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・・・っていっても、やっぱ夏だよな。
「あじゅー」
日陰とはいえ、若干外に比べたらひんやりはしてるけど、それでもあれこれ捜し歩いたりしてる分には汗かく。
「うり、その箱何か入ってたか?」
人間の視界は120度らしい。
その、俺の視界ぎりぎりで箱となにやらしてるうりに声をかけてみる。
「うり。」
「うり、って・・・・ぶっ。」
多分、みかんの箱と推測。
土埃が結構積もってる事からして、いつのみかんだかわからないが。
「ほら、埃まみれになってるぞ?」
その箱の中にちょこんと座り込んで、フタのへりに手をかけて、まるで「ひろってください」とか書いてあるみたいに、こっちをみてにこにこしている、うり。
「ふー」
気合のぬけた声であちこちに息を吹きかける。
「うり、手ぇみせてみ?」
「ぁぃっ!」
ぱっと俺に向けて開かれたちっちゃい手のひら・・・・
「真っ黒だぞ?」
「くろー!」
しかも、よく見てみると、箱にもうりの手形がぺたぺた・・・よじのぼったんだな、こりゃ。
「んー、大してこれといったもんも見つからないし、今日はこの辺で勘弁してやって、風呂でも入って冷たいモンでも食うか?」
「かんべんやうー!」
「よし、んじゃまずはうり、キレイキレイしようなー?」
「ぁゃときえー?」
「まずはうりだぞ?キレイにしておかないと美人さんになれねーぞっ?」
「ぁゃとびじ?」
「いや、俺はあんまり美人じゃねーな、うん。」
「びじ、いい?」
ん?と首をかしげて箱の中から聞き返してくる。
「うんうん、いいな。」
そりゃ、美人はいいかってきかれりゃー、成人男性としては「いい。」だろう。
まぁ、美人なだけじゃなくて、こう、ぐっとくるセクシーとかあふれる萌え、とか・・・
「ぁゃと、かあいそー?」
「まてまてまてまてっ、いや、いやいやいや、なんでもないぞっ?なんでもない、俺はおっけーだっ!」
「じゃぁ、ぷりぃん、いいよー?」
「ど、どこでどう話がつながったんだ・・・?」
キキキキ、とかいう、虫の声を聞きながら、うりと風呂に入る。
「ほら、目つぶってー。」
「ぅゃっほぅっ!」
うりの頭を洗ってやり、桶でお湯をかけて流してやる。
「ん、うり、首飾りはずさなくていいのか?」
「ぅ?」
・・・と、顔をあげ、真ん丸いめをぱっちりと・・
「ぃぁぁぁぁぁ!!ゃぁぁぁぁぁぁ!!」
あけたのがまずかった。
ちょうどお湯を流してるところに上を向いて目を開いた、うり。
「ぅゎっ、ちょ、ちょっとまてっ!ほら、顔あらって!」
「はぶっ!ぶっ!じゃぁぁぁ!!」
うわぁぁ、と大声あげて首をふってなきじゃくる。
「ほら、ほら、しみたな、ほら、もっかい目あいてここに顔つけて、な?」
「ぅやぁぁぁぁっ!」
「ごめんごめん、うり、ごめんな、ほら、風呂上がったらつめたーいジュースのませてやるから、目ぱちぱちしてみ?」
「ぁぅっ・・・。」
ジュースがきいたのか、ちょっとだけ落ち着いて、桶を覗き込む。
さんざん涙ボロボロ泣いたから、目洗わなくても平気かなーなんて思ったけど、念のため。
「さ、うり、ここに顔つけて、目ぱちぱちってしてみ?」
「ぁぅぅ。」
素直に桶に顔をつけるうり。
「・・・じゃっ!げほっ・・がっがっがっ!」
「どしたっ!?」
・・・泣きじゃくってしゃくりあげてるところで顔を水がはいった桶に・・・
思いっきり吸い込んだな、こりゃ。
「あー・・・ごめん、俺が悪いな、うり、ごめんごめん。」
むせてる背中をなでてやって。
顔洗わせようと思ったんだけど、こりゃしばらく顔つけてくれなそうだな・・・。
まぁ、十分あらえただろうから心配はないかな。
「ぁぁぁぁゃとっ、ぅぁーん。」
顔をぐしゃぐしゃにして泣くうりの鼻をかんでやり、頭を撫でて、体をざっと洗ってやる。
湯船が結構深いもんで、へりにつかまって入るうりに膝を貸してやって、二人で30数えて。(ちなみに冬場は50になる。)
夏場に夕方薄明かりで深い風呂につかるって、気持ちがいい。
外の井戸でスイカ冷やしたらがえらい冷えててうまいだろうなーなんて思いながら、蛙の声をききつつ。
