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第七話「松島に潜む影」


 瑞鳳殿で発見された写真の中に映っていた四十代半ばの男――眼鏡をかけた中肉中背のその人物は、鴻池議員と観光地を共に巡っていた“虚像の男”に他ならなかった。解析の結果、土産物店の領収書や交通系ICカードの履歴が新たに浮かび上がった。男の名前は 葛城慎一(かつらぎ しんいち・45歳)。元地方新聞社の記者で、現在はフリーライターを名乗りながら、政財界の周辺をうろついている人物だった。


 「葛城……かつて議員秘書の汚職事件を追っていた名前だ」

 西園寺一課長は低く唸った。

 「だが表向きには記事を途中で降ろされ、新聞社を退職している。その後の足取りは不明だったが……まさか議員と同行していたとは」


 遼真の胸に不穏な予感が広がる。

(政界を追っていた元記者が、なぜ議員と一緒に観光を……? 本当にただの観光なのか。それとも――)


 調査班は写真に映る次の場所、松島へ向かった。


 松島湾を見渡す高台。大小260余の島々が波間に浮かび、青い空と海に溶け合っている。観光客が列をなす五大堂、遊覧船からは人々の歓声が聞こえる。だが刑事たちの視線はただ一つ、写真に映っていた背景の「福浦島の赤い橋」に注がれていた。


 その回想は、土産物店の店員の証言によって具体化された。


 ――数日前、鴻池議員と葛城慎一が橋を渡る姿を見たという。議員は上着を肩にかけ、やや疲れた様子で歩いていた。隣で葛城は熱心に耳打ちをし、手にしたメモ帳に何かを書きつけていた。


 「ただの観光客じゃない。雰囲気が違いましたね。議員は頷くばかりで、葛城さんが主導しているように見えました」

 店員ははっきりと証言した。


 遼真は橋のたもとに立ち、その光景を思い浮かべる。

(つまり議員は“案内されていた”……いや、“導かれていた”。松島も、瑞鳳殿も、大崎八幡宮も、秋保大滝も――全ては観光を装った“ルート”だったのではないか)


 山岸刑事が声を潜める。

「葛城は記事のために議員を追っていたのではない。むしろ、議員を操作していた……。非通知の電話、削除されたメッセージ、すべては彼が絡んでいると見ていいでしょう」


 西園寺一課長は頷き、言葉を重ねた。

「葛城は政界の闇を知りすぎていた。議員と共にいたのは取材のためではなく、何かの“交渉”だったはずだ。そして……議員はその交渉の末、口を封じられた」


 松島湾を渡る潮風が強まり、赤い橋がきしむ。遼真は潮の香りを胸に吸い込みながら、心の奥に冷たい疑念を固めていった。


 (葛城慎一……あなたが議員を噴水へと導いたのだろう。けれど、なぜ直接手を下さなかった? 別の実行犯を用意してまで、議員を消す必要があったのか?)


 松島の波間に映る影は、答えを拒むかのように揺れ続けていた。


 だがその揺らぎの中にこそ、真実へ続く道が潜んでいる。

 遼真は葛城という“虚像の男”の正体を追う決意を、改めて胸に刻んだ。



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