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「こんにちわー。」
・・・見事にダレもいない図書館。
夏休みだし子供でもいるか、と思ったんだけど、人一人居やしない・・・って、俺もガキの頃図書館なんていったことないな、と納得。
「とりあえず、村の歴史でも・・・。」
受付のばぁちゃんがうたた寝してるんで、勝手に(一応挨拶はした。聞こえてるかは別として)入って、日向の匂いと埃がまじった本棚をあさる。
「ん・・・、このあたりか。」
村の歴史(ていうか既にこの図書館自体歴史だろうが)をまとめてあるらしい、日焼けした本をめくる。
昔、食料も乏しく、雨も降らず、そんな中で親が子供を売る、そんな事があった頃の昔。 当然、写真なんてあるわけないし、文献しかないんだけど。
見目いい子ってのは「売る場所」もそれなりにあるもんでわりといい値段で売れたらしい。
売られる子供の年齢もバラバラで、理解している子も、いない子もいたらしく。
持たせてやる荷物もなく、手渡せるものといえば、唯一、「名前」位。
その名前、も、ずっと持っていられるものではない事もある為、木片に彫って手渡す程度。
里心がでて、逃げられては、と捨てられる事も多かったらしく、それこそ、何も持たずに売られていく訳で。
「・・・そんなちっちゃい年齢で理解、とか、それもせつねぇなあ・・・。」
つい、勝手に想像して、なんともいえない気分になる。
当然、今の時代しかしらない俺の価値観でしかない、それこそ独りよがりのノスタルジィ。
親元はなれて、綺麗な着物着せてもらえるような所で、幸せなこともあるかもしれねぇけど、一緒に苦労したりなのが幸せなんじゃねぇかな・・・いや、・・・一緒にいるのが幸せともかぎらねぇのかもだよな・・・。
なんて、ふと思って、首の後を掻いて、ふぅ、っと息を吐く。
すまん、俺の両親。
少なくとも俺は幸せなんで、安心してくれていいからなっ。
なんて、一瞬自己嫌悪みたいのが入り込んできて、それを追い払う。
なんとなく、しか思い出せない、親の顔。
唯一、おぼろげに多分覚えているのが、撫でてくれた手。
俺の名前を呼んで撫でてくれた思い出。
なのに、顔も、声も、思い出そうとしても思い出せない。
俺が今のうりよりガキの頃か、それより前か、天涯孤独の身になって。
育ててくれた、というより、家においてくれた、綾子おばさんには悪いが、家族、と思えるのはあの「手」と、ジィちゃんだ。
親の顔もはっきり思い出せないのに、嫌でも思い出す言葉。
「保険金が入るんじゃなかったら誰がアンタなんか。」
三つ子の魂百まで、とはよくいったもんだよな、なんて呟きかけて、せめて、3才くらいまで一緒にいたら、顔も覚えてるのかななんてちょっと弱気になる。
あの人に引きとられたおかげで、ジィちゃんにあえたんだし、毎年夏は俺の幸せな思い出になってるんだから、と真夏らしく前向きな結論に行き着いたあたりで。
パラパラ、と本をめくる音。
ふとふりかえると、テーブルで本を枕によだれたらして寝ている、うり。
扇風機(クーラーがない図書館って、初めてだぞ?)の風を受けて、枕になりきらなかった本のページがめくれたらしい。
「ああ、良かったら麦茶でも飲んでいきな。図書館に人がくるなんて珍しいんでねぇ、ついつい居眠りしちゃったみたいだよ。」
顔をあげて、会釈する。
さっき受け付けでねてたばぁちゃんが、木の盆に氷をいれた麦茶を乗せて持ってきてくれた。
「あ、こちらこそすみません。」
そういって、麦茶を受け取る。
「え・・・っと。」
麦茶は、一つ。
「ん?」
「あ、いえ、なんでもないです。今日は暑いですね。」
そういって、麦茶に口をつける。
・・・やっぱ、見えてねぇのか?
