第14話 報酬という名の処理、あるいは甘美な時間
手続きに追われるかと思ったが、残る側のやることはほとんどないらしい。午後にはエドワード一人で倒せるようなモンスターを討伐しに行って、いつも通りの一日が幕を閉じようとしている。早いうちに新しいメンバーを募集しなくてはいけないだろうと思うが、エドワードがそこに触れなかったので取り合えず黙っておくことにした。
さて。こんなそんな日でも溜まるものは溜まる。
そして目の前にはエドワードの汗を拭ったタオル。今日はかなり汗をかいていたので、なかなかに芳しく……。
ドアが勢いよく開いた。
「ぎゃああ」
「……お前何してんの?」
エドワードの視線が明らかに俺の手に握られたタオルに吸い寄せられている。
「何もしてません! まだ!」
「これからする予定だったのかよ」
「……」
墓穴を掘った。
「ま、どうでもいいけどよ。ほんとに俺のこと好きなのな」
「はいっ」
俺の返事には大して興味なさそうにエドワードはベッドに腰かけた。確かにあまりにも自明のことだから、返事を真剣に聞く必要性などないのだろう。「おはよう」と言えば大抵の人間は「おはよう」と返すから、集中して聞く必要もない。
「じゃあさ、俺とヤりたいとか思ってるわけ?」
「ん゛ん゛っ、ま、まぁ? 思うことも? ありますけど?」
何を言わされているんだ俺は。
「……お前に“報酬”、やるよ」
「報酬……?」
またしても話が飛んだ。先ほどの依頼の報酬金ならさっき山分けしたところである。
エドワードは俺の疑問に答えることなく、流れるような動作でカチャカチャとベルトを外した。
「へっ!?」
その奥から顔を覗かせたものに、思わず喉が鳴る。エドワードの口から嘲笑が漏れた。
「ガン見じゃねぇか」
「す、すみません……」
「ま、いいけどよ。好きなだけ見ろよ。んで……しゃぶれ」
「よおし、今日も大量だな」
エドワードは一人でも強く、俺と二人分の食い扶持を稼ぐには一人で充分だった。依頼で得た金をじゃらじゃらと鳴らしながら宿に戻る。
「魔王討伐も、俺一人でやるわ」
「は!?」
荷物を床に落としそうになった。
魔王は強い。それは異世界人の俺でも知っている常識だった。いくらエドワードが強いとはいえ、無謀としか言いようがない。
「なんだよ、俺一人じゃ無理だってのか?」
「無理ですよ! 無茶です! 無謀です!」
もしかして『ぼうスロ』でのエドワードの死因って、ロイたちに倒されるとかではなく魔王に噛ませ犬的な感じで殺されるのだろうか。
そんなことあっていいはずがない。
「お前……あんまり俺をナメるなよ」
エドワードが目を細めた。その顔かっこいい……じゃなくて。
「ナメてません! 事実です!」
「な……っ」
俺がこんな風に反対するのは珍しいからだろうか。エドワードは足が止まるほど驚いている。
「そんな必死で否定することないだろ」
「必死になりますよ。エドが本当に一人で行っちゃったら怖いですもん」
死ぬ可能性があるのだ。
「エドに何かあったら俺……」
思わずエドワードの腕に縋りつく。ぎょっとした表情をされたが、振り払われなかった。エドワードの腕鍛えられててかっこいい……。
「わかった。わかったから。捨て犬みたいな顔すんな」
エドワードは嘆息すると、俺の頭を乱暴に撫でた。俺の大好きな、剣だこだらけの手。エドワードの強さとその裏に滲む努力がよくわかる手。
「うへへ……」
「変な笑い方すんな気持ち悪い」
エドワードの手のぬくもりに喜びつつ、スキンシップが増えるのは寂しさが原因では? と考えてしまう自分もいる。
「ロイとかいう奴なら、一人で倒せんのかな」
「一人で……はさすがに無理では?」
きっと『ぼうスロ』の中でも仲間と協力して魔王を倒すのだろう。クライマックスに当たるシーンで主人公の単独戦闘ではなんというか、盛り上がりに欠けそうだ。
エドワードは自分から聞いておいて興味無さそうに「そうか」とだけ言うと歩き出した。
正直、クローディアたち三人が出て行ったことでもっと荒れるかと思っていが、むしろ前より落ち着いている。
「魔王倒したら、一生遊んで暮らせるんだろうな……」
「まぁ、そうですね……」
随分と俗っぽい感想だが、国の英雄だ。もちろん報酬も山ほど出る。
「もしそうなったら、エドはどうしたいですか?」
「え、どう……。どうするかな」
考えていなかったらしい。確かに魔王討伐というのは多くの冒険者が一度は見る夢で、夢を叶えた先まで見据える人間は案外少ないものだ。
もっともエドワードにとっては夢というよりはもう少し近い所にあるだろうが。
「お前だったらどうする?」
「え? 俺だったら?」
俺が魔王を討伐、など想像もつかない。なのでわかりやすく金と名誉が入ってきたらと仮定しよう。
「半分趣味みたいな店でもやりたいですね」
昔から憧れていたのだ、利益度外視の個人営業の店。
「ふーん……」
これまた自分で聞いておいて興味が無さそうである。返事をしてくれるだけ良い方だが。




