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うりと夏休み  作者: ぬこ@nuko_nuko


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2




 

 「あら、一ヶ月ぶりね。こんな朝早く珍しいじゃない。」

 「ああ、昨日はジィちゃん家にとまったもんで。」


 むすっとした顔で、俺にしぶしぶと茶封筒を手渡すババァ。

 一応年配者は敬おうっていう気持ちがないわけじゃないがっ。


 「全く、若いくせに暇もてあましてうらやましいわ。金があるっていいわよね。」

 「ああ、2,3日あそこに泊まろうかと思ってるんで。」

 「あら。なにか遺産でもでてきたの?」

 「・・・いえ。」


 ここであれこれいったって不愉快になるのがオチ。

 てか、このババァもうりの事みえてねぇのかな。


 「まぁ、いいけど。」

 「そうっすね。」


 見えてないのか、気にしてないのか。


 「ところで、おばさん。」

 「綾香ねえさん、っていってくれるかしら?」

 「ああ、すみません、綾香おばさん。」


 ねぇさんって年かよ、とか内心思いつつ。


 「・・・なに?」


 うわー、すっげぇ不機嫌そう。

 俺の左腕に絡み付いてるうりが、ぎゅっと唇をかんでほっぺたを膨らます。


 「俺の左腕に何か見えます?」

 「・・・はぁ?」

 「いや、見えないならいいんです。」

 「あんた、ジィさんの亡霊にでも取り付かれてるんじゃないの?」

 「んじゃ、これで失礼します。また来月。」

 「しっかり掃除しといてよね。」

 



 あー。気分悪いババァだ・・・。

 無言で、玄関のドアを閉めると、絡みついたうりと手をつないで歩き出す。

 ───しかし。

 見えてない、ってことだよな?


 「うり?」

 「・・・ぁぃ。」

 「プリンってくったことあるか?」


 さっきから、どうも元気がない。


 「ぷぃん?」

 「プリン。甘いぞー。」

 「!」


 きらっと目が輝く。


 「ぅー♪」

 「んじゃ、買って帰ろうな?」

 「ぁぃっ!」


 手をつないでいる、うりの右手にぎゅーっと力が入るのを感じる。(あいかわらずひんやりしているが。)

 もう片方の手をぶんぶんと振り回して、ご機嫌で歩く、うり。

 

 妹───かぁ・・・。

 ふっと、なんとなく思って、我に返る。

 元々兄弟はいない、親も、ガキの頃からいない。

 気楽な独り暮らし、といえば聞こえはいいが、一人ででかい家に住んでも、虚しいだけだ。

 税金の管理、だとか、勿体無いから、だとかで住んでた家は売る事になり、あのおばさんのとこに引き取られ、大学行くのを理由に都内にでて、今に至る。

 

 「うり、ジィちゃん家帰ったら、一緒にあれこれ調べてみような。」

 「ぁぃ。」

 「いい返事だ。」


 と、頭をなでて。

 傍から見たら、俺ってどう見えてるんだろう、とかちょっと気になる。

 何も無い空間に話しかけて、なでる仕草・・・なのかな。

 アパートの辺りだったら、人も多いしで、よく春先になるとでてくるちょっと頭のかわいそうなヤツ、ってとこか・・・なんて思って、自分の部屋を思い出す。大して荷物もおいてない、住居っていうだけの部屋。

 ジィちゃん家のあたりは、ほんとにそんなに人にも出くわさない。

 だからこそ変なことしてるヤツがいたら余計目立つんだろうが。






 「9980円になります。」

 「じゃぁ、10000円で。」


 さすが田舎、店が無い!

