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好きな人の死亡エンドを回避したい雑用係  作者: 懐中電灯


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第2話 平和な朝②

 「エドワード、サンドウィッチ食べますか? 朝食を食べ損ねたでしょう」

 我ながらうざったいなと思いつつ、俺は朝からエドワードに纏わりつくのがやめられない。エドワードは基本無視を貫くが。

 しかし今回は無言で手を差し出してきた。食べるということだろう。

 エドワードが身支度をしている間に用意しておいた。朝からバタバタとして朝食を食べないまま出掛ける羽目になるのは目に見えていたから。しかしきちんと食べてもらえると、作った甲斐があったなと思う。

 覚醒した横顔は凛々しくてかっこいい。盗み見るくらいは、サンドウィッチを用意した褒美として許されるのではないだろうか。

 「ジロジロ見てんのバレてるからな」

 「あ、はい……」

 盗み見れていなかった。

 「まぁ、いいけど……」

 興味がない、という感じで食事を再開する。エドワードは基本俺が何をしても邪魔にならない限り放置するのだ。面倒くさいとか以前に眼中に入っていないのだと思う。

 大きく口を開けて食べる姿は見ているだけでドキドキして、つい惹きつけられてしまう。

 そんなこんなをしているうちに、止めてあった馬車に到達した。俺は御者台に乗り込み、パーティメンバーと荷物を馬車に乗せて馬を走らせる。

 空はエドワードの瞳と同じ色で、ぽかぽかと温かい。

 平和だ。数日に一回モンスターと戦っている現状に慣れることは恐ろしくもあるが、それでも俺は今平和の中にいると思ってしまう。平和ボケしそうなほど。もしかしたらこれから、とんでもなく恐ろしくて辛いことが起きるかもしれないだなんてこと、忘れてしまいそうなほど。

 例えば馬車でサンドウィッチを頬張る最愛の人が、この世界からある日突然消えてしまうだなんて、想像できないような気がした。


 俺がこの世界に転移してきて、二年が経つ。

 非現実の極みのような経験だが、その時の俺はさして驚かなかった。俺を“誤って”召喚してしまったという男がやけに詳しく召喚術について話すのを聞いていたら、まぁそんなもんかと変に納得してしまったというのもあるし、戻れないと知った絶望であとはどうでもよくなったからというのもある。男は平身低頭して俺がこの世界で必要最低限のことをしてくれたが、そういう問題でないというのはわかってもらえるだろう。

 そして衝撃が薄れてからはこの世界に順応するのに手いっぱいで、そんなことを気にしていられなかった。 

 ……という、俺にとって前置きにしかならない話は置いておいて。

 この世界が俺の前に居た世界で人気だったライトノベル『冒険者はそろそろスローライフを送りたい』、通称『ぼうスロ』の世界だということに気が付いたのは、半年ほど経ってからだった。

 エドワードの顔を飽きずに眺める日々の中で、彼が『ぼうスロ』のキャラクターであることに気が付いた。そこから数少ない俺の持つ『ぼうスロ』の知識を現状と照らし合わせ、今では間違いないと確信している。

 タイトルの通り、冒険者が平和な生活を求め、しかし何かと事件に巻き込まれてしまうというのがあらすじだが、正直それはどうでもいい。

 問題はエドワードは敵キャラであり、最後は死んでしまうということだ。

 ただ、それ以上に問題なのが俺がそれ以上のことを知らないことである。アニメ化もされたその作品を、俺は読んでもいなければ見てもいなかったのだ。エドワードが死ぬというも、SNSで話題になっていたのをうっかり見てしまっただけ。後で見ようと思っていたばかりにネタバレも極力避けていた。あとは確か、主人公が魔王を倒すところで話が終わるというのも聞いたが。

 こういう場合、原作知識を生かして華麗に守ってみせるものだが、俺にはそれができない。異世界から来たアドバンテージというものが、まったくない。

 しかし諦めるわけにはいかないのもまた事実なのだ。とりあえず原作での主人公たちと出会うまでは大丈夫、とは思っているが。


 「チハヤ? どったの?」

 気が付いたらクローディアが身を乗り出し、話しかけてきていた。どうやら無視してしまっていたらしい。エドワードはサンドウィッチを食べ終え、マーガレットとアーデンと楽しそうに話す声が聞こえてくる。

