第4話 はじまりは唐突に②
「すみません、コイツが勝手に……。俺はロイと言います。コイツはレイラ」
「はじめまして。ロイさん、レイラさん。私たちは……」
「もちろん存じ上げています。アーデン様、マーガレット様、クローディア様、チハヤ様ですよね?」
主人公とエドワードに間接的にとはいえ、接点ができた。できて、しまった。
「すみません、チハヤ様」
「え、あ」
気が付いたらレイラはクローディアたちと楽しそうに話している。エドワードのパーティメンバーという肩書は人を遠ざけるので話しかけられるのが新鮮だったのかもしれないし、単に無邪気そうな少女を警戒する理由もないと考えたのかもしれない。
そして女性陣が盛り上がる横で、ロイが話しかけてきた。
「申し遅れました。ロイと申します」
「あ、ああ。どうも」
こっそり深呼吸をする。
「様付けなんていりませんよ、ロイさん」
いくらエドワードの仲間とはいえ、プライベートな状況で様付けされるのは雑用係には荷が重い。
「……チハヤ、さん」
なんとなく、ロイがこちらに怯えているのがわかる。生まれてこの方怯えられたことなど、たった一つの理由でしかない。
「エドワードとは、お知り合いで?」
その言葉にさらにロイが怯えている。慣れていないので、困る。
「いえ、そういうわけでは、ありませんが……」
こんな善良そうな青年に噂だけで悪いイメージを与えるとは、エドワードにはどれだけ悪い噂が付き纏っているのだろう。おそらくほとんど事実なのでどうしようもないのだが。
「そんなに固くならないでください。俺はエドワードじゃないんですから」
最愛の人をさり気なくディスった気がするが、まぁいいだろう。俺の言葉にロイは少しだけ肩の力を抜いてくれた。
「そこのレイラが、勇者様に憧れているんですよ」
「エドワードに!?」
「あ、エドワード様というか、勇者全般に。それで今も声を……」
「わかりますよ! エドワードは本当に強くてかっこいいですよね! あの態度も様になっていて……!」
「いや、あ、あの」
「チハヤ」
クローディアの声で我に返る。
「す、すみません俺……」
「い、いえ……。勇者様のことを本当に慕っているんですね」
「は、はい……」
改めて言われると照れるな……じゃなくて。
魔王を倒して物語が終わるなら、ロイたちが魔王を倒してしまえばとりあえず安心ということになる。
魔王討伐についてとか、この機会に聞いてしまおうか。しかし下手に俺が関わって未来が変わってしまっても困る。
「チハヤ」
「うわ、びっくりした!」
真後ろにエドワードが立っていた。下から見てもイケメンである。
「これ、書類」
「あ、はい」
大事な物なのできちんと鞄にしまう。
「……誰だお前」
相変わらず態度が悪い。ロイが怯えている。
「エド、こちらはロイさんです」
「は、はじめまして、勇者様」
エドワードは自分から聞いておいて興味が無さそうに、「帰るぞ」と短く言った。
俺の向こうに座る面々にも同じく「帰るぞ」と声を掛ける。
「えー? もうちょっとレイラちゃんとお話ししたーい」
そう不満げな声を上げるのはクローディアだ。やはり久しぶりにパーティメンバー以外と話すのは楽しいらしい。レイラは素直でいい子そうだし。俺も前の世界でのことがなければロイと楽しくおしゃべりできたかもしれない。
「……なら、夕飯までに帰ってこい。チハヤ、行くぞ」
「あ、えっと……。俺ももう少し」
楽しくおしゃべりはできないが、情報収集がしたい。
「あ?」
機嫌が悪いわけでも怒っているわけでもなさそうだが、嫌そうである。クローディア達はいいのに俺は駄目なのか。
ここで揉めるのは得策でない。エドワードを怒らせると面倒くさいのは俺が一番よくわかっている。怒るというより拗ねた感じで、非常に可愛いのだが。それはそれとして面倒ではある。
「いえ、一緒に帰ります……。すみません、ロイさん。しばらくこのあたりに居るので、何かあればぜひ」
「ああ、はい……」
俺は精一杯愛想よく振る舞いながら、エドワードに見えない糸で引っ張られているかのように付いて行く。
ちょっとやらかしたかもしれない。周りの視線が痛い。またエドワードに横暴というイメージがついてしまう。
「エドワード、温泉楽しみですね! 俺温泉初めて……」
なるべく親し気に話し掛ける。仲いいですよアピールだ。
「別に」
「さいですか……」
しかしエドワードはにべもない。俺はエドワードのイメージアップ作戦を早くも諦めた。




