第13話 俺が守らないと
結局のところそこからエドワードの素行は悪化の一途を辿った。注意しても、何か悩んでいるのではないかと探りを入れても、一向に改善しない。
それどころか注意するたびに面倒くさそうにあしらう様子は明らかにパーティメンバーの不興を買い、パーティの雰囲気は日ごとにギスギスとしたものに変わっていった。
「私たち、このパーティ抜けようと思う」
「は?」
カラン、と音を立ててフォークが皿にぶつかった。あまりに唐突だ。
しかし三人の顔を見て悟った。唐突などではなく、俺が気がつかなかっただけなのだと。
エドワードは部屋に籠っていた。最近は一人でさっさと食事を終え、部屋に戻ってしまうことがほとんどだった。以前のように食後もダラダラと酒場に居座って談笑するということはない。
エドワードより先に俺に言ってくるのが不思議だったが、黙って先を促した。
「さすがに今のエドワードは見てられない。あんなの間違ってる」
「なら、注意すればいいじゃないですか」
優しさとは、適切に注意や説教をすることも含まれているだろう。いつも甘やかしすぎだと言われる俺が言えたことではないけれど。
「したよ! でも全然聞かないんだもん。あれはもう無理だよ」
「だからって見捨てるんですか!? もっと根気よく付き合えば……」
「見捨てるよ! 私たちはエディの親でもなんでもないんだから、教育する義務なんて無いの!」
「あ、あの、お二人とも」
いつの間にかヒートアップしていた会話を、それまで黙っていたマーガレットが止めた。
「マーガレットも出て行く気なんですよね」
「ごめんなさい。最近のエドワードと一緒に居るのは、ちょっと辛くて……。もちろん嫌いになったわけではないんですよ。恩を忘れたわけでもありません」
なんとも言い訳がましい発言だった。この期に及んでまだ口を開かないアーデンを見る。
「……私も、今のエドワードには付いて行けないわ。あんなの勇者とは思えない。だからこれは、ボイコットみたいなもの」
「ボイコット……」
エドワードの前からいなくなることが? その意図が正しく伝わるだろうか? ただエドワードを傷つけて終わりになるのではないだろうか?
きっとそうなる。だからエドワードは『ぼうスロ』の中で死んでしまったのだろう。彼女たちが見捨てたから。
彼女たちの強さは俺も知っている。味方で居れば、エドワードを死なせることなんてなかったはずだ。彼女たちが見捨てたから、あんな結末を迎えた。
変に腑に落ちて、脱力した。エドワードを守れるのはやはり、俺しかいないのだ。
「好きにしてください」
「あんたは?」
「残るに決まってるでしょう」
何を当たり前のことを聞くのか。
クローディアは唇を噛みしめ数秒黙っていたが、「わかった」と口にして立ち上がった。
「何かあったら、魔法石で連絡して。待ってるから」
そう言って、無理矢理魔法石を握らされた。これを用意していたということは、やはり俺が残ることは想定内だったのだろう。
しかし待たれても、連絡することなどない。
裏切り者に連絡することなど。
俺の思いは口に出すまでもなく伝わったらしい。俺の顔を見てクローディアは息を飲み、「じゃあね」とだけ言って部屋を出て行った。
マーガレットが続くように「どうか、達者で」と会釈した。アーデンは少しの間オロオロしていたものの、結局二人を追う。
錆びかけた宿の階段の軋む音が、今日はやけにはっきりと聞こえた。
「私たち、このパーティ抜ける」
翌朝、その宣言はすぐになされた。事前に聞いていた俺は手持無沙汰になって、意味も無くテーブルの木目を眺める。
エドワードの目が一瞬見開かれたが、しかしすぐにその端正な顔には何も浮かばなかなくなった。
「好きにしろ」
あまりにあっさりとしたもので、思わず息を飲んだ。三人も同様に驚いたようで不自然な沈黙が落ちる。
「……じゃ、じゃあ、ギルドで手続きしたらもう行くから」
「ああ」
まるで「ちょっと出かけてくる」と言われたかのような反応だった。確かに今生の別れではないが、三人も欠員が出たらすぐにでも代わりを探さなくてはならない。それでも彼女たちほどの能力の者は見つからないだろう。理由を聞く方がむしろ道理だ。
「……お前は行かないのか」
「え?」
気づいたらもう三人は立ち去っていた。エドワードは俺でも、三人が出て行った方でもなく、関係のない方向を見ている。これが明後日の方向、ってやつかと場違いに呑気な感想が浮かんだ。
そして数秒かけてやっとエドワードの言わんとすることを理解した。
「行くわけないでしょう。俺はあなたのものですよ」
拾われたあの時からずっと。
何を当たり前のことを聞くのか。
「俺のものって……お前なぁ」
俺の言葉にエドワードは一瞬固まり、それから笑った。どこか呆れたように、しかしどこか楽しそうに。久ぶりに見る笑顔だ。
「そうだったな」
「はい。そうです」




