Scene_111_メリールナ
シイリッヒらしき男が岩に腰掛け、弁当を広げてサンドイッチを食べ始める。
近寄って来た犬や羊にもその弁当を分け与えている。
「君たちも食べるかい?」
どうやら俺たちのことらしい。
俺たちは男の元へ駆け寄る。
「あなたはシイリッヒさんですか?」
「違うよ。シイリッヒは兄だ」
「お兄さんは今どこにおられるのでしょうか」
「さあ、どこだろうね。今頃弓矢を持って狩りでもしながら色々な街を巡っているんじゃないのかな」
この男は空を眺めているが、その目に光はない。
弓矢か。
レアアイテムを振り回しているところしか見たことなかったけど、元々はそれ使ってたんだろうな。
「冒険者さんなのですね」
「レベル300の転移者が二人も現れたってニュースが流れて、世の中は凄いぞ! ってさ。意気揚々と出て行ったよ」
そうか。
この村には一度戻っていたようだが、すぐ出て行ったらしい。
「兄さんを探しているなら連絡を入れてこの村に来させるけど、どうする?」
「呼んでください」
「分かった」
男はホログラムを操作する。
ホログラムは見える、のだろうか。
「メールを送っておいた。兄さんのことだ、すぐに返事が来る。……来たよ、転送装置を使って村まで戻るらしい。酒場で待っていてくれってさ」
「では酒場へ行きましょうか、少年さん。弟さん、ありがとうございました」
「せっかくメリールナへ来たんだ、牧場へも立ち寄るといい。あそこの土産屋のプリンは絶品だ」
「分かりましたー」
俺たちは酒場へと向かう。
酒場には見覚えのある男が座っていた。
シイリッヒだ。
「なんと。私に用があるというのは本当にあなたたちお二人なのですか?」
「ええ、まあ」
「何と、光栄です。あなたたちのことを知り私は冒険を始めましたので」
お、レヴララと違って憧れてる訳じゃないんだ。
まあかなり嬉しそうではあるが。
「それで何用ですか?」
「ある人を説得するために協力して頂きたくて。私たちとパーティーを組むだけで構いませんので、どうかお願い致します」
「説得……のためにパーティーですか?」
「ええ。集まるのは城下町街にあるジャムルさん型の家で、時間は明日の朝10時です、その時間から白いドラゴンを探し出して倒します」
シイリッヒは話の内容を理解していない様子だ。
今回のウリの説明が雑すぎるのもあるが、まあレアルの時うまく行きすぎたせいだろう。
「どういうことなのでしょうか、なぜそんなことを?」
「ええっと。白いドラゴンを倒すとある人の視点で映像を見せられるのです。それを見て頂いた後なら分かると思うのですが……とにかく、レヴララさんを助けたいのです」
「……うまく理解はできておりませんが、あなた方の頼みです。従いましょう」
「すみません、ありがとうございます」
「ではその時間に伺います」
「はい!」
あの少し小うるさいくらいには喋っていたシイリッヒが少しおとなしい。
俺たちのレベルの上がり方はやっぱり気に食わないのだろうか。
翌日、時間になると家のリビングに人が集まってくる。
何だかワクワクしてきた。
まず白いドラゴンの現れるであろう場所に見当を付けるため、話し合いを始める。
練介が地図を広げ、印を付け出す。
「これがここ最近の白い竜の目撃情報。白い竜は同じ場所にしばらく滞留しつつ、各地を時計回りで巡ってるみたい」
「それなら今はこの辺りにいるのでしょうか」
「うん。行けば襲ってくると思う」
「ではさっそく向かいましょう」
俺たちはルミェ郊外へと向かう。
ガレイは少しかわいそうだが口に金具がつけられ、そこに鎖が繋がれており、その鎖をウリが持っている。
ただ、面倒臭いのが無差別PvPの存在だ。
俺たちと練姉弟は他のプレイヤーを相手にしながら、ガレイとシイリッヒが倒されないようにしつつ白いドラゴンを倒さなければならない。
とりあえず少しでも見晴らしのいい場所へと移動する。
……上空から白いドラゴンが飛んでくる。
蓮介の予想は的中していたようだ。
こないだはウリに任せっきりだったが今回は違う。
練子がガレイとシイリッヒとエズメの前に立ちブレスから守れるようにし、俺とウリと練介は白いドラゴンをガンガン殴る。
白いドラゴンは一度倒れて死亡した後、復活して空へ飛んでいく。
……あの時とは違い映像が流れてこない。
「どうですか? 映像見れました?」
「いえ、何も起きていませんよ」
まさか、レヴララが修正か何かをしたのか?