「ふゃー♪」
顔が赤くなってきたうりを抱き上げて、風呂から上がる。
ちょうど、東の空に一番星。
タオルでごしごしとこすってやって、
「うり、うえむいてー。」
上を向かせてあごのしたを拭いてやる。
木片の首飾り、夏だし乾くだろうと判断して表面をタオルでちょっと拭う程度にとどめる。
そして自分も頭からタオルを被るようにゴシゴシと適当に拭いて。
「って、あっちぃなー、汗ひかないぞ。」
冷たい水で顔を洗いなおす。
「うり、冷たいので顔あらうか?」
「ぅ?」
と、うりの腕を拭いてやって・・・
風呂からでて、時間そうはたってない。
汗引くほどの時間もたってないわけで。
「ぁゃと?」
ひんやりと冷たいカラダに気がついて、ふっと、なんていうか、ナニカ、が引っかかる。
「ん、風呂上りにジュース飲もうな。」
「ぁぃっ!」
こくこく、と嬉しそうに頷くうりをみて、まぁ、いっか、なんて思い直して。
風呂上りにうりにきせてやろうと今日買ってきた服もあるんだし。
「ぱっ!」
景気よくコップ一杯のジュースをごくごくと一気に飲み干して、うりが立てる音。
おやじでいう、ビールのんですぐの「っかー!」にあたるんだろーか、なんて思って、思わず笑う。
「あんま一気に飲むと腹こわすぞー?」
「ゃー!」
「よし、そしたらこれきてみ?」
「あいぁっ!」
昼間買った下着やらパジャマやらを出してやる。
ワンピースは明日昼間着替えにしよう。
「ほら、裸でいたら風邪ひくぞ、パンツはけっ。」
「ぁぃっ!」
両手を挙げて返事をする、うり。
おしい、パンツは上からじゃなくて下からだ。
しかし、向こうにいた頃は夜は何してたんだっけ、って思う、俺。
ほんの数日前だっていうのに自分の生活がえらい変わった気がする(実際かわってるんだが)。
大抵は、一人でシャワー浴びて、つけっぱなしのテレビを適当に眺めて酒でも飲んで。
そのうち深夜番組になる頃、コンビニいったり、たまに酔っ払って終電逃した友達が泊まりにきたり、とか、せいぜいそんなもんだ。
・・・って考えてみただけでも一週間俺、同じことしてるような気が・・・。
「んー・・・。」
「むー・・・。」
思い出してなんか切ないような情けないような気分でついたため息にあわせてうりの声。
どうやら眠いらしく、膝にもたれかかってこく、こく、と小さい頭が揺れている。
「うり、眠いのか?」
「んー・・・?」
あー、眠そーだな。
ジィちゃん家、テレビとかないしな。
電気も、今はもう通っていないから、夜になれば、当然暗い。
とはいっても月明かりに、倉でみつけたランプで別に不自由はない。
テレビをみるでもなく、うりと二人であれこれ食って、着せ替えして(別にそーゆーんじゃないからなっ!ただ、着替えを手伝っただけだっ!)最初に比べてボキャブラリーが増えたうりの歌を聞いたり、話(途中でめまぐるしくかわるんでつながっていないが)を聞いたり。
そんなかんじで過ごして。
「んじゃ、布団しくぞー?」
「むー・・・。」
呼吸でもれる音に近い声で返事らしきものが返ってきたので、そっと離れて布団をしく。
「明日は花火でも買ってくるか。」
倉調べて、そのあとちょっと外でて花火かって。
近くで祭りでもあったらうり連れて行くか・・・って。
間違いなく大喜びするだろうなーなんて思って、わたあめかってやろうとか思って、それと同時に頭によぎる、きっと大事なこと。
素性調べて──って、そこからどうしたいのかとか。
ついついなごみまくってるけど、このままでいいのかとか。
風呂で触れたうりがひんやりしてたこととか。
寝床の準備がおわって、床に丸まって寝てるうりを抱き起こす。
やっぱり、ひんやりと、冷たい。
子供を抱き上げたことがないから、重さについてはよくわからない。
・・・ダメだな、大事なことかもしれないけど。
考え始めるとなんつーか。
「ぁゃともー・・・。」
ぐりぐり、と目をこすって寝ぼけ眼で呼びかけてくる。
「ん、俺ももうねよっかな。」
「んー。」
こくっと頷くうりを、布団におろしてやる。
ランプを消して、隣にもぐりこむと、
「おやすみ。」
「じゃすみぃぃ。」
頭を撫でてやって、眠りにつく。
よし、考えても仕方ない!