 初夏とはいえ、ほぼ夏な暑さの中、うりとあちこち歩き回って、やっとみつけたスーパー。

 とりあえず、あれこれ調べたいし、気になるし、しばらくジィちゃん家泊まりこみ予定であれこれと買い込む。

 他人が珍しいのか、じろじろと見られるのが妙に新鮮──と思いつつ、うりがみえてるんじゃないかと心配になったりしたが、どうやらそうじゃないらしい。


 「おにぃちゃん、どこからきたの?」


 なんて袋に詰めてたら、いきなり声かけてくるばぁちゃん。


 「あ、東京からジィちゃん家に休みなんで泊まりに来てます。」

 「あらぁ、若い人はいいねぇ。」

 「いやいやー、そんな。」


 愛想笑いをして、手を振る。

 しかしっ。

 ほんっとに田舎だなぁぁ・・・。

 昨日見なかった人がいた、ってだけでわかるもんなのか・・・。


 「で、どこにとまってるのぅ?」

 「あ、・・・ジィちゃんもう亡くなって、秋に家取り壊しになっちゃうんで、それで・・・。」


 ・・・と、言葉を伏せてみる。


 「ああ・・・三宅さんとこかねぇ・・・?」

 「はい、・・・いいジィちゃんでした・・・。」


 お、効果覿面だなっ。

 ジィちゃんは大好きだったけど、さすがにこんだけ年数たってたら心の踏ん切りもついてる、22歳男子。

 とはいえ、ばぁちゃんには「これ以上つっこんできいちゃいけない」オーラが俺から出てるようにみえたらしく。


 「あの人はいい人だったよぅ、なにか困ったことあったらばぁちゃんに言いな、三宅さんとこからすぐ側だからね。」

 「ありがとうございます。すぐ近くなんですか?」

 「ああ、歩いて30分位のお隣さんだよ。」


 ばぁちゃん、歩いて30分って、十分遠い。


 「ぜひ、頼りにさせてください。ありがとうございます。」

 「いいっていいって、お隣さんだもの。」

 「それじゃ、ボクはこれで失礼します。」


 にこっ、と笑うと、右手で荷物をもって、うりと手をつないだまま、店の外へ。




 軽く辺りを見回して、誰もいないことを確認すると。


 「うり、帰ったらおやつにしようなっ。」

 「ぁぃっ!」


 なんでスーパーで衣料品が売っているのかは気になるが、とりあえず一まとめにできて良かった。

 着替えも何にも持ってこなかったし、さすがに汗かいたんで着替えたかったし。

 うりにきせてやれそうな服も売ってたし。

 


 ──って、すっげぇ勢いで馴染んでる自分がいる訳ですが。


 つい、24時間ほど前あったばっかりの・・・・人形・・・・。

 なんとなく、人形、っていうに抵抗が出てきてる、俺。

 





 藁葺き屋根に、古ぼけた木の家。

 田舎独特の広い庭(さすがにジィちゃん家はそれの中でも特別だろうが)に、幾つかの倉。

 明後日辺りには、一回アパートもどってみないとなー、なんて、ふと思ってみる、初夏の昼下がり・・・なんて、予定も何もないから別にいいんだけど。


 「うり、風呂入ったらこれ着てみ?」

 「ぅ?」


 さっきかってきた服の袋を手渡す。

 たいしたもんが買えたわけじゃないが、とりあえず、下着とワンピースと、パジャマ。

 下着買うのがかなり恥ずかしかったわけですが。


 「ぅよーん♪」

 「って、ちがうっ!」


 早速袋を開けて、パンツを頭にかぶってみせる、うり。


 「それはかぶるもんじゃなくて、履くものだ!」

 「ぅー?」


 和服きるとき、下着はつけないっていうのが常識だ、とかきいたことがあるんだがっ。

 やっぱり、何となく気になるし、ワンピース買ったからには、やっぱり、なぁ?


 「ぁゃとー!」

 「ん?」

 「いっしょ!」

 「何が?」

 「いっしょ、いく!」


 パンツを頭にかぶったまま、うり。

 大層上機嫌で俺の服の裾を引っ張る。


 「おやつー、おふろー!」

 「お、プリンくうか!」

 「ぁぃっ!」


 ぶんぶん、と首を縦に激しく振って頷く。

 外にいる間は、景色が珍しかったのかどうかしらないが、殆ど口を開かないでいたんだけど、帰ってきたら元気に買ってきたものを見てはあれこれ見たり(被ったり)匂いをかいでみたり。


 「おふろも!」

 「ん?先に入るか?」

 「いっしょ!いっしょ!」

 「・・ってっ!」


 そ、それは若干まずいんではないかとっ!

 一応成人男性として、ちょっと気になってみたりする自分。

 ま、まぁ、つるつるなわけで、一回うりを箱から出したときに若干みてはいるんですがっ。

 ほ、ほら、それに人形だしー・・・って、そっちのほうがある意味俺変態とか?


 「うり、一緒に入るー・・・って・・・。」

 「ぁゃととはいうっ!」


 昨日は俺一人で風呂入って、るりはそのまま寝ちゃってた訳で。

 確かに夏に風呂は必須。

 マキ燃やして、一人で入れ、っていうのも酷な気もする。


 「んー・・・」

 「ぅー」


 むぅっ、とふくれる、うり。


 「んじゃ、入るか!」

 「ぁぃっ♪」


 途端に上機嫌で腕を振る。

 ほ、ほら、夏だし、洗ってやらないといけない年齢なわけだし!

 妹みたいなもん(実際一人っ子だったんだけど)で、実は人形なんだから洗ってやるのも当然だし普通!(動くししゃべるし物も食うけど)

 別にやましいとかそういうのは全くないんだから問題なし!

 念のため言っておくが俺はロリコンじゃないし変態でもないっ!

 ただ動く人形を風呂に入れるだけだ!


 「ぅしししっ」


 嬉しそうに服を脱ぐうり・・・ってちょっとまてっ!


