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第5話:魔王軍、お買い上げ。元魔王様は今日から工場勤務です

 四天王全員を自己破産に追い込み、担保として魔王城のすべての権利書を手に入れた翌日。

 俺はパリッとした黒い高級スーツに身を包み、我がタカシ・ホールディングスの部下(奴隷)となった四天王を従えて、魔王城の最深部――玉座の間へと足を踏み入れた。


 重厚な扉を開けた先、そこにいたのは、世界を恐怖で支配するはずの絶対強者、魔王だった。

 しかし、その威厳に満ちているはずの姿はどこにもない。

 魔王は、電気を止められたように薄暗い部屋の片隅で、四天王たちがノルマ維持のために買い込んで山積みにした『幸福の輝魔石(ただの砂利)』の山に囲まれ、頭を抱えてガタガタと震えていた。


「な、なぜだ……。我が魔王軍は、圧倒的な武力を持つ大陸最強の軍勢のはず……。剣も魔法も使えぬ、ただの一人の人間に、なぜ我が軍が滅ぼされかけているのだ……。誰か説明せよ……!」


 魔王の血走った眼が、俺の背後にいる四天王たちを捉える。しかし、バルザスたちはバツが悪そうに目を逸らし、手元にある『マルチの会員手帳』を必死に隠した。


「簡単なことですよ、魔王さん」

 俺はコツ、コツ、と革靴の音を響かせながら玉座へと近づき、懐から分厚い契約書の束をパサリと放り投げた。


「あなた方の組織は、ただの『需要のないゴミを身内で回し合うだけのバブル』だったんです。ピラミッドの下層を支える新規会員が途絶えた瞬間、上層の人間が自腹を切って破滅する。これ、前世の地球における資本主義の基礎ですよ?」


「そ、そんなデタラメな暗黒魔法があるかぁぁ! 我ら悪魔は、そんな小細工には屈せん!」

「魔法じゃありません。マルチ商法です」


 俺は眼鏡をキラーンと光らせ、不敵に微笑んだ。


「魔王さん、現実を見てください。あなたの誇る最強の兵隊(下級悪魔)たちは、戦うのをやめて身内に石を売る営業活動に夢中。中間管理職はランク維持のために武器を売り払ってただの岩を爆買い。そしてあなたの頼れる四天王は、見栄のために魔王城の土地と魔王軍の総資産を我がタカシ金融の担保に入れ、全員が自己破産しました」


 俺は差し押さえの公印が押された権利書を、魔王の鼻先に突きつけた。


「つまり、この魔王城も、軍の資産も、そして四天王の身柄も、たった今をもって全て我が社【タカシ・ホールディングス】が合法的に買い取りました。これにて魔王軍は企業買収(M&A)により消滅です!」


「ギ、ニャァァァァァァァァ! 我が軍が、我が城がぁぁぁ!」


 絶対の魔王が、一文無しになったショックで玉座から転げ落ち、砂浜に打ち上げられた魚のように悶絶する。世界を滅ぼすはずの王の、あまりにも哀れな末路だった。


「さて、元魔王さん。あなた個人にも、四天王の連帯保証人としての莫大な債務(金貨50万枚)が発生しています。我が社はホワイト企業ですので、命までは取りません。その代わり、明日から我が社が運営する精糖工場で、最低賃金でせっせと働いていただきます」


「お、俺が工場勤務だと……!? 恐怖の魔王であるこの俺が、工場で砂糖を袋に詰めるというのか!?」

「ええ。ちなみに初月の給料からは、ルシ夫さんの下の『ブロンズ会員』への初期登録費用を天引きしておきますからね。しっかり働いて、上のランクを目指してください」


「人の心がない! お前の方がよっぽど悪魔だあぁぁぁ!」


 魔王の絶望の悲鳴が、期せずして世界の平和が訪れたことを告げた。

 結局、人間の騎士団は一歩も戦場に出ることなく、魔王軍は内側の『経済バブル』によって完全に自滅したのだ。


 数ヶ月後。

 かつての魔王城は【タカシ・ホールディングス本社ビル】へと改修され、元四天王たちはスーツを着て有能な営業マンとして大陸中を飛び回っていた。

 そして俺は、世界の経済を裏から支配する最高経営責任者(CEO)として、ふかふかの椅子に座り、魔王が工場でせっせと砂糖袋を運んでいるライブ映像を眺めながら、ぬるいお茶を飲む。


 魔法も剣も使えない、異世界最弱の転生者。

 だけど、前世のブラック企業で学んだ『資本主義の闇』さえあれば、魔王軍を5話で完全買収し、世界の頂点に立つことなんて、息をするより簡単なことだった。


(第5話・完。ご愛読ありがとうございました!)


読んでいただきありがとうございます!

評価とブックマークおねがいします!近いうちに番外編を出したいなと思っているので、ブックマークをしてお待ちください!

それではまた!

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