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Chapter21

 ――私はずっと翔といたかった。翔は年に数回、2週間程度私たちの町にやってくる男の子だった。私は何でか翔を好きなっていた。


 私は翔が好きだ。勝てないのがわかっていても、一番足の速い私を追いかけるところとか。それでもやっぱり勝てなくて、むきになって転んじゃうところとか。

 そんな翔を立ち上がらせる私の顔はどんな顔になっているのかな。

「ドージ」

 私はいつものように笑えているだろうか。私は今から告白する。この翔に。


 いったいどれだけの時間が経ったのだろう。私は翔の手を繋いだまま翔に告白した。私はどんな言葉で翔にこの気持ちを伝えてしまったのだろうか。今は恥ずかしさと申し訳なさで上手く頭が回らない。


 だけど、翔は頷いてくれた。私の気持ちを認めてくれた。


 私たちは、また、何事もなかったかのように遊び始めた。それから皆が帰ってしまうまでの時間は本当に長くて。だけど、とても短かったようにも思える。


 次の日、私たちは二人だけで会うことになった。翔のおばあちゃんの家は私の家のすぐ近くだから、いつもなら家まで迎えに行くか迎えに来るかのどちらかだった。

 だけど、初めてのデートなんだから、待ち合わせがいいと私は言い張った。それでも、翔が来なかったら、と不安で。私の家と翔のおばあちゃんの家の両方が見える場所で待ち合わせることにした。


 ――この日、私は事故にあったらしい。前を通ったトラックの横転。積み荷の下敷きになったそうだ。

 翔に手を振って。トラックの音が聞こえて。トラックが翔を隠して。トラックが通り過ぎるのを今か今かと待って。ようやく翔が手を振っているのが見えた時。

 私はベッドに横になっていた。大きな外傷はないとお父さんに説明された。横ではお母さんが泣いている。娘が助かった嬉し涙だろうか?

 なんとなく、空気が重たかった。お母さんの肩は泣いているせいかずっと震えている。お父さんの唇も何かを言い出しそうで何の言葉も出ないまま震え続けていた。


「……翔は?」

 重苦しい音を発することも出来ないような静寂を破ったのは私だ。

「謝らなきゃ」

 あれ……? 麻酔でも利いているのだろうか。私の身体は動かなかった。

「翔君なら、明日また来るよ」

 さっきまで私の手を握っていてくれたのだとお父さんが教えてくれた。お母さんは相変わらず黙って泣いていた。

「そっか。もうちょっと早く起きればよかった。早く会いたいな」


次の日、翔は親に連れられて病院に来てくれた。

翔の親は軽い挨拶を済ませると私のお母さんと一緒に病室を出た。

「えっと、だいじょうぶ……?」

 翔の声が今にも泣きだしそうで、なんだかこっちまで悲しくなってきそうだ。

「うーん。だいじょうぶ。ごめんね」

 私は恥ずかしくてうまく笑えなかったのだが、そんな曖昧な表情は翔を不安にさせてしまったらしい。

「帰るまで手握っていい? あと、明日も来てもいい?」

 心配そうな顔でかすれるような声を出す翔がなんだか可笑しかった。そして、こんな翔が大好きだった。

「うん。ちょっと恥ずかしいけど……。退院したら、今度こそデートしようね」

 今度はうまく笑えたと思う。顔は真っ赤だろうけど。

「うん……。絶対だよ?」

 私の手を握る、その手が一瞬強く握られた気がした。


(うら)……。心の足はもう……。動かないかも知れない」

 暗い声で、途切れ途切れ言葉を探すように呟いたのは、お父さんだったか、お母さんだったか。そんなことは私には関係なかった。


 私の将来の夢は陸上の選手だった。小さな町だったし、そんな夢を見続けていられただけなのかも知れない。大人ってやつになれば、諦めていた夢だったのかも。

 だけど、私は走るのが大好きだった。だから、諦めたくはなかった。

 お医者さんには少しでも足を動かせるようになりたい。そうして歩けるようになれたらいいなと言った。

 そうとでも言わなきゃ、私は足を動かす事さえ諦めさせられそうだった。もう、夢は諦めてもいい。だけど、もっと翔と走っていたかったのだと思う。


「大丈夫だよ」

 何度も何度も翔に言った言葉。翔は自分の家に帰る日まで毎日、私のところに来てくれた。そして、今日――、帰ってしまった。

「大好き……」


 ――私は一所懸命リハビリってやつを頑張った。足は動いた。歩けるようにもなった。だけど、どうしても走ることは出来なかった。みんなはどんどん前に行って。私はいつまでも翔と握った手を見つめていることしかできなかった。



 翔に会いたい。そんな声が私の頭の中で何度も響いた。


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