9 猫といちごパフェと星神
エピローグ1
『では、次のニュースです。昨日午後、日本国内数十ヶ所 GPSで地盤沈下と隆起が確認されました。 ただその時刻、体に感じる地震はなく、気象庁は東南海地震との関連はないものと見ています。 ーさて、次は昨日から今朝にかけて全国各地の神社仏閣の鳥居や山門に小さな亀裂が見つかっている問題ですが、自然に割れたものでありいたずらではないという見方がーー』
昨日は、店内の掃除に追われてニュースを見ている時間がなかった。おーい。これってやばくないだろうか。
画面に写されているのは、都内の有名な神社やお寺で実際の被害は本当に小さな亀裂だ。
「まあ、わざわざ繋がっているとは考えないでしょう。 被害も小さいみたいだし」
里が半壊なんて言ってたから、どんな恐ろしいことになっているかとちょっと心配していた。
「ツイッターに載っているな」
夫婦二人とも、ツイッターはしていないので、見方もいまいちわからないが、桜川がニュースについて
ツイッターを見ると、いろいろな推測のなかに『gpsデータ入手。』『地盤隆起や沈下してるところ被害にあった神社や寺と場所がほぼ同じ』『○○稲荷バッキバキに割れてる』『オカルト?』
って、わざわざあの神社の鳥居の写真が載せられている。
朱塗りの鳥居に生木を裂いたような大きな亀裂がある。ついでにひらひらの紙付きの縄が巻かれた木が真っ二つに裂けている写真まで載せられてる。あのひらひらは確かシメナワって言って・・・・・・
「これってご神木?」
夫はこっくりうなずいた。ワタシ日本ノ風習ワカリマセn・・・
正月はかなり奮発しないと祟られそうだ。
◇エピローグ2
あの騒動から三ヶ月。 今年はお稲荷様に謝罪も込めて泣く泣くお賽銭箱に一万円札をお入れした。
おみくじは一応、お産のところは「安し」となっていた。商売は・・・二人揃ってトラブルあり、ってなっているのがすごく気になるんだけれど。
春。
『次のニュースです。○○県○○市で突発的にデモが発生しています。
まるで集団催眠です。近くの中学の制服を着ている少年や、背広を着ている五十前後の男性まで、幅広い層の男性が一ヶ所に集まっています。ゾン・・・パニック映画のって、カメラさ~ん。』
カメラが不自然に地面にごろっと、転がる。映すのはどこかに向かって歩く人々の足ばかり。
『○○さん。○○さん? 失礼しました。中継が途切れてしまいました』
「いや、電波のせいじゃないだろう」
『人々は○○市郊外にある某施設に向かっているもようです』
別のチャンネルに回すとヘリからの映像が流れていた。映っているのはばっちり辰巳研究所だ。それを取り囲むは都心のラッシュアワーを思わせる人並み。
「ヘリって、中の空気どうなっているんだろう」
女性のワーグってある季節になったら特殊な香りを放ってパートナーを呼ぶ。
ただ、この世界どこを探そうとも同族はいないわけで・・・
同族が近くにいない場合は、パートナーがいなかったりパートナーとの仲がうまくいっていない人間の男性を呼ぶのだ。
効果範囲は確かメートル換算で半径500メートルくらいだろうか。その五百メートルの中にはばっちり高校も中学校 いくつかの会社もある。
辰巳さんには、事前に何度か説明をしたのだが、結局彼は「大丈夫」って笑顔で流した上「時期はいつごろ」などと生き生きした目で尋ねる始末だった。あとはガラパゴスとスマホは孫を残せないのに奇跡だとかなんとか。
「お前の世界って毎年、こんな騒ぎなのか?」
「普通は早めに婚約者を決めるのよ。あとは無理矢理手に入れるのなら山奥の別荘に閉じ込めるとか臭い消しの植物を植えるとか。種も花の見た目もひまわりによく似ているのだけれど、あっちには口がついていたし」
「エルフを否定するわりにはお前の世界ってわりとファンタジーなんだな。 でこの騒ぎいつまで続くんだ」
