ブラ君3
アネウットとブラ君が争う。
その醜い争いに耐えかねたのか、母上が二人の間に割り込んだ。
「アネウット。私から夫と息子を奪った貴方は間違いなく泥棒ネコです」
「当主様。それは……スイマセン!」
途端に大人しくなるアネウット。
「前提条件として。私の息子と、その友人は大馬鹿者達です」
「当主様、………」
「母上それは酷いで!」
「アル君の母上。俺の事を、もっと褒めてくれて良いよ!」
「褒めてません!」
アカン。
ブラ君は絶好調や。
自己肯定感の塊や。
ブラ君は母上でも止められ無い?
そのブラ君は
「アルバート」
「何や?」
「俺は帰る。今日のお別れのチュ〜だ。
チュ〜」
「チュ〜や」
「やめて〜やめてください。若様まで」
「ハッ。つい昔の習慣で……」
ワイの反射的な反応に、アネウットと母上が頭を抱えた。
「大体、ブラウザ様。貴方様は、若様の何処が好きなのですか?」
「アル君は俺に優しくした。俺を見つめた。俺に声をかけた。俺を………」
延々としゃべるブラ君を、アネウットがすごい目で見ていた。
なんというか大型の肉食獣の目だ。
ブラ君が帰った、その日の夜。
アネウットが……
「やはりブラウザ様は始末しておいたほうが良さそうですね。彼の住まいを知っていますか?」
「ブラ君の家へたどり着くのは、大魔王の家へたどり着くよりも困難やで」
「ど、何処に彼は住んでいるのです?」
「ブラ君は塔みたいな建物の最上階9階に隔離、住んどるんやが………」
「隔離って言いました?」
耳ざとく聞き返される。
「そんな事よりも………」
「そんな事って」
「ブラ君の家、9階へたどり着く為には、1階から8階が障害になるんや」
ある意味ダンジョンに近い。
「番人でもいるのですか?」
「ちがうんや」
「では何故?」
「1階から8階まで、ズラ〜と魅惑的で、エロくて、いかがわしい店舗が入っていて、強い意志が無いと、9階へ行くまでに誘惑に負けてしまうんや」
ワイの言葉にアネウットは声を失った。
「しかもたまにブラ君は1から8階の何処かにいる事もあるんや」
見つけるのは困難だ。
アネウットには荷が重い。
ーーーーーー
ワイとブラ君の一日。
「ガラスが液体ってなんや?」
「ガラスは原子的には固体じゃなくて液体と同じ構造をしてるんだ」
「液体?……ならなんで固まってるんや?」
「それが理由はわからないんだ」
「ほえ〜」
ガラスは液体なのに固形なんか?
不思議な話や。
「ガラスがなぜ液体のように動かないか? その理由を発見できれば、大きな賞が取れるかもしれないね」
「そうなんか」
「そうさ」
ガラスは液体?
少し考えてみた。
が………
「う〜ん。やっぱりワイにはよくわからんで、わかりやすく説明してや」
「そうだな………ラジコンとプラモデルは好きかい?」
「どっちも、持っとるで大好きや」
「動くラジコンを液体。動かないプラモデルを固体と考えてくれ」
「わかったで」
「………ラジコンは動く、プラモデルは動かない。ここまではいいな」
「ええで」
「ラジコンとプラモデルは作る時の設計図が違う」
「うん」
それはわかる。
「ラジコンの設計図を元にラジコンを作ったのに、何故かプラモデル同様、動かないラジコンができました。コレがガラスだ」
「ガラスって動かないラジコンって事か?」
不思議やな。
壊れとるんか?
「そうだ。何処に不具合があって動かないのか、誰もわからないラジコン。例えるなら、それがガラスのもつ性質だ」
「ほえ〜〜〜。ガラスでラジコンを作ると動かないプラモデルになるんや。知らんかったわ。教えてくれてありがとうやで〜」
「違う! そうじゃない!」
怒られた。
なんでや?
「アル君といると、たまに無駄な時間を過ごしてるのでは無いかと感じるよ」
「時間何で無駄なもんや。人生は無駄な時間の集まりやで」
「アル君のの無駄な時間と、俺の貴重な時間の価値を同じと思うなよ」
「ファッ? なんでや?」
時間は時間やろ?
「有益で有能者の時間と、無益な無能者の時間では時間の価値が違うんだ」
「ファッ?」
「俺の1秒には、アル君の人生における1時間以上の価値がある」
「ほえ〜〜〜。無能なワイ君は、1時間に360秒の時間が流れとるけども、有能な人の時間は1秒間に360秒以上の時間が流れとるんか? なんか可愛そうやなぁ」
「………違う。そうじゃ無い」
また怒られた。
「ファッ?」
「何もかも計算も秒すらも間違えてるぞ」
「ファッ? 有能はワイ君よりも寿命が短いって話と違うんか?」
「!!!」
「ワイ君の24秒分しか君の1日は無いってことやろ?」
「違う。そうじゃ無い! と言うか、どういう計算をしたらそうなる?」
「つまりはカレイを知り、自分を知れば百選危うカラスっていうやろ? アレや」
「何から何まで訳がわからないよアル君」
ブラ君に呆れられた。
「ワイは無能やからなぁ」
「アル君や。自分の事を無能って言うのを、やめてもらっても良いかい?」
「でも、ワイ君は無能やから」
「それって君の勝手な感想だよね」
「違う。ワイは皆からそう言われるんや」
事実、ワイは無能やからなぁ。
もうなれたけどな。
それでも、無能でやらかして落ち込む事もある。
「失敗して落ち込んでる時はトイレ掃除をすれば良いんやで〜」
「それで状況が改善するのかいアル君?」
「せんで」
状況は何も変わらん。
むしろ悪化する事もある。
「じゃあ何故トイレ掃除を?」
「少なくともトイレが綺麗になるで」
「それだけかい?」
「何かがキレイになるのは良い事や。ソレだけでも、ワイが生きてる意味はあるんやで」
「……たまに言う事が神がかるんだよなあ」
「そうか?」
「ごくたまに、君にはかなわないと思う事がある」
みんな物事を難しく考えすぎるんや。
性格が良ければ嫌われない。
他に何を欲しがる必要がある?
わざわざ性格が悪いのを補う為に、努力してイロイロ獲得する必要も無くなるのに。
ワイには他人の生き方が酷く窮屈なものに見えるけども……
たぶんワイの行き方が間違っとるのは知ってる。
世界中の人間がワイだらけなら
きっと世界を滅ぼしてしまうだろう。




