朽ちて猶貴方に。
たぁのしんデ。
「ままぁー、あれ何ー?」
「あれって…人?なんで空中で静止してるの?」
ある昼、東京のレジスタンス上空に黒い人影が浮かび上がった。
影はまるで最初からそこにあったように、固定されたように静止している。
魔物ではない。魔物はピュリフィケーションによって出現と同時に消滅するためである。
人々は皆、恐怖に震えた。
『―――人類で魔法を使える、つまり”適応”した人間は紬と魔王、その側近しかいない。』
それが、他ならぬ紬によって明言されていたからである。
つまりあれは、"魔王またはその側近クラスの化け物"だということが半ば確定していた。
「んー…?」
状況確認をしに来た紬が空を見上げ目をこらす。
あっと驚いた声をあげて、ため息をつく。
「―――あ゛ーまじすか……Aくん?だよねぇ…」
紬は、指をそれに向けて魔法を放つ。
「ショット。」
突然、魔法は打ち消され、空から冷たい風が吹く。
「やっべ怒らせた!?」
げぇ、と嫌そうな顔をしたかと思えば、目線はまっすぐそれに向いている。
「パープル・キューブ! ホーリーフィールド! プロテクト!」
呪文を宣言するたった数秒で、"Aくん"と呼ばれる男は紬に肉薄する。
彼の持つ銀色の剣が、人間とは思えない速度で、真円を描くように斬撃を放つ。
―――キィン! と高い音が響き、"プロテクト"が、割れた。
あの剣は魔法だ。
そうでなければ、紬の"プロテクト"を簡単に突破することはあり得ないのだから。
紬はもうすでに何枚も"プロテクト"を砕かれている。
それでも、紬のそれは他の防御魔法とは一線を画す出来だが…。
紬は口角を上げ、呟く。
「―――ほう…?その剣面白いね。いわゆるありがちなミスリルってとこかなぁ…。」
狡猾な捕食者の笑みのように思える。
「岳川さん、よく聞いてー!」
彼女は四方八方迫りくる剣戟をかわしつつ、冷静に私に話をした。
銀色の霧が周囲から吸い寄せられ、剣へ溶け込む。
「これは生成魔法。でも無から作ってるわけじゃない。」
周囲から物質を奪って構築する、やたらと迷惑な魔法だ。
レジスタンスのテントの支柱、倒れたビルの鉄筋が少し風化していく。
それだけじゃない。作られた鋼の剣は、魔力を含むことでさらに強度を増している。
魔法で修復も可能なのだとか。
打ち合いが激しくなる。紬はプロテクトを何枚も展開し、速度を低下させ剣を避ける。
プロテクトでは剣に敵わない。プロテクトが魔力の引力だけに頼っているのに対して、
この剣はそれに金属の結合の力が加わるためだ。
パープルキューブで予測された軌道上にはプロテクトがドミノのように展開される。
甲高い音を響かせながら、剣はそれを容易く砕いていく。
「―――ねぇAくん、なんかしゃべったらどう?」
返事はない。ただの屍のようだった。
紬はただ一言、"ショット"を唱えた。
No.026 [プロテクト]
結界魔法を改良し、簡単な図形による高速展開を目的とした魔法。
結界魔法より汎用性は低いが、演算能力もあまり必要とせず、非常に低コスト。
No.027 [生成魔法]
周囲から粒子をもぎ取って物体を形成する魔法。
作られた物体には、魔力が一定割合含まれている。
鉄を生成すればミスリルなんかと呼ばれる。
Aくんが生成したのは、そこから炭素を微妙に含ませた鋼である。




