閑話108、たった一つの身に余る平等で煩悩な願い
ワイ君は無能や。
無能として産まれてきた。
それは仕方ないんだ。
だから………
無能として、適応する術を学んできた。
そうやって生きてる。
生きてきた。
けども………
正直、たま〜に思う。
もしも、もしもワイ君が普通の頭で産まれてきたら、どうなってたんやろうと?
天才として産まれてきたかったとか、贅沢は言わん。
ただ、普通で良いんや。
普通の頭で産まれて。
普通に育ち。
皆に邪魔にされる事も
指をさされることも
目立つ事も
笑われることも無く
皆に蔑まされることもなく
ただ平等に………
皆と対等に
そんなふうに過ごしてみたかった。
無能として産まれてきたワイ君にとっては………
普通の人にとっては何でもない、
そんな一日が
………何よりも羨ましい。
普通の感覚が分からないワイ君には、望んでも絶対に不可能で無理な事や。
他人とお互いに思いやりをもって共感する。
欲しがってはいけない夢や。
手には届かない普通や。
手を伸ばしては、いけない理想
子供の頃から何度それを望んでも
手からこぼれ落ちるワイ。
ワイのたった一つのかなわぬ望み。
頭の悪いワイには
普通の人がごく普通にするやり取り。
そんな光景すら輝いて見えて羨ましい。
ワイ君は無能ゆえに、
そんなやり取りすらできん。
人と違うからな。
皆と同じ空間にいるのにワイには無理な事
実は本当の所、
ワイ君は他人とコミュニケーションすら普通には、とれてないのや。
それっぽく対応してるだけ
他人とワイ君の認識には、常に大きくズレが、違いがある。
ワイは普通の人と違う世界に生きている。
一人で我慢して生きてる。
他人の邪魔にならんように
その事に、すでに慣れたが………普通の人が羨ましい。
羨望の気持ちはある。
望んでも叶わない夢だとは、わかっとるんやけども、どうしようもないことなんやけども。
たった一日だけでもいいんや。
普通に………過ごしてみたい
もう、我慢せず
何者にも気を使わずに、誰からも気を使われずに………
誰からもうとまれず
普通の人間として、好きな人と町を歩いてみたい。
1日が無理なら
1時間だけでも………
ワイが町を歩いとると
「ハイハイ。皆さん注目。ここに取り出したるは、東方から取り寄せた。食べると頭が良くなる果実ですよ〜〜〜」
そんな商人の声がする。
ワイは歓喜した。
ワイの夢は突然にかなうかもしれない。
「ほ、ホントに頭が良くなるんか?」
「モチロンです。コレは知恵の実ですから。今日一日だけ賢くなれますよ」
知恵の実?
食べると頭が良くなると言う伝説の?
一日だけ?
「よし買ったで〜〜〜。コレでワイ君の長年の夢が叶うんや〜〜〜」
「ハイハイ。1つ銅貨二十枚ですよ〜〜〜」
「安い。買うで〜〜〜」
手のひらサイズの赤い果実を渡されて、それにかじりつく。
甘く少し酸っぱく、初めて食べる味で正直美味かった。
「コレでワイ君は賢くなったやで〜〜〜。これ何て果実や?」
「果実の名前はリンゴです」
「そうか、ワイ君は賢くなった気がするで〜〜」
「そうでしょうとも」
物売り商人と、そんな会話をした。
賢くなったワイ君は、早速屋敷に返る。
アネウットを連れて、町を散歩した。
長年の夢がかなって、とても楽しかった。
途中、ワイ君の今日の話を聞いたアネウットが、知恵の実を売ってた商人を捕まえた。
そして何処かへ連れて行っていたが、アネウットも賢くなりたかったんやろか???
ま、アネウットは元々賢いからな。
それ以上賢くなる必要は無いと、ワイ君は思うで。
それにしても、
たった銅貨20枚で、こんなに賢く幸せになれるなら、良い買い物したで〜〜〜。
ワイ君はついてたわ。
知恵の実を食べて賢くなったワイ君が、上機嫌でニコニコしながら町を歩く。
すると、町の人もニコニコしてワイ君をみとるように感じる。
コレが対等で平等な、普通の人。
彼等普通の人が普段からみとる光景なんやろな〜〜〜。
長年の夢が夢が1つ叶ったわ。
もしも明日、知恵の実の効果がきれて、
ワイが無能に戻っとたら………
また、あの店で赤い果実。
知恵の実リンゴを、もう1個買うやで〜〜〜。
おお!
やっぱり頭が良くなった。
ワイ君さえとるわ。
きのうまでのワイ君なら、こんなナイスアイデア思いもつかなかった。
その日は全てのものが煌めいて見えて………翌日目を覚ますと、何時ものワイ君やった。
ワイは無能に戻ってしまった。
でも、大丈夫や。
今日またリンゴを食べれば良いんや。
りんごを求めて街へ向かう。
アネウットもついてきた。
しかし………………。
「す、すいません。もう貴方にリンゴを、お売りする事はできません」
「な、何でや?」
「あ、アネウットさんが………」
「アネウット?」
「ゴホン」
ワイ君についてきたアネウットが咳払いした。
「あ、いえ。そうでは無く。え〜と」
「若様。この果実は一度しか効果がないのです。二個目を食べても意味ありません」
「そ、そうやったんか」
知らんかった。
知恵の実リンゴは一回だけしか
1日だけしか効果は無かったんか?
………
………………
………………………
ま、いっか。
とりあえず、ワイ君の願いは1日だけでもかなったからな〜〜〜。
楽しかったで〜〜〜。
とてつもなく幸せな1日だった。
それにしても普通に産まれてきた皆は良いな〜〜〜。
毎日毎日、
普通の人と対等に平等に普通に暮らせる。 わいには羨ましいことやでな〜〜〜。
◆◆◆◆
相手が自分よりもモテる人間であっても
口説けないとはかぎらない
そもそもだなぁ
完全に対等な人間など存在しないでしょう
全然モテない人間が
ある日素晴らしい異性から突然にモテる事はありえる。
だからこそ人生は素晴らしい。
しかし
できる事ならば
その時までに
自分を魅力的な人間に磨いておこう。
未来に出会う素晴らしい異性の為に
自分を磨く。
それこそが努力と言うものだ。
自分の為に努力出来ないダメ人間でも
未来の恋人の為ならば
努力出来るのが人間だ。




