力を貸して。
…
「―――Aくん?…おーい、聞こえてる?」
紬は笑顔で男の猛攻を避け続けている。
かと思えば、今度はぁ、とため息を吐いて、拳を構える。
「返事しない方が悪いからね…」
そんなことを言いながら、紬は拳に魔力を纏わせていく。
目を見開く。
瞳孔が大きく開き、男の像を丸呑みするかのようだ。
もはやその場をその孔の小さな暗闇で染め上げるような威圧感を放っていた。
男はひるまなかった。まるで、気づいていないかのように。
「―――アクセル!」
紬は、男に対して、ただ魔力を使っただけの攻撃では、彼を守っている防御壁を破り、あまつさえ肉を切るなんてことはできそうにない。
だから、実体を持たせる。自らの体によって、魔法の強度をより強くする。
まだ生成魔法が使えない紬の、それなりの応急処置だ。
そしてダメ押しの加速。
ありったけの一撃を、男に叩き込んだ。
―――紬は表情を変えた。
おかしい。
殴ったら跡ができる。血が出ることもある。
しかし、「腹を殴ったら変形して戻らない」なんてことはないはずだ。
男は顔色一つ変えない。いいや違う、表情に力がない。目が紬を捉えていない。
明らかだった。男は死体だ。
紬はすっと口角を下げた。
再開した剣戟を冷静によけながらも、どこか細部が震えて見えた。
「…やりやがったか…魔王ッ…!」
紬は、こらえるように、押し殺すように叫ぶ。
男は、とっくに死んでいた。
現在世界で魔法が使える3人のうちの1人、魔王の側近こと#08。
彼は魔王に殺され、その死体はすでに人形と化していた。
魔王は人形となった彼を使って、"最新のアップデート"を伝えに来たのだ。
「生成」
紬は唱える。
魔法というわけのわからない現象を、紬はそれをほんの数分ですべて解析してみせた。
―――彼女の"体"が、粒子に包まれていく。
紬は真の意味で、体を作り変えてしまった。"人体の再生成"…それが今初めて成し遂げられたのだ。
彼女の体はより柔軟で、より硬く、より人間とは異なる存在へと進化してしまった。
紬は歩く。
歩く。
ただ歩く。
もうプロテクトは要らない。彼女の体はそれよりもはるかに硬かったからだ。
剣と紬の体がぶつかって、火花がはじける。
衝撃波のような高音が、伝播して基地全体を揺らす。
ゆっくりと距離が縮まる。
紬の手が、男の胸に触れる。
「ありがとう。必ずどこかでお返しするよ―――」
「―――ただ、今は…私の糧になって欲しい。」
男は、剣を振るのをやめた。
男は、緋色の霧となった。
その霧は、紬を覆った。
霧は晴れ、紬の黒い髪は長く、そして大きく背が伸びていた。
目尻のあたりをくしゃっと歪めて、ただ少しの間、立っていた。
No.28[アクセル]
紬がとっさに編み出した、体にレールガンをかけ、最大限加速させる魔法。
上手い調節がないと、腕をひとつ失うこととなる。
No.29[死霊操術]
魔王が使った、死体を意のままに動かす魔法。
再発見され、その一族が代々継承することとなる。
のちの禁呪、"降霊術"として恐れられる。




