「ほぇ? 昔……? なにか……?」

 詩歌は明らかに困惑していた。眉間にシワを寄せ、頭を抱え込む。その表情がどんどん険しくなっていく。

「なっ! 大丈夫か!?」

 詩歌の肩を軽く掴む。

「ちが、違うの……。私は……」

 その後、詩歌が何て言ったのかわからなかった。突然、地面が――――いや、世界が揺れたんだ。

 オレは急いで詩歌の手を握った。そうしなければ詩歌がどこかに行ってしまう――そんな気がしたから。

 



 ――――気が着くとそこは知らない場所だった。周りには少しの家と一つの神社くらいしかない。ドがつくほどの田舎だった。

「ここは……?」

 詩歌が顔をあげる。オレは急いで握った手を離そうとしたが詩歌が握り返してきた。

「わかんないけど……」

 ありえない。詩歌はテレポートの使い手か……?

 近くにある神社に一人の女の子が……。

「「…………っ!?」」

 オレも詩歌も言葉を失った。そして今度は、オレが頭を抱える番だった。

 


 そこにいたのは、詩歌にそっくりな女の子……。

 小学校6年生くらいだろうか……? オレの頭はその女の子を見ると痛みだした。

 それに、この神社も景色も、全部オレは知っていた。まだ、あの女の子のことは思い出せないけれど……。

「オレは……」

 そう口にすると、女の子のほうに歩みだしていた。

「やめておいたほうがいい」

 不意に後ろから声が聞こえた。

 声の聞こえた方を振り返ると、そこには女の子のような顔立ちをした男が立っていた。歳はオレたちと同じか少し下くらい。髪の毛は肩の辺りまで伸ばしている。キレイな紅い瞳をした――所謂、美少年だった。

「ボクは、五月七日皐つゆり さつき ボクも君たちと同じ、ココとは別の世界から来たんだ」

 皐は、笑顔でそう言った。――しかし、笑顔で恐いこと言いやがる。

「じゃあ、ココはパラレルワールドだとでも言うのか……?」

 詩歌は黙っていた。ただ、何かに怯えたように……。

「まあ、ボクたちの世界から見たらそうなるね……」

 皐は少し遠い目をして言った。困惑しているオレたちを見ると再び口を開く。

「ボクを君たちの仲間に――文芸部に入れてくれないか……?」

 は……? オレは言葉を失った。詩歌も同じらしい。

「えっと、同じ世界の同じ学校なのか……?」

 もう頭が真っ白だ……。なにがなんだか……。

「そうだよ。ボクは君たちの隣のクラス。少し見た目が違うかも知れないけれど……」

 えっと、どうすればいいんだろ……。ただ、詩歌がコクコクと頷いていた。

「それじゃ、ヨロシクね。早速だけど、今すぐにでも元の世界に帰らなきゃ」

 皐が微笑んで言う。少し可愛い……。――――とか、言ってる場合じゃねぇ……。帰るったって、どうやって……? 歩いて帰れる距離じゃあるまいし……。

「それじゃ、いいね……?」

 皐がオレと詩歌それぞれに問いかける。

 すると、世界が皐を中心に揺らぎ、気が付けば教室にいた。オレを含めて三人……。

 ――詩歌と……。隣で知らない女の子が笑っていた。

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