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第九話「秋保大滝の囁き」


 仙台の奥座敷、秋保大滝。日本三大名瀑のひとつとして名高いこの滝は、轟々と流れ落ちる水音を辺りに響かせ、観光客を圧倒していた。高さ55メートルから落ちる白布のような水は朝日を受け、飛沫が虹を描いている。


 しかし、その荘厳な景観を前にしても、捜査員たちの顔は険しかった。ここが――鴻池達郎議員と葛城慎一が最後に接触した地であると判明したからだ。


 滝見台に立つ地元の茶店の主が証言を寄せた。

「議員さんとあの眼鏡の男……葛城って人か、二人で滝を眺めてたよ。議員さんは腕を組んで険しい顔をしていた。葛城の方は何やら低い声で喋りっぱなしだったな。……あれは観光客の顔じゃなかった」


 遼真は轟音に耳を澄ませながら、その光景を思い浮かべた。

(滝の音が会話をかき消す……人目のある場所で密談するにはうってつけだ。葛城は議員をここに連れてきて、最後の“交渉”を持ちかけたに違いない)


 現場を調べると、滝壺へ続く遊歩道の脇から、折り畳まれた紙片が見つかった。水気を帯びて滲んでいたが、かろうじて文字が読み取れる。

 ――「K計画」「口封じ」「Z」――


 山岸刑事が眉をひそめた。

「“計画”……? これは議員と葛城の間で交わされたメモか、それとも第三者が残したものか」

 西園寺一課長は紙片を見つめ、低く言った。

「いずれにしても、議員はここで“殺される危険”を悟っていたはずだ。だから最後に削除されたメッセージで“ZUIHODEN”と残し、我々に手掛かりを託そうとしたのだろう」


 その時、地元の老夫婦が震える声で新たな証言を差し出した。

「滝を出た後……議員さんが、一人の若い男に声をかけられていたのを見ました。背広姿で、二十代後半くらい。議員さんは怯えたように立ち止まり、その男と一緒に駐車場の方へ……」


 「若い男……?」遼真は息を呑んだ。

 つまり、議員を最後に連れ出したのは葛城ではなく、別の人物――“実行犯”の存在が浮かび上がったのだ。


 山岸が呟く。

「葛城は呼び出し役、交渉役だった。そして議員を最終的に“差し出した”のが、この若い男か……」


 遼真の胸に冷たいものが走る。

(そうか……議員を噴水に呼び出したのは葛城だが、刃を振るったのは別の実行犯……。二人は明確に役割を分担していた。なぜなら、それほどまでにこの殺害計画は入念だったからだ)


 滝壺から吹き上げる霧が、遼真の頬を濡らした。轟音の中に、議員の最後の声なき叫びが溶けているように感じられる。


 ――鴻池達郎は何を知り、なぜ殺されなければならなかったのか。

 ――そして、“若い実行犯”は何者なのか。


 秋保大滝の水音は、囁きのように問いを重ねていた。



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