表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/25

Chapter00-2

「ゴメンね。あなたを作って……」

 心は、今日も詩歌に話しかける。

「……」

 詩歌にも心はあるはずなのに……。他のドールがするように話したりしてくれなかった。


「桜夜……。私、詩歌に嫌われてるのかな……」

「クゥー」

 頭の上のドールに話しかけると、桜夜は悲しそうな声をだした。

 その目は彼女を心配するかのように優しく潤んでいた。




 ――――ある日、家の前が急に騒がしくなった。

 大勢の機功師たちが詩歌を殺しに来たのだ、と心にはわかった。


「何のよう……?」

 心は家から出て、機功師たちの数を数える。

 五人……八人――――十三、十四……。全部で十四人の機功師と十四体のドール。

 ――不意に、三体のドラゴンが襲い掛かって来る。

「桜夜っ!」

 心の周囲を桜色の光が包む、――――その光が消えた時、その中から現れたのは、小さなままの桜夜と少女……。

「ちょ……桜夜っ!」

 心は戸惑いを隠せないでいた。その上で桜夜は弱々しく鳴くだけだった。


輝夜かぐや……」

 三体のドラゴンが今にも心に襲い掛かろうという時、辺りに男の透き通った声が響いた。

 ――すると、三体のドラゴンは空中で静止する。

「な、なんだ……!」

 おそらく、ドラゴンの主であろう機功師は声を荒げ。ドラゴンたちの奥に目をこらす。

 そこには、女の子の形をしたドールがいた。

 長い黒髪を持ち、黒色の着物を着たドール――――あれが噂のドールかとも思ったが、それはどう見てもドールだった。

「輝夜、斜め後ろ……」

 するとドラゴンは斜め後ろの岩にぶつかる。そこには銃を持ったドールが二体、正確にドラゴンを当てられ、動かなくなる。

「翔……?」

 心は目の前に立っていた男を見つめ首を傾げた。

「あと、九体か……。てか、お前ほどの奴が何してんだ? あと一体倒してやるから、残りはお前な」

 翔は笑いながら、そう言った。しかし、目は真剣に目の前にいる機功師たちを見つめている。

「えぇ。わかってる……」

 心の顔に冷静さが戻っていく。決意に満ちた目を翔に向け、機功師たちへ。


 ――すると、機功師たちは一目さんに逃げ出していった。

 数で奇襲に来たのだ。それが失敗した今、彼らに勝ち目なんてない。


「あー。逃げたな……」

「だね」

 心は頬を赤く染め、何か言いたそうに口を開け閉めしていた。

「あのさ、ありがとね……」

「ああ、そんな事より、あのドールの子連れてきて?」

 心は深くため息をつくと、翔を家の中へ迎え入れる。

「べつに、そんな事じゃないと思うんだ……」

 心はブツブツと呟きながら、詩歌のいる部屋へと向かう。

 翔の表情は、何かの決意に満ちていた。



「心、オレたちと戦ってくれ」

 詩歌のいる地下室に入ると、翔は詩歌を見つめそう言った。

「え……?」

 心には、翔がそんなこと言い出す人じゃないってわかっていた。なのに……。

「オレは、あの子を壊しに来た……」

 翔の表情は真剣なものだった。

「……。そっか……。依頼か何か? それともチームに入ったの?」

「ごめん……」

 翔はそれ以上何も言わなかった。だから――もう、戦うしかなかった……。

「桜夜っ!」

「オレはあの子と戦いたい……」

 翔は首を振って、詩歌を指差していた。

「そっか、だよね……。詩歌……」

 心は今にも泣きそうな声で詩歌を呼ぶ。

「ごめんな……。輝夜……」

 翔も泣きそうな声になりながらも、目に灯った決意の光を曇らせることはなかった。

「その子と翔の能力は、剛力と硬化、だっけ……」

 心がそう呟いた時、輝夜は床に叩きつけられる。力も硬さも手の及ばない速さで詩歌が組み伏せていた。

「な……」

 相手が早かったとしても、輝夜の剛力なら簡単に抜けることが出来るはずだった。しかし、輝夜は動くことさえ出来なくなっていた。翔と輝夜の繋がりを強引に切断されたのだ。


「翔のばかぁっ!」

 ――翔が見たのは心の涙だった。そして、翔の視界は暗くなっていき、翔は地面に倒れた。




「ごめんね……」

 輝夜の修理をしながら心が呟いた。

 翔はベッドに寝かせてある。あの様子だと、あと二、三日は起きないだろう。

 ――機功師とドールは、心の力を媒介に繋がり、心を共有して特殊な力を発生する。

 だから、腕の良い人形技師にはわかってしまうのだ。修理するドールとその使い手の心が……。

 翔は、私たちを救おうとしていた。自分の利益のために詩歌を壊そうとしたわけじゃなかった。

『あれは生まれないほうがいい……』

