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「あら、一ヶ月ぶりね。こんな朝早く珍しいじゃない。」
「ああ、昨日はジィちゃん家にとまったもんで。」
むすっとした顔で、俺にしぶしぶと茶封筒を手渡すババァ。
一応年配者は敬おうっていう気持ちがないわけじゃないがっ。
「全く、若いくせに暇もてあましてうらやましいわ。金があるっていいわよね。」
「ああ、2,3日あそこに泊まろうかと思ってるんで。」
「あら。なにか遺産でもでてきたの?」
「・・・いえ。」
ここであれこれいったって不愉快になるのがオチ。
てか、このババァもうりの事みえてねぇのかな。
「まぁ、いいけど。」
「そうっすね。」
見えてないのか、気にしてないのか。
「ところで、おばさん。」
「綾香ねえさん、っていってくれるかしら?」
「ああ、すみません、綾香おばさん。」
ねぇさんって年かよ、とか内心思いつつ。
「・・・なに?」
うわー、すっげぇ不機嫌そう。
俺の左腕に絡み付いてるうりが、ぎゅっと唇をかんでほっぺたを膨らます。
「俺の左腕に何か見えます?」
「・・・はぁ?」
「いや、見えないならいいんです。」
「あんた、ジィさんの亡霊にでも取り付かれてるんじゃないの?」
「んじゃ、これで失礼します。また来月。」
「しっかり掃除しといてよね。」
あー。気分悪いババァだ・・・。
無言で、玄関のドアを閉めると、絡みついたうりと手をつないで歩き出す。
───しかし。
見えてない、ってことだよな?
「うり?」
「・・・ぁぃ。」
「プリンってくったことあるか?」
さっきから、どうも元気がない。
「ぷぃん?」
「プリン。甘いぞー。」
「!」
きらっと目が輝く。
「ぅー♪」
「んじゃ、買って帰ろうな?」
「ぁぃっ!」
手をつないでいる、うりの右手にぎゅーっと力が入るのを感じる。(あいかわらずひんやりしているが。)
もう片方の手をぶんぶんと振り回して、ご機嫌で歩く、うり。
妹───かぁ・・・。
ふっと、なんとなく思って、我に返る。
元々兄弟はいない、親も、ガキの頃からいない。
気楽な独り暮らし、といえば聞こえはいいが、一人ででかい家に住んでも、虚しいだけだ。
税金の管理、だとか、勿体無いから、だとかで住んでた家は売る事になり、あのおばさんのとこに引き取られ、大学行くのを理由に都内にでて、今に至る。
「うり、ジィちゃん家帰ったら、一緒にあれこれ調べてみような。」
「ぁぃ。」
「いい返事だ。」
と、頭をなでて。
傍から見たら、俺ってどう見えてるんだろう、とかちょっと気になる。
何も無い空間に話しかけて、なでる仕草・・・なのかな。
アパートの辺りだったら、人も多いしで、よく春先になるとでてくるちょっと頭のかわいそうなヤツ、ってとこか・・・なんて思って、自分の部屋を思い出す。大して荷物もおいてない、住居っていうだけの部屋。
ジィちゃん家のあたりは、ほんとにそんなに人にも出くわさない。
だからこそ変なことしてるヤツがいたら余計目立つんだろうが。
「9980円になります。」
「じゃぁ、10000円で。」
さすが田舎、店が無い!