 俺には向くことのない、愛想のいい声だ。俺はそれを「他の人には向けない素っ気ない声を俺には向けてくれる!」と喜ぶべきなのか、「俺にはあんな声で話しかけてくれない……」と悲しむべきなのか、よくわかっていない。

 「すみません。少し、ぼーっとしていました」

 「ほーん? ま、いい天気だしねぇ」

 ここが前居た世界のどこに当たるのか、あるいはどこにも当たらないのか。それを俺は知らないが、日本に比べれば晴れ間は少ない。貴重な晴れの日だ。

 晴れの日は好きである。現代日本ほど照明器具が発展していないこの世界で、晴れた日の太陽を浴びるエドワードの金髪は目を見張るほどに美しい。

 「どうせまた、エディのことでも考えてたんでしょ?」

 「……」

 図星だ。

 「なんでわかったんだって思ってるでしょ? 他にないから。君、暇さえあればエディのこと考えてるから」

 それも図星、かもしれない。

 「まったく、あの男のどこがそんなにいいのかね……」

 そう言うとクローディアは大袈裟に嘆息してみせた。俺がエドワードを好きなことは、エドワードを含めた全員が知っている。俺に隠す気がないので。

 前の世界でいう中世ヨーロッパのような場所だが、同性愛が禁忌でなくてよかったと、たまに大した実感もないまま漠然と思う。

 「いいところしかないでしょう!? 強くて、かっこよくて、自信家で……意外と子どもっぽくて、傲慢で」

 傲慢で尊大、女には下心で優しくするし、男には冷たい。しかしそれと同時に強さとストイックさを持っている。勇者という言葉から受けるイメージとは少しだけずれる危うい魅力があるのだ。

 実際、前の世界でも敵キャラでありながら人気だったらしい。作品未履修の俺が見てわかったくらいなのだ、グッズにコラボに色々なところに居た。

 俺も今ではすっかりファンである。ガチ恋の。

 「おい、それ俺のことじゃないだろうな」

 アーデン達と話していたエドワードの声が飛んできた。

 「なんでわかったんです!?」

 「お前がそんなテンションで話す奴、俺しかいないだろ」

 「確かに」

 エドワードが俺の生態を理解してくれているのがなんだか嬉しい。

 「好き勝手言いやがって」とエドワードが悪態をつくのが聞こえた。

 「はいはい。朝からご馳走様……。これから行くの、大きい街なんでしょ? 楽しみだなー。一日は観光の日を入れようよ」

 クローディアは呆れたように俺を見てから、話題を変えた。

 「観光っつうか、休みの日は取るぞ。休めるときに休んだ方がいいからな」

 その言葉に提案したクローディアのみならず、マーガレットとアーデンも歓声を上げる。明日行く予定の街には観光地も店もたくさんあるので、休日を過ごすにはうってつけと言えるだろう。

 「久しぶりに街で買い物がしたいな」

 「それならご一緒しても? 私も街をお散歩して回りたいです。アーディに似合うアクセサリーも選んであげますよ」

 マーガレットとアーデンはさっそく行きたいところや欲しいものについて話し始めた。二人は趣味が合うらしく、休日もよく連れ立って出かけている。

 クローディアはそんな二人の会話をBGMにこちらに水を向けてきた。

 「チハヤはどうすんの?」

 「とりあえず、買い出しに」

 あとは部屋でポーション作りでもしようか。

 「相変わらずだねぇ。私は宿でだらだらしようかな」

 「ええっ? せっかくの街での休日なのに、勿体ないですよ」

 マーガレットの声がする。俺もインドア派なのでマーガレットに賛同はできないが、さっき観光しようとか言ってたじゃないかとは思う。休めれば何でもいいのか。

 「エドワードはどうするの?」

 アーデンの声。

 「んー、まぁ俺も適当に。偵察にでも行こうかな」

 偵察。エドワードがこう言うときは大抵、娼館に行くのだ。他の三人は知らないかもしれないが、俺は知っている。というかエドワードは俺しか知らないと思っているが、本当はみんな薄々勘付いている、が正しいのかもしれない。

 女性陣三人の、突っ込んでいいのか知らないふりをしていた方がいいのかという不自然な沈黙が落ちた。

 「……精が出ますね」

 とりあえずそう返してみると、エドワードは素知らぬ様子で「まぁな」と呟く。なんだか可愛らしいなと思って、思わず笑みがこぼれた。

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