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VENUS

こつ、こつと氷の床を歩く。

氷点下の南極の構造物…いや、魔王城と言った方が正しいだろうか。

肉体を再生成して丈夫にしたおかげで寒くはないが、吐く息は白く、長くとどまる。

氷に反響する足音がやけにうるさく聞こえる。

背筋が凍る。

あぁ、これが決断。これが、不安か。


最奥の扉を、開ける。

わざと視線を落とす。まだ、顔は見たくない。

つらかったんだ。寂しかったんだ。

敵であっても、嬉しくて、泣きそうだ。

ふぅ、と、呼吸する。

葛藤で息が揺れる。


「―――魔王。」


声が震えを止める。声が城をただ震わせる。


「―――よく来たな、勇者。」


建前だってわかる。

仮面をかぶった演者でなければ、形ばかりでなく、顔を見て挨拶を交わせたなら。

こつ、こつとヒールが鳴る。

ドレスは雪のように白く、冷酷な、美しい雰囲気を放っていた。


「終わりにしてくれませんか?ししょー。」

上品な所作で、魔王は小さくうなずく。

「お望みなら、今すぐにでも。」


突然、手を私に向ける。長い命令文も何もなく、ただ一言。

避けられない"呪い"、もしくは"救い"。

先手を打たれてしまった。



「―――光輪(ヘイロー)―――」



…ん?

「…ん?何も…起きてない??」

魔王は私を鋭く睨みつける。

と、思えば急に笑い出した。

「ぷッ…!あははッ!まさか!!」


「―――光輪(ヘイロー)の半径が地球の半径より大きいって!なんて奴だ!君はッ!」


何もわからない。何もわからないが、"時間はある。"とみてよさそうだ。



「―――"シルバーキューブ"!」



今日まで、ずっと構想段階だった。

パープルキューブの2色ではなく、4色。DNAと同じ4要素。

2ビットを1つの魔力で表すことで、同じ魔力使用料で計算力が2倍、いやそれ以上にアップする。

さらに!


「マルチプル!囲え!」


"自身の体をホログラムで複製する"魔法。

物理をプロテクトで再現しつつ、計算効率の上がったシルバーキューブで自動制御する。

分身が魔王にとびかかる。しかし、ヒールの音は止まない。

ノーモーション・ノールックで分身を処理していく。


「ッ!―――フレアぁあああああ!!!」


今はただ、魔王が迫ってくることが怖い。

死んでしまうことが、恐い。


「レールガンッ!レールガンッ!」


普通なら氷の城はとっくに崩れているはずだ。

なのに壊れないのはなぜだろうか。

答えは簡単だ。

"魔王"の作った魔法では、"魔王"を害することはできない。

わかっていた。理解(わか)っていたんだ。

それでも、ここに来なくちゃいけなかった。

管理者である"魔王"の手のひらで踊らされていたとしても。


叫ぶ。叫ぶ。のどが痛い。

のどぼとけが詰まって苦しいようだ。

肉薄する魔王と目が合う。

目で追える。避けはしない。

やっと死ねると力が抜けて、私の顔面はつかまれて、地面に叩きつけられた。

椅子を作る魔王。すぐ隣に、私の顔を見下ろすように座る。

急に話しかけたくなって、言った。

「―――ししょー、強すぎます。」

魔王はふかく瞬きをした。

「そうだね。」

答えてくれたことがうれしくて、地面に仰向けのまま続ける。


「勇者なんてかっこつけましたけど、やっぱダメでした。」

「そうかな?」

私は、力む頬を必死に元に戻そうとする。


「魔物、強すぎです。」

「いいや?もっと強くしても大丈夫だよ。」

優しく、慰めるような温かい口調。


「―――あ、勇者の紋章…」

「ふふ、あげてこなくてよかったの?」

「ししょーが代わりにやっといてください。」

「…わかったよ。」


それから死ぬまでの1時間、たくさん話した。話すことは十分にあった。

私についている天使の輪は、少しずつ小さくなった。


「…岳川さん、ごめん。私じゃ、ダメだったね。」

じゃあね、と一言告げて、私は魔王の目の前で息を引き取った。


・・・


仮面を被った男が、墓地で死体を掘り起こしていた。

なにやら怪しい呪文を唱えた。

棺は突然輝いた。

「―――ッ!よし!"降霊術式"が成功したッ!!」

仮面を被った男は、その棺の、紙を顔に張られた男を見ていた。

「さてさてぇ~!紙の色は―――」




「―――え、おい…、まじか…!嘘だろ!?」


続く。

No.25 [光輪](Addition)

対象の"知能"が高ければ高いほど、対象が死ぬのに時間がかかる。


No.35 [シルバーキューブ]

ビット数を倍に向上させたパープルキューブ。

圧倒的な計算速度と精度によって、これまでにない魔法を作り出すことができる。


No.36 [マルチプル]

自身の体データで、ホログラムを作ることのできる魔法。

要するに分身である。各々に自身と同じ能力があり、思考を共有することで多彩に動く。


No.37 [降霊術]

???

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