初夏とはいえ、ほぼ夏な暑さの中、うりとあちこち歩き回って、やっとみつけたスーパー。
とりあえず、あれこれ調べたいし、気になるし、しばらくジィちゃん家泊まりこみ予定であれこれと買い込む。
他人が珍しいのか、じろじろと見られるのが妙に新鮮──と思いつつ、うりがみえてるんじゃないかと心配になったりしたが、どうやらそうじゃないらしい。
「おにぃちゃん、どこからきたの?」
なんて袋に詰めてたら、いきなり声かけてくるばぁちゃん。
「あ、東京からジィちゃん家に休みなんで泊まりに来てます。」
「あらぁ、若い人はいいねぇ。」
「いやいやー、そんな。」
愛想笑いをして、手を振る。
しかしっ。
ほんっとに田舎だなぁぁ・・・。
昨日見なかった人がいた、ってだけでわかるもんなのか・・・。
「で、どこにとまってるのぅ?」
「あ、・・・ジィちゃんもう亡くなって、秋に家取り壊しになっちゃうんで、それで・・・。」
・・・と、言葉を伏せてみる。
「ああ・・・三宅さんとこかねぇ・・・?」
「はい、・・・いいジィちゃんでした・・・。」
お、効果覿面だなっ。
ジィちゃんは大好きだったけど、さすがにこんだけ年数たってたら心の踏ん切りもついてる、22歳男子。
とはいえ、ばぁちゃんには「これ以上つっこんできいちゃいけない」オーラが俺から出てるようにみえたらしく。
「あの人はいい人だったよぅ、なにか困ったことあったらばぁちゃんに言いな、三宅さんとこからすぐ側だからね。」
「ありがとうございます。すぐ近くなんですか?」
「ああ、歩いて30分位のお隣さんだよ。」
ばぁちゃん、歩いて30分って、十分遠い。
「ぜひ、頼りにさせてください。ありがとうございます。」
「いいっていいって、お隣さんだもの。」
「それじゃ、ボクはこれで失礼します。」
にこっ、と笑うと、右手で荷物をもって、うりと手をつないだまま、店の外へ。
軽く辺りを見回して、誰もいないことを確認すると。
「うり、帰ったらおやつにしようなっ。」
「ぁぃっ!」
なんでスーパーで衣料品が売っているのかは気になるが、とりあえず一まとめにできて良かった。
着替えも何にも持ってこなかったし、さすがに汗かいたんで着替えたかったし。
うりにきせてやれそうな服も売ってたし。
──って、すっげぇ勢いで馴染んでる自分がいる訳ですが。
つい、24時間ほど前あったばっかりの・・・・人形・・・・。
なんとなく、人形、っていうに抵抗が出てきてる、俺。
藁葺き屋根に、古ぼけた木の家。
田舎独特の広い庭(さすがにジィちゃん家はそれの中でも特別だろうが)に、幾つかの倉。
明後日辺りには、一回アパートもどってみないとなー、なんて、ふと思ってみる、初夏の昼下がり・・・なんて、予定も何もないから別にいいんだけど。
「うり、風呂入ったらこれ着てみ?」
「ぅ?」
さっきかってきた服の袋を手渡す。
たいしたもんが買えたわけじゃないが、とりあえず、下着とワンピースと、パジャマ。
下着買うのがかなり恥ずかしかったわけですが。
「ぅよーん♪」
「って、ちがうっ!」
早速袋を開けて、パンツを頭にかぶってみせる、うり。
「それはかぶるもんじゃなくて、履くものだ!」
「ぅー?」
和服きるとき、下着はつけないっていうのが常識だ、とかきいたことがあるんだがっ。
やっぱり、何となく気になるし、ワンピース買ったからには、やっぱり、なぁ?
「ぁゃとー!」
「ん?」
「いっしょ!」
「何が?」
「いっしょ、いく!」
パンツを頭にかぶったまま、うり。
大層上機嫌で俺の服の裾を引っ張る。
「おやつー、おふろー!」
「お、プリンくうか!」
「ぁぃっ!」
ぶんぶん、と首を縦に激しく振って頷く。
外にいる間は、景色が珍しかったのかどうかしらないが、殆ど口を開かないでいたんだけど、帰ってきたら元気に買ってきたものを見てはあれこれ見たり(被ったり)匂いをかいでみたり。
「おふろも!」
「ん?先に入るか?」
「いっしょ!いっしょ!」
「・・ってっ!」
そ、それは若干まずいんではないかとっ!
一応成人男性として、ちょっと気になってみたりする自分。
ま、まぁ、つるつるなわけで、一回うりを箱から出したときに若干みてはいるんですがっ。
ほ、ほら、それに人形だしー・・・って、そっちのほうがある意味俺変態とか?
「うり、一緒に入るー・・・って・・・。」
「ぁゃととはいうっ!」
昨日は俺一人で風呂入って、るりはそのまま寝ちゃってた訳で。
確かに夏に風呂は必須。
マキ燃やして、一人で入れ、っていうのも酷な気もする。
「んー・・・」
「ぅー」
むぅっ、とふくれる、うり。
「んじゃ、入るか!」
「ぁぃっ♪」
途端に上機嫌で腕を振る。
ほ、ほら、夏だし、洗ってやらないといけない年齢なわけだし!
妹みたいなもん(実際一人っ子だったんだけど)で、実は人形なんだから洗ってやるのも当然だし普通!(動くししゃべるし物も食うけど)
別にやましいとかそういうのは全くないんだから問題なし!
念のため言っておくが俺はロリコンじゃないし変態でもないっ!
ただ動く人形を風呂に入れるだけだ!
「ぅしししっ」
嬉しそうに服を脱ぐうり・・・ってちょっとまてっ!
