第8話 束の間の平穏だったもの
ロイたちはまだ、宿に居る。そんなに早期退場ではなかったはずなので、とりあえずまだエドワードの身に危険は迫っていないだろう。
俺は街に出ると、足りない備品を買いそろえに行った。大きな街にいるうちに、そして自由に動けるうちに色々と買いそろえておきたい。
「チハヤ~」
「……クローディア?」
今日は部屋でだらだらすると言っていなかったか。
「どうせ暇だし、備品の買い出し手伝おうかな~って」
「俺の仕事です」
「つれないな~。チハヤってエディいないと冷たいよねぇ」
「冷たい、ですか?」
そんなに変わらないと思うのだが。
「冷たいよ! なんかもうね、声のトーンが違う! あと近寄るなオーラがすごい」
「出してませんよ、そんなの」
「でも出てるんだよ~」
「なら近づかなきゃいいのに」
「そういうところ! エディには忠犬なのにさ」
「なんですか、忠犬って……」
買い物を済ませる俺の横で、クローディアは何やら喋っていた。クローディアは返事がなくても勝手に喋り続けるタイプだ。俺が自分の仕事だと主張したからか、それとも端から手伝う気など無かったのか、買い物には手を出さない。
「……そうだ。レイラさん」
「レイラちゃん?」
「はい。どのような方ですか?」
よく考えたら、ロイはレイラに振り回されているだけに見える。知っておくべき相手はロイというよりレイラだったかもしれない。
「チハヤがエディ以外に興味を持つなんて珍しい! 明日は槍が降るかな!?」
思わずジトッとした目を向ける。大袈裟な咳払いが返ってきた。
「明るくて、好奇心旺盛な子って感じかなぁ。あと、パワフル!」
「パワフル、ねぇ……。なぜ勇者に憧れているのかは知りませんか?」
「昔、助けてもらったとかなんとか言ってたよ? でも私たちに話し掛けてきたのはミーハー心の方が強いみたい。勇者なのに悪名高いエドワードは、実際はどんな人なのかも気になったんじゃない?」
そう言ってクローディアは肩を竦める。そういう目的で声を掛けられることは何度かあった。勇者の称号を授かった人が噂通りの人物なはずはない、この目で確かめようと。
「噂通りでがっかりしましたかね」
「んー。言わないけど、どうだろう」
最初は敵対する理由なんてないだろうと思っていたが、酔ったエドワードが絡んだせいで印象は大分悪くなってしまっただろう。
そもそも『ぼうスロ』でのエドワードの死因を知らないので、敵対することと死亡することが繋がるのかもわからないが。
やはりエドワードに態度を改めさせるのが早いのか。悪役ムーブが良くないのではないか。
「ねぇ、買いこみすぎじゃない?」
「次いつ買い物できるかわからないので」
「重いよ~? 運ぶのアンタでしょ?」
「問題ありません」
増えた荷物を抱えて歩く。クローディアは歩くペースを合わせてくれているようだった。
一通り買い集め終わり、最後に魔法石の専門店に入る。俺たちの姿を見た店主が姿勢を正した。
宝石のような見た目も、魔力のない、あるいは少ない人間でも気軽に魔法を使うことができるというその性能も魅力的だが、買うものはもう決まっている。俺は迷わずそれを手に取ると、店主に渡した。
「お願いします」
「は、はい……」
「え、なにそれ」
「これは俺の個人的な買い物です」
「ああ、チハヤ魔法使えないもんね……」
伝達魔法石を一対、購入する。
伝達魔法とはその名の通り、遠く離れた相手に連絡する魔法だ。インターネット並みの速さで通信ができる。
しかし魔力が少ない人はそう何度も使えない。というわけで外付けの装置、伝達魔法石が存在するのだ。雑に言えば携帯電話のような物である。これならば魔力が全くない俺でも使える……と思う。
ただペアの石を持っている相手としか通信できないのだが。今回は問題ない。
どこにでも売っているわけではないので見つけられてよかった。
「でも急にどうしたの? てか誰と通信すんの?」
「ロイさんと」
「ロイぃ? アンタあの人のこと気に入りすぎでしょ」
「別に気に入っていません」
「ま、こう女子にばかり囲まれてると、男友達が欲しくなるのはわかるけどね」
全然聞いていない。いつものことだが。
「一通り揃いました。宿に戻りましょう」
「んじゃーこっちから帰らない?」
「構いませんが……」
遠回りではないだろうか。そう思う俺にクローディアはドヤ顔をしてみせた。
「エディが行った娼館、こっちにあったんだよ。タイミングが合えば一緒に帰れるかもね?」
「な……っ」
荷物を取り落としそうになったが、落としたら後で絶対エドワードに怒られるのでなんとか持ちこたえる。
「あはは、動揺しすぎでしょ。でも丁度いつもエディが帰って来るぐらいの時間だよ」
楽し気に歩き始めるクローディアの後を追いかける。
少し歩くとクローディアはにやりと笑って「ビンゴ」と呟いた。
「……あれ、お前ら帰りか」
エドワードは気まずそうな表情を浮かべたが、娼館の場所どころか帰って来る時間まで把握されていることについてはどう思っているのだろうか。
「そう! 買い出しの帰り」
「あ、お、お疲れ様です」
娼館から出てきたばかりのエドワードはいつにも増して色っぽい。思わず息を飲んだ。
「……なんだよ」
ガン見していたのがバレたようだ。周りを気にしていないようで、案外すぐに気が付く。
「あ、い、いえ……。その、今日もかっこいいですね」
色っぽい、だとセクハラになりそうなので言い換えた。この世界にセクハラという言葉は無いが、俺が気になる。
「チハヤ、顔赤くない?」
「……赤くありません」
「……相変わらず気持ちわりぃ」
「ひどい!」




