太陽に空いた穴
Aくんより。
「#08、いつまでここにいるつもり?人類滅んじゃうよ?」
魔王様。
こうなることは予想できなかった。確かに、ヘパブルルカは死んだ。
だけど、魔王様が本当に"魔王"になることには、意味を感じられない。
全世界に嫌われて、人の道を捨ててまで、何を…。
「―――魔王様、お言葉ですが、なぜこのような事を?」
「言わない。誰が聞いてるかもわからないしねぇ…。」
ん?おかしい。だって、魔王様は―――
「魔王様、ここ南極です。魔王様が建てた、難攻不落の城です。」
「察しなよ…まだ言えないんだ。」
私は馬鹿だ。私には魔王様の意思を測るほどの賢さがない。
ロクな育て親に恵まれず、盗みをはたらき、終いには親愛なる魔王様を疑ってしまうこの体たらく。
本来ならば、疑う必要はない。魔王様は完璧だから…だが、疑ったのには理由がある。
―――記録係の紬が、魔王様を止めようと気が狂ったように暴れだしたからだ。
あれはもはや人の言葉ではなかった。唾は飛び、一睡もしていない頭を痛めながら、
焦点の定まらないような瞳で必死に訴え、よろめきながら、しかし力強く魔王様の胸ぐらを掴んだ。
あんなに人は狂うのかと思った。
私には学がない。しかし、人一倍つらい経験をしたはずだった。
それでも、なぜそこまでつらいのか、よく分からなかった。
だけれど―――
「魔王様、私は、こうやって世界を支配しようとするのはよくないと思います。」
これだけは分かる。魔王様は今、”間違ったことをしようとしてるんじゃないか”って。
「そうだね。だけど、やらないと。」
ダメだ、魔王様。私がいずれ主と呼びたいのは―――
「―――なら、止めてみせます。魔王様が分かっていただけるまで…。」
―――あの日に、私を優しく受け入れてくれたあなただ。
私は、魔法刻印を空中に描いた。
これは、私がこのような世界になってから生み出した、私だけの魔法。
馬鹿な私にも分かりやすく、絵を描く、魔法。
「火球ッ!」
しかし私は、侮っていた。というより、想像に及ばなかった。
学のない私に分かりやすいということは、他から見れば、さらに分かりやすいのだ。
「―――光輪。」
私の火球は、その魔法が発生する直前に、風化してしまった。
私の頭には、天使の輪が。
力が、抜けていく。
有り余る魔力が、あふれ出る全能感が…突然、姿を消した。
ヘイロー?呪文の意味が分からない。
私はこのまま死んでゆくのか?
最後は、愛する人の手で殺されるのか?
私は、なんてみじめだ…。
「ごめんね、#08…。きっとまた、来世で逢えるよ。」
―――そうなんですか、魔王様。
そうやって、私は息絶えた。
No.24 [魔法刻印]
魔法はイメージによって操作するが、それだけに頼るのは常人には難しい。
そのため、限界までかみ砕き、可視化し、イメージという不安定な部分をなくした論理的な魔法体系。
のちの魔法使いたちによって、魔術へと進化を遂げた。
No.25 [光輪]
魔王のみが使用できる魔法。慈愛をテーゼとする、最も優しく殺す魔法。




