魔法は危うく。
ししょーから、ヘパちゃんが死んだと聞かされた時、私は、どう思っただろう。
三日三晩泣いただろうか、それか、怒り狂って暴れまわっただろうか。私は、
"三日間ただ天井を見ていた。"
時も忘れていた。思考がゆっくりと、しかしながら急速に脳内を暴れまわった。
ただその場にへたり込んで、上を見上げて、目が赤く充血して、
足がしびれて冷めたように青くなっても、姿勢は変わらなかった。
三日たって現実に引き戻したのは、ししょーからの信じられない一言だった。
「―――私は、魔王になる。」
信じられなくて、聞き返した。ししょーは、
「私が、世界の恐れる魔王になって、世界を終わらせる。」
と、言った。
私はヘパちゃんの死を急速に”理解”した。
沸いたのは怒り。ししょーへの怒りだ。
なんでそうなるんだ、どうしてヘパちゃんの気持ちを分かってあげないんだ、と。
三日間正座のような姿勢で血の回っていない足が、睡眠不足でほとんど機能していなかった脳が、
この時ばかりは、ヒステリックになるために、ししょーを罵倒するために、よく動いた。
・・・
気づいたら眠っていた。
部屋は暗く、私は魔法で構成された鎖に両手をつながれていた。
どうやらししょーは本当に魔王になりに行ったらしい。
外からは叫び声、銃声、獣のような雄たけびが聞こえた。
A君はいなかった。
目の前にはおにぎりとコップ一杯の水。
ししょーについていった、せめてもの温情だった。
私は犬のようにこれを貪り食い、水をかぶるようにして飲んだ。
鎖の魔法には暗証番号が付けられていた。
4桁。10000通りだ。
9999から順番に、9998, 9997, 9996とだけ試した。
これはししょーがかけたものだ。
A君であれば、このような悪質なことはしない。
であれば、私が0000から一万通り試すことを想定して、正解を後半に持ってくるはずだ。
しかし解除されない。私は仕方なく、一万通りを試すことにした。
・・・
正解の番号は9995だった。
ししょーの性格の悪さがよくわかる。だから魔王になるなんて言い出すんだ。
脱水症状餓死寸前の私は、冷蔵庫のありとあらゆるものを口に放り、玄関の扉を蹴破って外へ出た。
外は、黒い生物のようなものがはびこり、そこら中に魔力があった。
ししょーは、わずか数日の間でやってのけたのだ。
魔王となるという、偉業を。
・・・
ししょーの家のものをすべて物色することにした。
大量のバッテリ缶、魔力の黒い瓶、
魔法を蓄えた。
あの黒い生物に立ち向かう魔法。
そして、あの天才である魔王に打ち勝つための魔法を。




