↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/7

第2話:魔王軍の朝礼が「やる気! 元気! 奇跡!」の唱和に染まった日

 ルシ夫に『幸福の輝魔石』を売りつけ、怪しいピラミッド組織の頂点に据えてからわずか1週間。

 俺の仕掛けた【ディバイン・マルチ・マーケティング(通称:DMM)】は、恐るべき速度で魔王軍の最前線基地を侵食していた。


「――いいですか皆さん! 過去の自分と、今の自分は関係ありません! あなたが変われば、世界が変わる! さあ、隣の仲間と手を取り合って叫びましょう! やる気! 元気! 奇跡!」

「「「やる気! 元気! 奇跡!!!」」」


 早朝の魔王軍最前線基地。

 かつては「人間に突撃せよ!」と血生臭い怒号が飛び交っていた広場は、今や完全に怪しい自己啓発セミナーの会場と化していた。

 壇上で拳を突き上げているのは、最初の会員であるルシ夫だ。その目は完全にイッている。

 そして広場を埋め尽くす数百匹のスケルトンやゴブリン、オークたちが、満面の笑み(骨はカタカタ鳴らしながら)で狂ったように唱和していた。


 その光景を、俺は基地の端にある特設テント(タカシ金融・相談窓口)から、ぬるいお茶を飲みながら眺めていた。


「いやあ、素晴らしい教育(洗脳)の成果だ。前世のブラック企業の朝礼を思い出すな」


 ネズミ算式の増殖スピードは、俺の予想を遥かに超えていた。

 ルシ夫が同僚のインプ2人に石を売り、その2人がさらにゴブリンたちに売る。人間社会の『資本主義の闇』を知らないピュアなモンスターたちは、「寝ているだけでゴールドが稼げる権利収入」という甘い蜜に、一瞬で脳を溶かされたのだ。


 今や基地の悪魔たちの間では、人間との戦争など二の次だった。

 彼らの最大の関心事は「今月、何人の新規会員を勧誘できたか」である。戦場に出るよりも、身内の悪魔にセミナーを開いて『輝魔石』を売りつける方が、圧倒的に安全で効率よく稼げるからだ。


 おかげでここ数日、人間の領土への侵攻は完全にストップ。開店休業状態の戦場を見て、人間の騎士団が「魔王軍の新たな罠か!?」と逆に大混乱しているらしいが、ただマルチに夢中なだけである。


 そこに、ドスンドスンと重い足音を響かせ、基地の最高責任者である上位悪魔「ガーゴイル」のゴル大佐が血相を変えて突進してきた。


「おい、タカシ! 貴様、我が部下たちに一体何を吹き込んだ!」


「おや、ゴル大佐。おはようございます。今日もいいお顔ですね」


「いいお顔なわけがあるか! 部下どもが『営業活動が忙しいので今日の突撃作戦は有給を取ります』と言って誰も戦場に行かんのだぞ! 武器の代わりに怪しい紫色の石ころを磨きおって!」


 ゴル大佐は怒り狂い、その巨大な石の翼を震わせた。

 中間管理職としては当然の怒りだ。上司である四天王から「早く人間を滅ぼせ」とノルマを課されているのだから。


 だが、俺は慌てず騒がず、営業スマイルを浮かべて席を立った。


「ゴル大佐、落ち着いてください。彼らはサボっているのではなく、真の『自由』のために努力しているのです。……ところで大佐、大佐の現在の月給はゴールド換算でいくらですか?」


「ぬ、ぬう? 月給だと? ……金貨3枚だが、それがどうした」


「命をかけて戦っているのに、たったの金貨3枚ですか。悲しいですね。……大佐、あなたは現在の地位に本当に満足していますか?」


 俺はそっと、ゴル大佐の目の前に特製の羊皮紙を広げた。そこには、ルシ夫たちのピラミッドよりもさらに上の階級である【レジェンド・ダイヤモンド・ゴールド会員】の文字が輝いている。


「大佐のように優秀な指揮官なら、この『DMM』の仕組みを使えば、わずか数日でルシ夫たち下級会員の売上からマージンを吸い上げることができます。そう、寝ているだけで、月収金貨100枚も夢ではありません」

「き、金貨100枚だと……!? そんなバカな話が……」

「嘘だと思うなら、これを見てください」


 俺は机の上に、ルシ夫たちから回収した金貨の山をドサリと積み上げた。

「大佐、今ここにサインして上の階級(親会員)になれば、この基地にいる悪魔全員の売上が、自動的に大佐の懐に入ることになります。四天王の顔色を窺う生活から、おさらばしたくないですか?」


 ゴル大佐の石の顔が、ゴクリと唾を呑むように強張った。

 人間と違って、悪魔には「疑う」という倫理観が薄い。力こそパワーの彼らにとって、この「合法的に下から搾取するシステム」は、あまりにも魅力的すぎたのだ。


「……そ、その会員になるには、どうすればいいのだ?」

「簡単です。初期投資として、こちらの『特大・幸福の輝魔石(河原の大きい岩)』を金貨20枚で購入していただくだけです」


「20枚!? そんな大金、手元にないぞ!」


「ご安心ください。我がタカシ金融が、大佐の『翼』を担保に、超低金利でお貸ししますよ」


 数分後。ゴル大佐は「これで俺もレジェンド会員だ!」と歓喜の咆哮を上げながら、血判を押した契約書を手に、巨大な岩を引きずって帰っていった。


 基地のトップすらも取り込んだマルチ商法。

 だが、ピラミッドが大きくなればなるほど、恐るべき『バブルの崩壊』へのカウントダウンは加速していく。



読んでいただきありがとうございます!

評価とブックマークをしていただけると執筆の励みになります。

次回もお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。