蒸し暑い夏の夜にうりと寝るとひんやりしてて気持ちいいんだからそれでいいってことで(冬は?とかつっこむな!)!
「ぅぁーゃーと?」
「あー、あとちょっと・・・。」
「ぅー・・・きぁぁぁぁぁぁ!」
ぼふっ!
奇声を発して俺の真上にダイブする、うり。
さっきまでみてたなにやら甘ったるいような、もうちょっとみていたいような夢が一気に消えうせた、が。
「んー♪」
寝起きからご機嫌で喉をならす(猫のそれににてるかも)うりの頭を撫でて、今も十分甘いよなー、とか思って、なんつーか、色気もなんもないんだが幸せっていうか。
「よし、メシにしような?今日は昼、村の図書館でもいって、ゆっくりしてこような。」
「ぁぃっ!」
うんうん、と、一語一句言うたびにこくこく頷いてそのたびに満面の笑みを浮かべるうり。
外に出て、目に痛いくらいの太陽に顔を軽くしかめ、井戸の前へ。
さすがにしばらく住んでいない上に相当古いだけあって、冷蔵庫はないし、水道もない。
なもんで、手動でキコキコ、と井戸から水を汲むのだが。
「っきゃぁぁぁぁ♪」
水がでるのをみて大喜びして注ぎ口に座り込むうり。
「こら、朝から水浴びかっ?」
「ぁゃとも!」
水の勢いが途切れるたびに頭をぷるぷるふって水を弾き、次を待つ顔を見てついつい続ける俺。
昨夜は暑かったからなぁ、寝汗もかくし、気持ちいいだろう、なんて思ってうりがはじく水が足にはねるのを心地よく感じる。
「よーしよし、体冷える前に拭いて、飯にするぞー?ジィちゃんとこの畑から色々とってきて冷やしておこう、晩飯うんまいの食おうなー♪」
「ぁーぃっ♪」
ご機嫌で塗れた体でびたっ、っと抱きついてくるのを抱き上げて、ぶんぶん、と振って水を切ってやる───のが大層お気に召したらしく。
「もっとー!じゃっじゃっじゃっじゃっじゃっ!」
ぐるぐる振り回されるのが嬉しくてたまらないらしい。太陽はあっついし、このままうりどっかにぶらさげといたら・・・さすがに怒るか。
「うり、そんじゃお着替えしよーなー?」
「ぅー」
物足りないのか、若干ほっぺたを膨らませる。
「それ、脱いで、居間いったら、かわいーいうりの服があるんだけどなー?」
「!!!」
ぱちっ、と目を開くと、
「ぁゃとっ、ぁゃとっ!」
腕を上にあげて、ばんざい、をする。
「はいはい。」
脱がせ、って事だろうなーなんて思いつつ、服を脱がす。
「んっ!んっ!!」
あー、頭が引っかかってるよ、濡れた服は脱ぎづらいんだぞー?
とか思いながら服に引っかかって軽く持ち上がりそうなうりの様子をみてみると。
「ぶっ。」
ぶんぶんっと頭を振り、足をじたばたさせ、勢いをつけてべちっ、と音を立てて服から無事離脱した。
「うりのー!」
と、ぱんつ一枚で居間を目指して走っていく、うり。
「・・・あー・・・。」
なんとも言えず、うりの「抜け殻」をぱんぱんっ、と引っ張って直し、物干し竿に引っ掛けて後を追う。
「しっかし、いい天気だなぁ・・・。」
ジィちゃんの家にあった手ぬぐいを被って、はしゃぐうりをのんびりと追いかけながら歩く道。
とはいえ、アスファルトのそれとはちがって、なんていうか、柔らかい。
信号で止まるたび開く自動ドアからくる冷房の風も、アーケードの日陰も全くない、踏み固められた土と、見渡す限り目に青い田んぼ。
「のどかだな、ほんと。」
すぐ近くを流れている小川のシャラシャラいう音になんとなくにやける。
「電磁波、だとか、排気ガス、ってなんだっけーってレベルだな、こりゃ。」
とんぼを追いかけてうりが勢いよく走っていった。
「しかし、暑いな。」
顔中をタオルで拭う。
と。
前方でうりが転んだらしい。手ぬぐいが宙を舞って、「うりサイレン」が鳴り響いた。




