番外編:最強のCEO転生者は、社員旅行すらも『地獄の強化合宿』にしてしまうようです
魔王軍を経済買収(M&A)し、タカシ・ホールディングスを設立してから半年。
世界はかつてない平和と、かつてない『資本主義の闇』に包まれていた。
「――タカシCEO! 今期の『人類×魔族・合同社員旅行』の進捗報告です! 参加した悪魔どもに持たせた『幸福の輝魔石・砂利詰めリュック(50キロ)』による強歩大会ですが、脱落者ゼロで全員がノルマの営業エリアに到達しましたわ!」
タカシ・ホールディングス秘書室にて。
嬉しそうに書類を掲げているのは、我が社の鬼の人事部長(元・人間の聖騎士団長)であるクラリスだ。彼女は俺のマルチ商法による世界平和に心酔し、今や「資本主義の狂信者」と化していた。
「よくやったクラリス。これぞ健康経営の成果だな。……さて、俺もそろそろ社長業を休んで、かねてからの計画を実行に移すとしよう」
そう。今日の俺は、いつもの高級スーツではなく、南国風の派手なアロハシャツに身を包んでいた。
今回は、会社主催の『第一回・全社ハネムーン(地獄の強化合宿)』として、南国の常夏ビーチへとやってきたのだ。目的はただ一つ、このリゾート地の経済的買収(視察)である。
「クラリス、ホワイトボードとマイクの準備はいいか?」
「いつでもいけます、タカシ様! すでにビーチの観光客や現地の悪魔どもを『無料のパイナップル配り』で3万人ほど拉致……ゲフン、集客してあります!」
クラリスが砂浜に設置された特設ステージの幕を開ける。そこには、数万人の人間と悪魔がギチギチに詰め込まれていた。
「皆さん、こんにちは! タカシ・ホールディングスCEOのタカシです! 今日は皆さんに、人生を豊かにする【究極の不労所得システム】のセミナーを……なんと無料で提供します!」
俺がマイクを握って眼鏡をキラーンと光らせた瞬間、ドスンドスンと重い足音を響かせ、ココナッツの詰まった重い麻袋を担いだ男がフラフラと砂浜を歩いてきた。
日焼けで真っ黒になり、タカシ・ホールディングスの作業着を着たその男は、元・魔王様であった。
「……あ、あれ? タカシCEO……? なぜこんなところに……」
「おや、元魔王さん。サボりですか? あなたのシフトは、このビーチの売店のココナッツ補充係のはずですが」
「サボりじゃないゴホッ! 『夏期限定・ビーチ出張ノルマ』として、毎日1万個のココナッツを素手で割っているんだ! 頼むタカシ、もう許してくれ! 四天王の奴ら、営業成績が良すぎて『レジェンド営業マン』とか呼ばれて魔王城(本社)でふかふかの椅子に座ってクーラーの風を浴びているのに、なぜ俺だけ現役の現場労働なんだ!」
元魔王は砂浜に崩れ落ち、涙を流して土下座した。世界を滅ぼそうとした男の威厳は、マルチのピラミッドの底辺ですでに粉砕されていた。
「何を言うんですか、元魔王さん。あなたがココナッツを1個割るたびに、このビーチの売上が上がり、我が社の株価が上がるんです。これは『世界平和へのダイレクト・マーケティング』ですよ。ちなみに、元魔王さんの頑張りを見て、クラリス人事部長が新しいシフトを用意してくれました」
俺の合図で、クラリスが満面の笑みで分厚い書類を突きつける。
「はい! 明日からはココナッツ割りと並行して、夜間のビーチのゴミ拾い(時給:銅貨2枚)のシフトも入れておきましたわ! 睡眠時間はたっぷり2時間あります!」
「人の心がない! お前らはやっぱり、神の配り忘れたチートスキルの代わりに『悪魔の心』を持って生まれてきたんだぁぁ!」
元魔王はツルハシ(の代わりのココナッツ割り器)を担ぎ、泣き叫びながら売店へと走っていった。実に素晴らしい労働意欲だ。
「ふふ、タカシ様。これで現地の観光客も、元魔王の働く姿を見て『自分はまだ恵まれている。マルチ会員になって不労所得を目指そう!』とモチベーションが最高潮に達していますわ!」
「完璧な分析だ、クラリス。よし、現地の海の家も島ごと一括で買い占めよう。資金はすべて、新入会員たちの登録料で賄う!」
新婚旅行という名の経済侵略ツアーにきてまで、世界をブラックなマルチシステムで塗り替えていく最弱の転生者。
恋愛要素など1ミリも挟む隙のない、徹底された資本主義の闇と、元魔王軍の涙ぐましい社畜化ギャグは、常夏の島でもノンストップで加速していくのだった。
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