「……ごめん。今更だけど、お姉ちゃんが白い竜からやられて映像を見た時は少女の姿になった竜からやられてた時で。俺と、その時いたもう一人の仲間は白い竜が竜の姿のままの時に死んだからからか見なかった。だから少女の姿の時倒さないといけないんじゃないかな」
「そっか。ちょっと難しいな」
「ではまた明日同じ場所で同じ時間に集まりましょう、今日はもう白いドラゴンと戦えないかもしれませんし。それでも無駄だったら解散で。……時間を割いて頂いた報酬は用意しておきます」
「ウチら姉弟の分はいいよ。レヴララの助けになりたいだけだし」
「分かりました」
俺たちは一旦解散する。
皆ディナーはあまり欲しくなかったようだ。
ガレイとエズメだけが残る。
ガレイの口の金具を外し、昼食を取ることにする。
金具を外した途端、ガレイは俺の腕を掴んでくる。
「お前ら、俺にこんなことしてタダで済むと思うなよ」
「明日には解放するから。我慢してください」
ガレイはケッ、と言葉を吐いてからは黙り込む。
ウリがガレイを撫でる。
「ホームレスを続けるよりはここにいた方がいいと思いますよ」
「ふざけんな。口塞ぎやがって」
「明日までで終わりですから……」
エズメが俺たちの様子をつまらなさそうに見ている。
昼食の後、俺はエズメをモートのレヴララ拠点まで送り、明日また会う約束をする。
エズメは帰りたいと言った後は終始黙っていた。
翌日、再び集まった後に家を出て今度はベレリフ郊外へと向かう。
今回も無差別PvPが起きないと楽なのだが。
また白いドラゴンが襲ってくる。
練介様様だ、こんなに上手くいくとは思っていなかった。
今回俺は後衛に回り三人の盾役をやる。
削るのに時間はかかるが、ドラゴンには少女の姿に変わって貰わないと困る。
……なんだ、全く変身する気配はない。
ブレス吐いてウリ狙いで殴りかかってくる他は何もしない。
何なんだ、勝ちを確信しないと変身してこないのか?
練介がウリの前に立ってわざと被弾し始める。
それでもドラゴンは変身しない。
……。
「アルブムお前、俺たちにレヴララの記憶を見せに来たんじゃないのか! 一体何が目的なんだ!」
俺はつい叫ぶ。
白いドラゴンは無視して攻撃を繰り返す。
もしかして一度倒した俺たちがいるからダメなのか?
俺はウリにメッセージを送る。
ウリはメッセージを確認したのか立ち止まり、白いドラゴンの口と腕を紐付きナイフで縛る。
「変身しないので一度倒した私と少年さんはパーティーを抜けて距離を取ります。練介さん、すみませんが後は一人で削り切ってください」
「分かった」
俺とウリはパーティーから抜けてドラゴンから離れる。
一応、無差別PvPを練介が吹っかけられないよう二手に別れた。
……振り向くとドラゴンの姿は無くなっていたが、変身したのか? そのまま距離を取り、練介からの連絡を待つ。
ウリの方に練介からの連絡が入ったらしく、ウリから連絡がくる。
倒してから全員、あの映像を見たらしい。
……良かった。
無駄足にならなくて済んだ。
白いドラゴンはどこかへ飛んでいく。
俺とウリは皆の元へ向かう。
……何やら全員落ち込んでいるような様子だ。
俺とウリとは違う映像を見たとかないよな?
「次に俺たちが何をしなきゃならないかは分かってる?」
「分からないな。レヴララが苦しんでるかもしれないのは理解したが、だから何だ。俺たちとレヴララに多少の関わりがあるにしても、アイツに何をしてやれる」
「レヴララには管理者の座から降りてもらう。……次の座は俺で、その次はウリでも誰でもいい。まあその辺は神様に確認してからだ。とりあえずレヴララを説得する」
「……説得できる相手なのか、レヴララは」
「とにかく協力して欲しい。それじゃ、家に戻ろう。レヴララを呼ぶから」