 翔は確かにそう言っていた。なのに私は、詩歌を作ってしまった。だから、翔は詩歌が完全な人になる前に壊そうとしたんだ……。

 今の詩歌は、まだ心が育っていない。だから、まだ人と言えるほど近づいていない。

 けれど、翔は普通のドールを壊すことも躊躇うような奴だ。きっと、そうとう辛い思いをさせてしまっただろう。

「あなたの御主人に、ごめんって言っておいて……」

 心は修理の終わった輝夜に微笑みかけた。


 ――――そして、詩歌のいる地下室へ。


「ゴメンね……。あなたを作って……」

 詩歌が何度も聞いた言葉……。

「なぜ、謝るのですか?」

 詩歌は、淡々と言い。目の前にいる心へと目を向ける。

「……。ううん、謝りたかっただけだから」

 何度も聞いた返答。その人の悲しい顔は見たくなかった。でも、詩歌にはどうすることもできなかった。

「あのね。こないだした約束。この部屋から出ちゃダメってやつ……。なしにするから、一緒に外に行こう?」

「はい」

 約束――それは詩歌にとっては命令だった。心もそれはわかっていた。けれど、外に出すわけには行かなかった。そして、今詩歌を連れて外に出た。


 心と詩歌は、外に出ると車に乗り人気のない所まで行って車を止める。

「あなたをもっと自由にしてあげたかった。敵のいない自由な世界で……」

「……」

 心は胸が辛くなるのを感じながら……。詩歌も同じ気持ちなのだと気付いた。

「そうね……。この“鷹のいない小鳥が自由に遊べる空”にあなたを放ってあげられたら……」

 そういうと空を見上げて少し涼しそうな顔をする。詩歌と初めて気持ちが繋がった気がした。機功師とドールとしてでなく、友達として。

「鷹のいない空ですか……」

「うん。そうだよ……。もっと、みんなが平和に暮らせる世界。戦いなんかなくて……。強さなんかいらなくて……」

 心は涙を流した。詩歌がその頬を撫でてくれた。


 ――たくさん、たくさん泣いたあと、心は詩歌を見つめ口を開く。

「……。私を殺して……?」

 心は静かに優しい笑顔を向けてそう言った。

「……はい」

「ゴメンね……」

 心には、詩歌が泣いてくれているのがわかった。涙は流れなくても、心で泣いてくれているのだと……。それが、とても嬉しかった。




 ――――翔が目を覚ますと、そこは心の家の中だった。隣に輝夜が座っている。他に人影はなかった。

 家の中を探したが、そこには主人のいないドール達ばかりだった。

 その中には、桜夜もいた。桜夜も主人と繋がっていないドールだった。

「心が桜夜との繋がりを絶ったのか……?」

 その答えは、何となくわかっていた。


 ――その時、ドアを、壁を破ろうとする音が聞こえた。外を見ると何人もの機功師たちが家に入ろうと奮闘していた。

「輝夜っ!」

 翔と輝夜は、家の外に出て、家を守ろうとする。

 ――が、数が違いすぎる。翔と輝夜の能力が“硬化”でなければ、すぐにやられていただろう。


 そんな、翔たちの前に現れたのは桜夜だった。そして、翔と桜夜の心が共有される。

 心の死ぬ直前までの感情が翔に流れ込んで来る。

 翔は、涙で濡れた頬を拭うと、――この家を、心の作ったドールたちを守ると心に誓う。


 そしてこの時、世界で唯一、二体のドールを同時に操れる機功師が誕生した。





 ――――詩歌は、望んだ。

『べつの世界で生きたい』

 そして、――心の笑顔、敵の――鷹のいない自由な空を、思って涙を流し続けた。


 ――――気が付くと、詩歌は夢の中にいた。

 その夢に、最上心もがみ うらの姿はなかった。そこにいたのは詩歌だった。

 小鳥遊詩歌たかなし しいかと言うなの女の子として、普通に笑ったり泣いたり……。

 詩歌は、夢の中で『べつの世界で生きたい』と言う夢が叶ったんだと喜んだ。

 けれど、心の姿がないのが悲しかった。


『心と一緒に自由に暮らしたい、心と友達になりたい』

 こう願うべきだったのだろうか。


 その夢は、何年間も続いた。ある時、知っている顔の人に出会った。

 月見里翔やまなし かけると言う男の子だった。

 そして、その子と仲良くなり、一緒に笑い、とても楽しい時間を過ごした。


 夢じゃない、現実世界で詩歌を思ってくれていた人――その人と同じ顔の男の子、詩歌はその人が好きなんだと思う。

 ――たぶん、心も翔のことが好きだっただろう。


 それでも――いや、だからこそ、詩歌は目が覚めたら翔に告白しようと思った。

 ドールである自分が人に恋をしちゃダメだとわかってはいた。

 けれど、翔なら、人として聞いてくれるだろう。

 詩歌は、胸の奥が締め付けられるのを感じながら今日も夢を見続ける。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