「アルバに聞いた話だと長くて三日。いい相手が見つかれば一瞬で騒ぎは収まるはずだけれど」
その日のうちに騒動は収まった。 世間様は簡単に見逃してくれないわけで・・・
◇
三日後。
『この度は皆様、お集まりいただきありがとうございます。』
辰巳さんがきっちり五秒きれいな礼をしたあと会見が始まった。笑顔なのが気になる。
『○月○日発生した事案についてですが、ガスや集団催眠等と言われていますが、現象としては花粉と同じように条件が揃えば・・・時期になれば起こる自然現象です。では、質疑を受け付けます。』
あまりに短い説明に、しばし沈黙が流れた。
『今回の件に関して謝罪は?』
『なんの説明にもなっていませんよ』
『ガスが検出されていないことは消防・警察等の発表にある通りです』
副所長の乾さんが答えた後、それを引き継ぐように
『皆様は花粉症を発症したからと言って、その花粉の出所を辿って、杉や桧の持ち主に抗議をしに行くのですか?』
『被害に遇われた方への謝罪は?』
『ここが出所だと認めるのですね』
『報道機関の方々からの問い合わせや一般の方々からのネット電話等でのご指摘はございましたが、あなたがたが被害者とおっしゃる方々は現時点で我々は把握しておりません。もしいらっしゃいましたら、遠慮なく当研究所にご連絡いただきたく思います』
被害って言っても、夕方の五時以降に起こって、一時間半ほどで波が引くように収まったのだ。
別に気分が悪くなったわけではなく、むしろ気分が良かったという者がほとんどらしい。
運良く映像に納められた報道機関はたった二社。あとは周辺住民の投稿が少々と言ったところだ。
『企業の皆様、今回の件に関しまして興味をもたれましたら当研究所にご連絡いただきたく思います』
『ふざけているのですか』
『もっと詳しく説明を』
『申し訳ありませんが、企業秘密に関わりますので。では会見を終了させていただきます』
結局、彼が言いたいこといくつかを言っただけだった。 この珍事件の会見を取り上げたのは、私の見た限り三社それも地方枠のみでの放送だった。
それでも確実に困る人はいるわけで。
「父はまあ、いつかはやらかすだろうって思ってたけれど、母まで名前出すことないじゃないか。」
ヨッシー君の中学校も騒ぎが起こったのだ。
事件の翌日、優等生のはずのヨッシーくんが親ともども『校長室』に呼ばれて、呼ばれた親は研究が忙しいからとかふざけた理由で欠席、ヨッシーくんは一人で校長先生に説明と謝罪をしたのだ。もちろんワーグ云々は説明のしようがないので、ほぼほぼ平謝りだったようだ。
その次の日(つまり昨日)は欠席。辰巳さんの友達のクリーニング店の車で研究所を脱出、二人一緒にこちらに運ばれてきたのだ。
で、今日ばっちり画面に母の名前が出た。
この世界で乾って姓の人がどれだけいるかは知らないが、色んなことを考え合わせると、真相に近い結論にたどり着く人もいるわけで。
「ノートありがとう。噂になってる?」
「あ~まあ。あん時のお返しだ。でも、休んだりしたら余計噂になるぞ」
晴樹くんが答えた。晴樹くんとヨッシーくんはクラスメイトだそうだ。
「私のもどうぞ」
晴樹くんの彼女らしい少女もノートのコピーを差し出す。
この喫茶店での多少の不思議なことに慣れている彼らはヨッシーくんの隣に座っているワーグの耳に視線を向けながらもそれについては触れない。
ヨッシーくんがノートを書いたり、教科書にマーカーを引いたりしているのをしばらく眺めていた一樹くんが、ポツリと呟いた。
「兄の助けになれないのかって」
結末を実際に問い合わせて、作者から返事があったそうだ。
「もう一回繋げられるなら、今度兄の世界にーー」
「あなた、そこで一生生きていく覚悟がないのなら、夢の中で会うだけにしておきなさい」
現状を一言知らせたいと軽い気持ちで弟たちを喚んだ結果あの騒動になったのだ。
