Chapter00-1
一人の人形が泣いていた。
目の前には、動かなくなった少女……。
――その人形を唯一愛してくれた人……。
――その人形を作り、命を与えてくれた人……。
人形は泣いていた。自分の最も大切な人を、その手で殺してしまったのだ。
殺したくはなかった。それでも人形は人形だったから……。
――――この世界は、“ドール”と呼ばれる機械を操り発展してきた世界。
戦争はドールを使い、労働などもドールが行う。
より良いドールを作れる者、よりドールを上手に操れる者が称えられる……そういう世界。
この世界では、戦争は絶えず行われていた。
ドールを使った戦いは止むことはなく、この世界には、二つの職業だけが生まれた。
一つは、“人形技師”――ドールを作り、最強のドールを作ることを目指した者たち。
そして、“機功師”――ドールを操り、ドールと共に最強を目指し鍛錬する者たち。
彼らは、それぞれチームをくみ、力を誇示するために戦い続けた。
それがこの世界での戦争だった。
――こんな世界に生まれた一人の少女……。
彼女は最高のドールを作り、ドールの性能を最大まで引き出すことができた。
彼女は、“人形技師”でありながら“機功師”でもあったのだ。
それもかなり腕の立つ。
そんな少女を世界中のチームが放っておくわけがない。
彼女は、ほぼ全てのチームに誘われ、そして全てを断った。
彼女はわかっていたのだ。自分が今より大きな戦争の火種になることを……。
「桜夜っ!」
少女の透き通るような声が響く。すると、声の周囲を桜色の光が包み、そこに大きな鳥のようなモノが現れる。
二枚の細長く真っ直ぐな翼を持ち、筋肉質な身体に、少し大きめの脚。全体は薄い桜色で、紅い目が鋭く光っている。
ソレの下には、短めの黒い髪をした少女が一人。――口元に楽しそうな笑みを浮かべ、とても活発そうな少女である。
「な、べつにオレはあんたと戦いたいわけじゃない!」
少女の見据える先にいる男が、自らのドールの前に立ち、必死に首を振っていた。
「桜夜、戻って」
少女が言うと大きな鳥のようなドールは、桜色の光に包まれ小さな小鳥のような姿になり、少女の頭の上で丸くなった。
「オレはあんたにドールを見て貰いたいだけだ。チームの勧誘とかでもない。だいたいオレは――――」
「チームには入ってない?」
少女は微笑むと彼に近づいていった。
「ああ、オレは戦争には興味ないからな」
「ふーん。いいよ、一緒に来て」
少女は笑顔で彼の手をとり、歩き始める。
「マジか! あ、オレは月見里翔」
翔は嬉しそうに彼女の横に並んだ。
「私は最上心、それで、こっちは桜夜」
心は頭の上のドールを指差した。
心は会ったばかりだが、翔のことを気に入っていた。しかし、心にはそれがわかっていなかった。
心の家の近くまで行くと、二人は人の気配がないのを確認し――実際には、心と桜夜が尾行していた機功師を何人か倒し、家の中に入る。
その家の地下、心の作業場に入ると翔は言葉を失った。
翔の目は、一人のドールへ向けられている。女の子の形をしたドールだった。
「あの子は、今作ってる途中のドールだよ」
心は、何やら機械を操作しながら、その女の子の形をしたドールに目をむける。
「……。あんたの作ったドールには心があるってホントか?」
「ほぇ、ホントだよ……? けど、私のドールだけじゃなく全てのドールに心はあるよ」
「……。ああ、そうかもな」
その時、翔の表情が沈んだような気がした。
「あのドール、完成させるのか……?」
数日が経ち、自分のドールを見てもらった――ほとんどを心に作り直してもらった翔は、帰り際に心に尋ねた。
「ほぇ? なんで……?」
「あれは生まれないほうがいい……」
翔の表情は真剣だった。
「……。もう、あの子には心が宿ってる。それを壊せって言うの!」
心は声を荒げた。翔の言っている意味がわからなかった。
「あれは人間に近すぎる。人型のドールは確かにある、けど、あれじゃ人じゃないか」
実際、翔のドールは人型のドールだった。だからこそ、翔には、ドールが人に近づき過ぎることの“危うさ”がわかっていたのかも知れない。
「そうだよ。私は、友達を……」
心は言葉の途中で息を呑んだ。――彼女は、友達を作ろうとしていたのだ。
彼女は友達が欲しかった。彼女の才能は、人を遠ざけ、彼女には友達と言える人がいなかった。――彼女の才能を必要としてくれる人はたくさんいた。しかし、彼女がチームに入り、誰かの仲間になれば、それは大きな戦争の引き金になりかねない。
翔には、それがわかったのだろう。翔は心の頭に手を置くと困った顔をした。
「なら、オレもココにいちゃダメか……?」
心には、その言葉がとても嬉しかった。でも――――
「でてって」
心は翔を拒否した。そうすることしかできなかった。
翔と心が手を組んだと思われたら、その勢力が拡大する前に、と真っ先に翔が狙われることになる。そんなのは嫌だった。
心は、翔のいなくなった部屋を見渡すと、溢れ出る涙を抑えながら、ドールの製作に取り掛かった。
「あなたは、私の友達になってくれるよね……?」
心は、完成したドールに声をかけ、そのドールを『Si-ca――詩歌』と名づけた。
その少女のようなドールは、心と同じ顔をしている。違うところは、髪の色と年齢くらいだろう。
――薄い茶色の髪に中学生くらいの身体の少女には、ドールの印、『Si-ca』と刻まれた首輪が付けられた。
心と詩歌の噂は、直ぐに世界中に広まった。
最初は凄い技術だと称えられたが、すぐにそれは心と詩歌を否定するものに変わっていった。
――なんでも、人間を作るのは神に近づきすぎだ、とかなんとか……。
心には、どうでもいいことだった。心は友達が欲しかっただけなのだから。
「ゴメンね。あなたを作って……」




