第11話 違和感
「最近エディ、変じゃない?」
アーデンの言葉に明確な返事をした者は居なかった。が、それでも全員同じように思っていることは互いに伝わった。
エドワードはここのところ、急速に強くなっている。それ自体は喜ばしいことだが、あまりに急速な変化は不自然に思えてならなかった。
加えてその戦闘力の伸び方と対照的に雰囲気が暗い、ような気がする。以前は生き生きと戦っていたのに、最近は戦っていてもちっとも楽しそうではない。にも関わらず取り憑かれたように依頼をこなし、かと思えば今日は急に休み。頑張りすぎて疲れた、と取ることもできるがそれでも不自然である。
ちなみにただでさえ悪かった素行と女癖が更なる悪化の一途をたどっていた。
「やっぱり実家に帰ってから、だよねぇ……。チハヤあんた、何か知らないの?」
「向こうじゃ、別行動でしたから……」
「使えないな~」
そんなこと俺が一番よくわかっている。
「あ、でも実家に帰った日から、顔色が悪いですよね。たまに目に隈もあるし……。眠れてないのかな。それにちょっとやつれてますよね。身なりには気を使うタイプなのに、最近平気で髪ボサボサのまま外出するし。あと肌もあれt」
「それはそれで見すぎててキモイ」
本気でドン引きした顔だった。そっちから聞いてきたくせに。
「えぇ……?」
「でも、眠れないなんて心配ね。睡眠不足は万病の元だから……」
アーデンが忙しなくコップを口元に持って行く。
「……あ」
アーデン越しに階段を下りるエドワードの姿が見えた。
「お出かけですか?」
「……ん」
「え、ちょっと仕事は!?」
こちらを見ることもなく、外套を羽織ったエドワードが出ていく。
無言で全員の視線が錯綜した。
「俺、やっぱり追いかけます。今の状態で一人で出歩くのは危ないです」
「でも……」
マーガレットが困ったような表情で立ち上がった俺を見上げた。
追いかけたところですぐに帰されるのは目に見えている。どころか喧嘩になるかもしれない。余計事態をややこしくする可能性があるということだ。わかっている。
それでも。
「だって俺、エドワードに何かあったら……」
「ちょ、大袈裟だって……」
クローディアはそう言いつつも、語尾が自信なさげに消えた。
「……バレないように追ってみますか」
示し合わせたかのように全員が発言主のマーガレットに目を向ける。
「それだ」
そしてクローディアのセリフを皮切りに残った朝食をかきこみ、酒場を飛び出した。
勇者一行は目立つ。しかしエドワードの悪評のおかげと言ってはなんだが、声を掛けている者など皆無なので、クローディアに存在感を薄める魔法を掛けてもらう必要はなかった。
エドワードも視線を感じるのにも慣れているので、余程不審でなければ気配でこちらに気づかれることもない。直接見られない限りバレないということだ。
俺とクローディア、マーガレットとアーデンの二手に分かれてまずエドワードがどちらの方角に行ったのか探った。エドワードが歩くとモーセの海割りのように道が開けるので、大変見つけやすい。
「あ、あれじゃない?」
「あれ、ですね」
通行人が不自然に道を開けている。何より、エドワードのオーラというものはこの距離でも隠し切れないものだ。別に隠していないだろうけれど。
クローディアが伝達魔法ですばやく他の二人を呼ぶ。しかしまわりに怪しい人物なども――白昼堂々勇者を尾行する俺たちを除けば――おらず、今のところ危険はなさそうだった。
しばらくしてアーデンとマーガレットと合流したころ、そしてクローディアが早くも飽き始めたころ、エドワードは建物に入って行く。
「……って、いつもの娼館じゃん」
とりあえず娼館に居る間は安全……なのだろうか? この世界の娼館についても俺は何も知らない。誘われたとき行けばよかったかな。数回行ったところで安全かどうか見極められるようになるかと言われれば、無理だろうけれど。
「というか、わざわざ急遽休みにしてまで……って、変じゃないですか?」
エドワードはなんだかんだ戦うときが一番生き生きしていて、依頼をこなすのが生き甲斐かのようだった。
「娼館の人に急ぎの用があったとか?」
「まぁありえなくはないけど……」
結局そのままエドワードが宿に戻るまで尾行を続けた何かに巻き込まれることも、エドワード自身が不審な動きを見せることもなかった。
「杞憂、だったかぁ」
「何もないに越したことはありませんよ」
何もなかった。しかしどうしても不安が拭えなかった。俺が『ぼうスロ』でのエドワードの結末を知っているからかもしれないし、もしかしたら虫の知らせという奴かもしれない。