それに彼の兄のことを聞く限り内戦真っ只中の世界だ。そんなところで中学生が運命を変えられるとは思えない。 下手したら親御さんは息子を二人も失うことになるのだ。
「でも、あんな小さい娘を置いて・・・・・・」
一樹が唇を噛む。少女が心配そうに彼の拳に手を添える。
知らなければ良かったのかもしれない。
夢魔という少女も危ない時期には連れていけないそうだ。もし、彼の兄の運命が仮に変わったとしても、次に待っているのは流行病。
「人を殺す覚悟も、殺される覚悟もないのなら行かないほうがいい」
自分の失敗を棚に挙げて置いて格好つけていうのもなんだかなあ、とは思うけれど、たぶん伝えないとならないことなんだ。
「私とあなたのお兄さんには次が与えられた。幸か不幸か。でも、本当はそんなものないんだから」
「・・・・・・はい」
そこで、それまで黙って話を聞いていたヨッシーくんが、教科書にマーカーをつける手を止め顔をあげた。
「俺らは俺らの世界で生きていくしかないんだ。とりあえず中間試験がんばろう。俺、お前がいなくなるのやだよ。」
「おまえもちゃんと学校来いよな」
晴樹くんから向けられた視線にヨッシーくんが確かにうなずき、
「落ち着いたら・・・たぶん週明けには。テストもあるし」
画面に写るバカ親二人にちらっと見て、ため息をつきながら答えた。
◇エピローグ3
謝っているんだか、宣伝しているのだかわからないぐだぐだな会見から一年。
「メリザちゃん。ピザ」
結局、彼女を雇うことになった。店員としてもまあまあな働きの上、私が赤ちゃんの世話でぐったりしていたのもある。
「ほんとに座敷童いた」
「どこだよ」
「見えていないのかよ。その席でいちごパフェ食べているじゃん」
残念。座敷わらしじゃなくて、星神だ。 ご神体はビッグバーン騒動の時に転がっていたビー玉だ。
運よく結界に入らず、消滅を免れたお星様で、しばらく飾り棚の上におとなしく飾られていたのだが・・・
ふよふよ浮いた日にはたまげたし、ある日ふとふりかえったらさっきまで絶対誰もいなかったはずの席に小学生くらいの男の子座っていたのにはびびった。
この星神、なぜか毎日飽きもせずパフェのお供えを要求してくる。
普通の人間にもうっかり見えてしまうことがあり、見えた人には多少の幸運を授けてくれるらしい。
昼間から見える座敷わらしと猫耳少女のおかげで、この喫茶店は最近ちょっと有名になっているようだ。
「ちょっとだけ、そのしっぽ触らせて」
「本物?」
「そこ店員へのおさわり禁止だからね!」
『店員、お客様への撮影、おさわりは固くお断り』『警官立ち寄りどころ』のステッカーを店内三ヶ所も貼っているのに、猫耳を触ろうとする者や、料理のインスタを撮るふりしてこっそりメリザと星神を撮ろうとする者が後を絶たない。
売り上げ的には十分貢献してくれていて、ご利益と言えばご利益なのだが。そのうち、正体ばれないかひやひやものだ。
「ごめんにゃん。迎えが来たにゃん。」
わざわざ語尾に『にゃん』をつける必要はない。
「お待たせ。疲れた?」
ヨッシーくんだ。
「ぜんぜんにゃん」
ヨッシーくんは触れるか触れないかくらいに、撫でるように彼女の頭と腰に手をやっているが、ほんの一ミリか二ミリ、紙一重の差で触れていない。
下手にべたべた触るよりも、個人的にどきどきする。毎度のことながら思わず見入ってしまった。
彼女が、ちょっとでも動いたら、当たってしまうだろうに、なかなか触れない。あれどうやっているんだろう。うちの旦那にはああいうの無理だ。
「あれはOKなんですか?」
先程、私に注意を受けたお客様がぶーぶー文句を言っているが、無視。仕事終わっていて、恋人同士なら、放っておくしかない。あえていうなら・・・
「少年、法律は守れよ」
「わかっていますよ」
夫の注意にヨッシーくんは胡散臭い笑顔を返した。父親に似てきたな~。
まあ、メリザの表情が明るくなったのはいいこと・・・・・・なのか?
