Scene_110_モンレアル
ウリは妙にやる気になってる。
レヴララを助けたい理由があるらしい。
それはガレイという人をジャムルを守る為に仕方なく殺し、その時ガレイから言われたことがずっと心に引っかかっているからだそうだ。
具体的に何を言われたのかは知らないけど、レヴララの持っている信念とおおよそ関係のあることだろう。
俺は正直、レヴララの未来を元に戻したいとは思えない。
まず、白いドラゴンを倒した時見た映像が現実で起きたことなら、代償を必要とした変更点は二つある。
一つは死んだら復活、もう一つは転移者以外の人たちの時間を三年前まで戻したこと。
レヴララは悪口を言ってきたエズメの自殺を止めたし、他人の死を嫌ってるからこそ死んだら復活するよう変更した気がするものの、それよりも。
レヴララは心の底から死にたがっていて、心はずっと限界だというのをあの映像を見ている間に感じた。
そんな気持ちの中レアルと出会ってしまい、死にたいと思いたくはなくなったようだった。
しかし結局レアルを失って、ちょうどよくこの世界の管理者となって、レアルを助けるために自分が犠牲になるという、まるでレヴララの生き方を肯定するかのような選択肢があったからそれを選んだまでだろう。
これもウリと同じく想像ではあるけど、レヴララはレヴララで自分を救おうとしてる気がする。
説得なんて不要だ。
レヴララ自身間違いとかに気付く能力みたいなのが高いみたいだし、白いドラゴンを倒すとどうなるのかを知らせるだけで十分だと思う。
……でもレヴララをレアルと接触させたい気持ちはある。
レヴララが自分を上手く救うにはレアルが必要だと、そう思えてならない。
それに白いドラゴンはレヴララを救うきっかけを与えにきた訳ではない気がする、そこは何となくでしかないけど。
でも俺は俺でウリのやろうとしていることを邪魔したくない。
他人を動かすためには熱意や信念だけでどうにかなる訳ではないことを知るいい機会だろうし。
レヴララを救いたいのは俺も同じだし、もしかしたらウリのやり方が正しかったりするのかもしれないのもある。
俺とウリはレアルやガレイ、シイリッヒと会うことを決める
。
とりあえずその三人とエズメを連れ、練姉弟に協力してもらって白いドラゴンを探して倒す。
一応三人とも大まかな居場所が分かってはいる。
とりあえずレアルからだ。
ウリと共に城の中へ入る。
入口から入ってすぐの所は植物で青々としていて、庭師が一人、黙々と木の手入れをしている。
その庭師に猫耳の小さいメイドが食べ物と飲み物を入れたバスケットを手渡し、少しの談笑をしたのちメイドは立ち去ってゆく。
俺とウリはそのメイドを追い、声を掛ける。
「モンレアル」
「はい?」
モンレアルはこちらを向く。
会った時よりも髪は短めで、これはこれで可愛い。
「失礼でしたらすみませんが、初めてお会いするような」
「君たちの時間が巻き戻される前に会ってた」
「……申し訳ありません。城の決まりで城外の者との会話はあまりしてはいけないのです、それでは」
立ち去ろうとするレアルの腕をウリが掴む。
「レアルさんにしかできないことがあるんです。レヴララさんは死んでしまったあなたを甦らせるため、時間を巻き戻した。レヴララさんのこと、今のレアルさんは知らないと思いますがどうか……。話を聞いてください」
レアルはどこか困っている様子だ。
城の方からアトクが出てくる。
「何の騒ぎであるか?」
「アトクさん、どうしてここに」
「城の警備だよ。アップデートに伴ってこの城下町のルールもいろいろと変える必要があってね」
「レアルはこういう性格じゃなかった」
「我を疑っているのか? まあ……構わないが」
アトクは少ししょんぼりしている。
レアルは俺と目が合うと、少しずつ視線を逸らす。
「とりあえず帰ってくれ」
俺とウリは仕方なく帰る。
洗脳? いいや、そんなことまでする人たちではないはずだ。
アップデートで変わった部分……そう言えばエズメは初見で俺を転移者と呼ばなかった。
レアルは転移者と分かった相手にだけああだったのか? でもレアルがそうやって他人を区別するような子には思えない、ああ、想像の域を出ないな。
「ダメだったね」
「私は諦めません。明日も行きますよ」
翌日、城に入りレアルを出すよう求めるが、レアルではなくいい身なりをした男の子が出てくる。
「お前たちか。レアルに声を掛けた者というのは」
「その、レアルさんと話をさせて頂くだけでいいのです」
「……前にも君と同じように会いにきた者たちがいてな、レアルを誘拐して何かしようとしたらしい。レヴララという新人の案内人が助けてくれたから良かったものの」
「では監視でもなんでも付けてください。私は話をしたいだけなので」
ちょうどレアルが出てくる。
「陛下。私も思うところがありますので今回だけお許しください」
「簡単に人に騙されないようにしろ、自分のことは自分で守れ。お前はまたあの者に迷惑をかけるつもりか?」
「すみません、でもあそこまで言っておられるので」
「……もういい。勝手にしろ」
男の子は城の方へと去る。
「こちらへ」
俺とウリは城の中へと案内される。
豪華な場所だ、応接間らしくテーブルを挟むよう高そうなソファが置いてある。
「あちらへお座りください」
俺とウリはソファに座る。
レアルは向かいのソファに座り、浮かない顔をする。
「まずこちらから話したいことがあります。昨日口に出されたレヴララというお名前の方、その方と私には面識があります。……いえ、正確には巻き戻される前の時間で深い仲だったという風に予想しています」
「それなら話が早……」
俺はウリの口を手で塞ぐ。
「続けて」
「はい。私はこないだ誘拐されたのですが、その時にレヴララさんが助けへと来られました。レヴララさんは終始素気ない態度でしたが、あまりにも早く駆け付けて来られたのでそれにとても違和感を感じて……。もしかすると、巻き戻される前の世界で私のことをよく知っておられる方で……。何らかの理由でそれを隠し、私のことを極力避けているという気がしました」
多分その予想は正解だろう。
監視までしているのかは分からないが。
「レヴララはレアルが危なかっかしいから監視してるのかもね」
レアルは顔を少し赤くする。
「お恥ずかしい限りです」
「レアルはどう思うの? レヴララとまた仲良くなりたいのか、それともレヴララのやろうとしてることを邪魔したくないのか」
「邪魔したくはありませんが、また仲良くなりたいです」
「そっか。……レヴララ宛にメッセージだけ保存させて貰える?」
「分かりました」
俺とウリは城を後にする。
あとはガレイとシイリッヒか、どこにいるんだろう。
……城下町を歩いていると、チョコミント柄の虎男が裏路地のような場所で座り込んでいるのが見える。
「……何だお前ら」
見るからにホームレスだ。
これはもう勝手に家にでも拘束しておいて白いドラゴンを倒せば済むだろう。
俺はウリに耳打ちし、ガレイを捕まえて家まで連行する。
後はシイリッヒ。
故郷は確かあの臭い田舎町だ、名前はメリールナだったか。
メリールナに着く。
ウリは鼻が悪いのか、臭いはあまり気にしていない様子だ。
牧羊犬を連れ鈴付きの杖を握る男の背後に大量の羊がついてきている。
この町って意外と広いのか? 男は山の方へと向かう。
……よく見るとその男はシイリッヒに似ている。
俺とウリは羊の群れに紛れついて行く。