 「うりっ、まだ湯わかしてないっ!服脱ぐの早いっ!」

 「ぅ?」

 「まずは、ほら、プリン食おう、なっ?その間に沸かしてくるから」

 「ぁぃっ!」


 慌てて服をきせて、うりにプリンとスプーンを渡して風呂を沸かす。

 スプーンを右手をにぎるようにして横にもつ。

 不器用そうな手つきであんぐりと口をあけ、プリンを口いっぱいにほおばる。

 その隙に風呂を沸かしに行く、俺。




 「ふぅ。」


 別に俺が慌てる必要も普通ならないわけだ、が。

 人形だ、とは頭でわかっていても、どんどんそうは思えなくなってる、俺。

 まぁ、人形と風呂にはいったことはないし、ナニがしたいっていうわけじゃないんだがっ。


 「これが冬だったら結構きついもんがあるな。」


 薪を割り終えて、ふと思う。

 いくらボロアパートとはいえ、スイッチ一つで風呂は沸かせる。

 真冬に薪をわって、風呂をわかす作業を思うと、今が夏でよかったとしみじみ。(汗まみれになるのが難点だが。)


 「うーりーのぷりぃぃんっ♪」


 うりの声がする。

 ふっと振り返ると、ぷりんを左手、スプーンを右手にもって、すぐ後ろでご機嫌なうり。


 「ん、きてたのか。」


 こくこく、と頷くうり、口のまわりがベタベタなのはプリンだろう。

 とりあえず風呂の準備はできたし、あとは沸かすだけだし、うりとおやつでも食いながら待つか。 


 「よし、そんじゃ向こうもどってゆっくり食うか!」

 「ぁぃっ!」


 手をつなぐ・・・と、ベタベタした感触がっ!

 ふとみると、プリンまみれの手が。

 どうやらスプーンの使い方がとても上手じゃないらしい。(どうやって遊んでいたんだか、ほっぺたやらあちこちにまでベタベタが。)

 



 「よし、と。」


 居間に座って荷物を広げる。

 うちの為に買った服は風呂上りにみせてやることにして。


 「うり、明日どうしよっか?」

 「ぅ?」

 「いや、俺さ、ここじゃないとこに住んでるんだけどさ。」

 「ぁゃと、どこ?」


 アゴについたカラメルソース(若干苦いのが苦手らしい。)を拭ってやり、ぺろっと舐めながら、


 「んとな、ここは俺のジィちゃん家なんだ。んで、もうずっと前に死んじゃって毎年夏に俺が遊びに来てて。」


 きょとん、と小首をかしげてくる、うり。


 「んー・・・。うりは、いつからそこにいたんだ?」

 「ぅ?」


 去年も一昨年も、もちろん先月も俺はジィちゃん家来てたけど、うりにあったことはなかった。

 そもそも、あそこの倉を開けた事がなかったから、仕方ないのかもしれないけど───

・・・って、そんな前からずっといたのならメシとか風呂とかあるだろうし、生活してたあとがあるならきづかないはずがないよな。

 でも、俺が初めてあの倉で、あの箱に入ったうりを見つけて、それまでこの家に生活感なんて感じたことはなくて。俺以外にここにくるやつもいないわけで。


 「んー・・・、やっぱここはちゃんとしておこうな、俺のアパートくるなり、親探すなりしねーとまずいんだし、うり、覚えてることあるか?」

 「ぅー・・・。」


 もくもくと食べていた口が止まる。

 わずかに口をとがらせて、じっと俺を見る、うり。


 「こら、口とがらせてちゃだめだろ?」


 そういって、うりの小さなほっぺたをぷにっ、と右手で両側から軽く押す、と。

 ぷっ!

 と、プリンがはみでた。


 「ぶっ!」

 「んー!」


 と口のなかのそれを慌てて飲み込むうり。

 俺の腕についたはみでたプリンに口をつけてちるるるる、と吸う。


 「んー・・・、まぁ、もっかい倉いって色々みてみるか。」

 「ぁぃ!」


 時間は3時をちょっとすぎたあたり。

 これから倉を探索して、それから風呂に入って飯にするプラン(実にたいしたことないプランだが。)を頭の中で組み立て、汗かきまくりなアイス珈琲に口をつける。


 「うりも!」


 それをみて、あんぐり、と口を開ける、うり。


 「だーめっ。」

 「うりもー!」

 「にがいぞ?」

 「やっ!」

 「いや、やっ!っていわれてもっ!」

 「ぁぅー・・・。」


 口をとがらせる・・・が、今度は中身は空なはずだ。

 ぷにっ、とおすと、

 ぷー。

 と、間の抜けた音を立てて空気が漏れた。


 「うははは、うり、苦いけどいいのか?」

 「あいっ!」


 その口に一口飲ませてやる、と。


 「だー・・・。」


 ぱかっと口を半開きにして、珈琲がじゃじゃ漏れにっ。


 「ほらみろ、苦いだろ?」

 「ぅぅぅぅぅぅぅ。」


 涙目になって首を振るうりに、買っておいたリンゴジュースをコップに入れて飲ませてやって、機嫌をなおしてやる。


 「よし、そんじゃいくか!」

 「ぁぃっ!」


 ・・・あー、うり、お前また口のまわりベタベタだぞ。






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