「うりっ、まだ湯わかしてないっ!服脱ぐの早いっ!」
「ぅ?」
「まずは、ほら、プリン食おう、なっ?その間に沸かしてくるから」
「ぁぃっ!」
慌てて服をきせて、うりにプリンとスプーンを渡して風呂を沸かす。
スプーンを右手をにぎるようにして横にもつ。
不器用そうな手つきであんぐりと口をあけ、プリンを口いっぱいにほおばる。
その隙に風呂を沸かしに行く、俺。
「ふぅ。」
別に俺が慌てる必要も普通ならないわけだ、が。
人形だ、とは頭でわかっていても、どんどんそうは思えなくなってる、俺。
まぁ、人形と風呂にはいったことはないし、ナニがしたいっていうわけじゃないんだがっ。
「これが冬だったら結構きついもんがあるな。」
薪を割り終えて、ふと思う。
いくらボロアパートとはいえ、スイッチ一つで風呂は沸かせる。
真冬に薪をわって、風呂をわかす作業を思うと、今が夏でよかったとしみじみ。(汗まみれになるのが難点だが。)
「うーりーのぷりぃぃんっ♪」
うりの声がする。
ふっと振り返ると、ぷりんを左手、スプーンを右手にもって、すぐ後ろでご機嫌なうり。
「ん、きてたのか。」
こくこく、と頷くうり、口のまわりがベタベタなのはプリンだろう。
とりあえず風呂の準備はできたし、あとは沸かすだけだし、うりとおやつでも食いながら待つか。
「よし、そんじゃ向こうもどってゆっくり食うか!」
「ぁぃっ!」
手をつなぐ・・・と、ベタベタした感触がっ!
ふとみると、プリンまみれの手が。
どうやらスプーンの使い方がとても上手じゃないらしい。(どうやって遊んでいたんだか、ほっぺたやらあちこちにまでベタベタが。)
「よし、と。」
居間に座って荷物を広げる。
うちの為に買った服は風呂上りにみせてやることにして。
「うり、明日どうしよっか?」
「ぅ?」
「いや、俺さ、ここじゃないとこに住んでるんだけどさ。」
「ぁゃと、どこ?」
アゴについたカラメルソース(若干苦いのが苦手らしい。)を拭ってやり、ぺろっと舐めながら、
「んとな、ここは俺のジィちゃん家なんだ。んで、もうずっと前に死んじゃって毎年夏に俺が遊びに来てて。」
きょとん、と小首をかしげてくる、うり。
「んー・・・。うりは、いつからそこにいたんだ?」
「ぅ?」
去年も一昨年も、もちろん先月も俺はジィちゃん家来てたけど、うりにあったことはなかった。
そもそも、あそこの倉を開けた事がなかったから、仕方ないのかもしれないけど───
・・・って、そんな前からずっといたのならメシとか風呂とかあるだろうし、生活してたあとがあるならきづかないはずがないよな。
でも、俺が初めてあの倉で、あの箱に入ったうりを見つけて、それまでこの家に生活感なんて感じたことはなくて。俺以外にここにくるやつもいないわけで。
「んー・・・、やっぱここはちゃんとしておこうな、俺のアパートくるなり、親探すなりしねーとまずいんだし、うり、覚えてることあるか?」
「ぅー・・・。」
もくもくと食べていた口が止まる。
わずかに口をとがらせて、じっと俺を見る、うり。
「こら、口とがらせてちゃだめだろ?」
そういって、うりの小さなほっぺたをぷにっ、と右手で両側から軽く押す、と。
ぷっ!
と、プリンがはみでた。
「ぶっ!」
「んー!」
と口のなかのそれを慌てて飲み込むうり。
俺の腕についたはみでたプリンに口をつけてちるるるる、と吸う。
「んー・・・、まぁ、もっかい倉いって色々みてみるか。」
「ぁぃ!」
時間は3時をちょっとすぎたあたり。
これから倉を探索して、それから風呂に入って飯にするプラン(実にたいしたことないプランだが。)を頭の中で組み立て、汗かきまくりなアイス珈琲に口をつける。
「うりも!」
それをみて、あんぐり、と口を開ける、うり。
「だーめっ。」
「うりもー!」
「にがいぞ?」
「やっ!」
「いや、やっ!っていわれてもっ!」
「ぁぅー・・・。」
口をとがらせる・・・が、今度は中身は空なはずだ。
ぷにっ、とおすと、
ぷー。
と、間の抜けた音を立てて空気が漏れた。
「うははは、うり、苦いけどいいのか?」
「あいっ!」
その口に一口飲ませてやる、と。
「だー・・・。」
ぱかっと口を半開きにして、珈琲がじゃじゃ漏れにっ。
「ほらみろ、苦いだろ?」
「ぅぅぅぅぅぅぅ。」
涙目になって首を振るうりに、買っておいたリンゴジュースをコップに入れて飲ませてやって、機嫌をなおしてやる。
「よし、そんじゃいくか!」
「ぁぃっ!」
・・・あー、うり、お前また口のまわりベタベタだぞ。