本が散らばって、枕にしてあって、うりは服きてて。
どこまで見えてないのか、かなり気になる。
ばぁちゃんが奥に戻り、また、うりと、俺だけになった図書館。
外からはセミの声。
真夏の昼下がり、図書館で、っていうシチュエーションに、なんか懐かしいような不思議な気分。
寂しい、っていうのも少し似てるんだけど、嫌な寂しさじゃなくて。
懐かしくて、それで嬉しいような、寂しいような、なんつーか妙な気分になる。
「ぁゃーとー。」
目を覚ましたらしく、目をこすりながらのてのて、と俺のほうに歩いてくるうり。
「お、・・・よだれついてんぞ?」
と、ほっぺたを拭ってやる。うー、とか声を発するも、無抵抗に拭われる。
「・・・うり、ちっとそれ見せてみ?」
うりが首から下げている、木の首飾りのようなもの。
「ぅ?」
手を伸ばして、裏返してみる、と。
「・・・・・・。」
なにやら彫ってあるような痕はある・・が、つけたまま風呂入ったりしてたせいか、判別はちょっと厳しそうだ。
「うり、これどーした?」
「うー?」
首を傾げるうり。
「これ、うり、どこでもらった?」
「ぅ?」
さらに首をかしげる(そろそろ45度は傾いてるぞ?)うり。
「覚えてないか?」
「ぁーぃー?」
首がしんどくなったらしい。ぐーるぐる、とゆっくり首を回す。
その反動で俺の手から木片が離れる。
「・・・ま、いっか。んじゃ、そろそろ帰るぞ。」
「ぁゃと、のうー。」
「はいはい、おいでおいで。」
うりを背中にのせて、おぶってやる。
ぎゅー、と首に手を回し、ひっついてくるんだが、ひんやりしてるもんだからかなり心地いい。
「あれ、帰るのけ?」
「はい、お世話様でした。麦茶ご馳走様でした。」
頭を下げる。
「またおいでねぇ、いつでも麦茶くらいだしてやるから。」
「ありがとうございます。」
と、笑顔で挨拶。
相手の目線はやっぱ、俺だけ。
おぶってる体勢のまま、なんで、見えてないなら違和感もありそうなもんだけど。
・・・つーか、・・・いいか。
俺にはうりがみえてて、会話もするし、飯も食う。
他にも見える人がいたならそれはそれだし、人にうりが見えていようといまいと、必要になったら考えりゃいいよな。
実際、他にもそゆ人もいるかもしれんし(いない気もするが)家族ができたってことで素直に喜ぶことにしよう。
そうときめたら。
「うり、今夜なにくいたい?」
「ぅ?」
「お祝い、っつーことで、なんでも好きなもん食わせてやるから。」
「おいあい?」
「そそ。」
「うり?」
「んー、まぁ、そだな。俺とうりのお祝いだ。」
「あやとよかった?」
「うんうん。うり、俺の家族決定ってことで。」
「よかったえー!」
「・・・。」
いまいち理解していないらしい。
「うり、俺の家族。つまり、これからずっと一緒ってことで。」
「いっしょー!」
「そ、一生、な?まあ、何かと色々あるかとは思うけど、その時考えてくしかねーもんな。明日にでも、いっぺん俺のアパート戻って、荷物やら取りに行こうな。」
「かぼちゃっ!」
「あー・・はいはい、今夜はかぼちゃな・・・って、かぼちゃを俺にどうしろとっ?」
「ぷーいーんっ!」
「んじゃ帰りにプリンかってかえるか。ケーキもかって、・・・久々に酒も買って帰るか。」
「けーき?」
「あまーくて、クリームついてて、多分うりは好きなはずだ。」
「けーきもー!!」
「わかったわかった、今日はなんでも好きなものかってやるからなー?」
「わーいっ!」
背中で腕ぶんぶんふりまわして大喜びする、うり。
とりあえず、明日荷物取りに行って、おばさんとこいって、遺産なり金なりの話してこねぇとだな。
むこう住んで仕事探しながら、でもいいんだが・・・。
なんとなく、うりと東京に戻る、っていうよりは、俺がこっちに住んで、っていうほうがしっくりくる気がする。
確か、保険やらなにやらで俺に両親残してくれた財産って、とりあえずは一生暮らしていける額だ。
おばさんは相当文句いいそうだけど、全額まとめて受け取って、そんでこの辺で土地買って、家でも建てて。
・・・正直、毎日ぼんやりして、昼夜適当で、何曜日かもわからなくなってるような生活してた自分が嘘みたいだなー、と、我ながら思う。
携帯は充電きれたまま、テレビも部屋では常時つけっぱなしだったのに、音楽すらない、ジィちゃん家で、退屈だった瞬間なんてなかったんだよな。
「ジィちゃん家残してもらえるんだったらそれでもいいんだよな。畑もあるし。」
「ぅー?」
「冬になったらこの辺雪すごそうだな、カマクラ作って中でメシ食ったりできるかもな?」
「けーきもー!」
と、背中から飛び降りて、左手にぶら下がるうり。
「しっかりつかまってろよー?」「じゃじゃじゃじゃっ!」
と、それをぐいっと持ち上げて、でこぼこな田舎道を走り出す。




