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第八話「大崎八幡宮に残された影」


 松島での調査を終えた遼真たちは、次なる目的地――仙台市青葉区の大崎八幡宮へと向かった。桃山建築の国宝として知られ、朱塗りの楼門の向こうに広がる境内は荘厳で、参拝客や修学旅行生の賑わいに満ちていた。だが、その華やぎの奥に、鴻池議員と葛城慎一の“痕跡”が確かに残されていた。


 石段を登る途中、山岸刑事が顔をしかめる。

「議員はここでも“観光客”を装っていたと考えるべきでしょうな。だが、松島と同じように葛城が同行していた。やはり全行程が仕組まれていた……」


 境内の茶店に立ち寄ると、女将が記憶を辿りながら証言を口にした。

「ええ、確かに数日前、議員さんともう一人の男が寄りましたよ。議員さんは饅頭を口にしても上の空でね、隣の男がずっと耳元で何か話していました。議員さんは頷くだけ。まるで“説得されている”ようでしたね」


 「その男の特徴を覚えていますか?」と遼真が訊くと、女将はすぐに答えた。

「ええ、眼鏡をかけた中年で、背はそこまで高くないけれど、目が鋭かった。あれは“ただの観光客”じゃないわ」


 その証言に西園寺一課長は無言で頷き、境内の隅に立つ掲示板を指差した。そこには防犯カメラが設置されていた。捜査員が映像を解析すると、朱塗りの楼門を背景に、鴻池議員と葛城慎一が並んで歩く姿が鮮明に映し出された。


 議員は手を後ろで組み、落ち着かぬ様子で空を見上げていた。対して葛城は懐から紙束を取り出し、議員の胸元に押し付けるように見せていた。その映像を前に、室内の空気が一気に重くなった。


 「紙束……資料か、あるいはリストかもしれません」山岸が言う。

「議員はそれを拒みきれなかった。だが葛城はなおも強く迫っている。まるで――」

「取引の場だな」

 西園寺の言葉に、全員が息を呑んだ。


 映像を食い入るように見ていた遼真は、ふいに思い出した。

「……そうだ。鴻池議員は、ある党内派閥の資金疑惑に関わっていたと、以前に記事で読んだことがある。葛城は元記者だ。その疑惑を追っていたが記事を潰された。となれば――」


 西園寺が遼真の言葉を引き取る。

「葛城は記事を書けなくなった代わりに、議員本人に“口止め料”や“情報の取引”を迫っていたのかもしれん。議員がそれに応じなければ、全てを暴露すると」


 山岸が唇を噛む。

「つまり……議員は葛城に“握られていた”。観光地巡りはただの遊覧ではなく、密談を重ねるための隠れ蓑。だが最終的に議員は殺された。では葛城が直接手を下したのか、それとも――」


 沈黙が訪れる。境内の太鼓の音が遠くに響き、風が幟を揺らした。


 遼真は胸の奥に冷たい確信を抱いた。

「葛城慎一……あの男は記事を書くための記者ではない。彼自身が“情報を使って動く存在”になってしまったんだ。だから議員を呼び出し、圧力をかけ、最後には……」


 「……誰かと共謀した」

 西園寺の低い声が重なった。


 境内を吹き抜ける風が、朱塗りの楼門の影を長く伸ばしていた。その影はまるで、まだ見ぬ“黒幕”の姿を映す虚像のようだった。


 遼真の視線は、冷たく揺れるその影に釘付けになった。

 ――議員を殺したのは葛城一人ではない。背後に、さらに大きな“力”が潜んでいる。



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