その時、からころとドアのベルがなった。胡散臭さの元凶が喫茶店に入ってきた。
「ああ、ちょうどよかった。これ、化粧品会社と共同開発した香水」
おしゃれな小瓶に書かれている商品名は『NEKOMIMI』。
「製薬会社からもデータ使用料を貰えて、いや~、おかげで儲けさせてもらえたよ」
おい、こら。何やった?
「大丈夫。大丈夫。成分は薄めているから。ギイチ、メリザちゃん。乗っていく?それともどっか寄るの?」
にこにこというかにやにやという笑顔で尋ねる。
「帰るよ!」
本当は予定があったのかもしれないが、ヨッシーくんは素直に(?)父に従う。あの父は個体観察とか言って尾行しかねない。
彼らが帰ったのを皮切りに、
「ああもうこんな時間」「やっべ、忘れてた」「塾遅れる」「おばちゃん、お勘定!」
お客が次々と不自然に帰り出す。私はまだ、おばちゃんじゃない。花の××歳だ。
こーん。こーん。
「あんなこと起こったのに、懲りないね」
星神が膝にのせたどら子の背を撫でながら言う。
ばれなきゃいいいのだ、ばれなきゃ。
ーおそらく狐にはばれているぞ
・・・・・・おほほほ? あんな事態にならなければいいのよ。たぶん?
そして迷える少女が、扉を開けた。
「いらっしゃいませ!」
悪役令嬢喫茶・桜川、こっそり営業中です。
ガラパゴス・・・学者はガラパゴスの陸イグアナと海イグアナのことを言っていた模様。
リーフスラシル・・・日本に来る以前はワーグに悪感情を持っておらず、主従の関係は良好だった。だが、信頼していた従者が助けなかったため、それ以降はワーグを嫌う。
メリザ……薄茶色の髪に金の瞳。猫ミミ(薄茶)。上手に隠せば、違和感がほぼなく髪に隠れる。琥珀のペンダントを首にかけている。
ヨッシーくん・・・初登場時、中学一年生。雨野晴樹と同級生。
アルバ・・・メリザの父。特に主に悪感情などは持っていなかった。リーフスラシルの父にラピスの暗殺を命じられる。怪我をしたところをたまたまメリザの母が助ける。
ラピス・ラピュセル・・・・・・最初の名前は 瑠璃子(容姿は変わっていますが同一人物です)死んではあらゆる悪役令嬢物への転生を繰り返している状態です。紫・桃・青緑 ひたすら目に痛い髪。
女神・・・時と空間の枷から解き放たれ自分が何者だったか忘れた神。ドラ子よりも超格上。
星神……水色髪。中華な服。かわいい。見た目はクラック(ひび割れ)ビー玉……表面温度20度程度の意志のある星(?)。ちゃんと水があり、仮に砂漠世界の人たちのサイズがミクロサイズだとすれば、居住は可能。浮く。地球の重力には縛られていない自由浮遊惑星。名前はまだない。
これで終わりです。最後までお付き合いいただきまして、ありがとうございます。(物語後半に登場人物山盛り追加して申し訳ありませんでした)




