第3話 はじまりは唐突に①
「街だぁ」
「街ですね!」
「久しぶりに大きな街だね」
「おーい、お前ら。遊びに来たんじゃないんだぞ」
はしゃぐ三人に、エドワードが呆れた声を出す。呆れた顔もかっこいい。
「この宿の二階に一人一部屋取った。狭いが文句を言うなよ」
さも自分で取ったかのように言うが、取ったのは俺である。別にいいのだが。
「私の荷物どれー?」
「これですね」
わいわいやりながら各自荷物を持って部屋へと散っていく。そのとき、看板が目に入った。
「この宿、温泉あるんですね」
何気なく口を開いた。俺がエドワードに何かにつけては話しかけ、半分以上無視されるのはもはや日常だ。
しかし温泉に興味があるのも事実である。この世界で温泉はおろか湯船にも浸かったことがない。そもそもこの世界に存在しないのかと思っていた。
少しの間、返事がなかった。エドワードが返事をしてくれないことなんて前述の通り日常茶飯事なので特に気にしなかったのだが、意外にも間を置いてからエドワードが口を開く。
「……混浴か?」
「……そ、んなわけないでしょう!?」
思わずズッコケそうになる。普段俺の話になんてほとんど食いつかないエドワードが珍しく食いついたのがこれとは。
「そうか」
平然としているつもりかもしれないが、ちょっと照れているのがわかる。
エドワードの女癖の悪さは多くの人の知るところである。後腐れのなさそうな女性であれば誰とでも遊ぶ彼が、混浴に惹かれるというのはなんだか微笑ましい。遊んでいても年相応の青年の心を忘れていないようだ。女性の裸体など見慣れているだろうに。
「……俺は別に、みんなで風呂に入ったら楽しそうだなと思っただけだ」
「そうですか」
信じてないだろ、とばかりのジトっとした視線が飛んでくる。エドワードの碧い瞳を独占するのはいい気分だ。
手続きのため、冒険者ギルドを訪れた。
大きな街だけあってギルドも随分と賑わっている。パーティ同士の交流や情報交換もさかんに行われているようだ。
そのうちの数人が、エドワードを見て驚いたように動きを止める。当然だ。この国で知らぬものはいない勇者様なのだから。国中のどこの冒険者ギルドでも見られる光景である。
……もちろんいい意味だけで知られているわけでは、ないのだけど。
数多くの視線の中には、好意的でないものも多く混ざっている。というかそれが大半かもしれない。勇者という称号を与えられていながら、この国でのエドワードの評判はお世辞にも良いとは言えない。まぁ、普段の素行を鑑みれば致し方ないの無いことだが。
「おい、あれって……」
「やめとけよ、絡まれたらどうすんだ」
「こわ……」
「なんであんな奴が勇者の称号を」
しかしエドワードは視線にも声にも慣れきった様子で堂々と歩いて行く。やはり独特のオーラがあって、つい見惚れてしまう。こういう場所に来ると気が引き締まるのか、普段と雰囲気が違った。
エドワードが「勇者」たるゆえんは結局こういうところではないかと思う。称号を与えられて満足するでも、そこに関心を置かないでもない。その称号にふさわしいだけの自信を纏い、勇者を演出する。自信がない勇者になど誰もついていかないのだから。俺はついていくけれども、それはエドワードにであって勇者にではない。
エドワードは職員さんと真剣に話しながら、いくつかの依頼をピックアップし始めた。こういうのは自分でやりたがるので、少しの間手持無沙汰だ。
その辺に座って待っていればいいのだろう。しかし俺はエドワードのように、あるいは他の三人のように堂々としていられない。
まず西洋っぽいこの世界で、東洋人である俺の外見は目立つ。様々な種族が共存している世界なので幸いにして外見で差別を受けることはないが、それはそれとして目立つのだ。
そして勇者パーティの一員というのも、もちろん目立つ。それがかの有名な勇者エドワードのパーティの一員となれば、更に目立つ。しかも強くもなんともなく、ほとんど雑用係のようなものとなれば、様々な感情を含んだ視線を一気に浴びることになるのである。元々人の注目を浴びるのは苦手な方だし、正直外で待っていたい。
「チハヤ、大丈夫ですか?」
言葉とは裏腹におっとりとした声に顔を上げると、マーガレットがこれまたおっとりとした表情で俺の顔を覗き込んだ。
「大丈夫です。やはりエドワードは、目立ちますね……」
「そうですね」
マーガレットがにっとこりと微笑む。俺もこれくらいのメンタルでいきたいものだ。
クローディアとアーデンと共に、歓談スペースの空いている席に座る。明らかに遠巻きにされているのを感じながら縮こまっていると、溌溂とした声が降ってきた。
「はじめまして!」
声に反応して何とはなしに顔を上げる。そして、思わず声を飲み込んだ。
ピンク、いやストロベリーブロンドと言うのだろう。その髪を冒険者としてはやや派手な結い方、一言で言うならハーフツインとかいうやつにしている、俺より年下であろう少女。
俺はこの子を、知っていた。
レイラ。『ぼうスロ』のヒロイン。
本屋でも、アニメグッズのショップでも、SNSでも、飽きるほど何度も見た顔。見間違えるはずもない。
頭の中を、様々な記憶と思考が駆け巡る。
当然、『ぼうスロ』の中のエドワードは突然出てきたわけではない。その前から何度か、主人公たちと接触している。多分。
これはその一回目なのではないだろうか。
心臓が嫌な鳴り方をしている。
「おい、レイラ。お前勝手に……」
なんとなく察しが付く。だが、いやだからこそ、俺はその声の主にも目を向けた。
やはり見たことがある。『ぼうスロ』の主人公、ロイ。
茶色のくせ毛が特徴で、エドワードとは対照的に人の良さそうな、しかし気弱そうなオーラを身に纏っている。




