第10話 どうか、この光が絶えませんように
来るべきその日、エドワードはいつにも増して無口だった。さすがの俺も空気を読んで静かに馬を走らせる。
「……ここだ」
「あ、はい……! ってデカ!」
まさに金持ちの家、という大きさ。周りに大きな家がないので余計に目立っている。庭には様々な花が咲き乱れ、なにやらよくわからないが石像が飾ってあった。まさにお金持ちの家、というイメージ。
「……ただの成金趣味だ」
エドワードはそう吐き捨てると、「帰りまた連絡する」と伝達魔法石を俺の膝に乗せた。そしてその手がうろうろと宙を彷徨い、最終的にぽんと俺の頭に乗せられる。
「え」
「呼んだらすぐ迎えに来いよ。真夜中でも、だ」
その声は固かった。実家に帰るのに緊張している、というよりももっと根深い何か。
「はい!」
その何か、が何なのかわからないけれど、少しだけでも取り除いてあげられればいい。安心してください、という気持ちで大きく頷いてみせた。
エドワードが実家にいる間、結局俺は観光する気も起きず、かといって宿でじっとしているのも落ち着かず、当てもなく街をブラブラと歩いた。
自然に考えればここはエドワードが幼少期を過ごした場所になるわけだが、実感はわかない。そもそも俺はこの世界の子どもがどうやって育つのかもよくわかっていない。
当面生きていくのに必要な知識を詰め込んだだけなので、基本的な常識が欠落していた。
しばらく中心街であろうあたりをウロウロとして、最終的に大衆酒場のような所に入る。
しかし俺が入ると同時に少しだけ空気が張り詰めたのがわかり、すぐに入ったことを後悔した。俺単体でも酒屋の盛り上がりに水を差すには十分らしい。
平凡を絵に描いたような顔といかにも頼りない雰囲気を自負しているが、「勇者エドワードのパーティメンバー」という肩書はそれだけで人々を威圧する。
居心地悪く思うものの、引き返すのもおかしい。近くの席に腰を下ろすと一番安い酒を頼んだ。
「……あの、すみません」
「……はい」
俺に呼び止められた店主は驚いた顔で俺を見た。そりゃあそうだろう。俺も驚いている。呼び止める気など無かったのだから。無意識の行動だった。
すぐになんでもないと言おうとしたが、いい機会である。聞いてしまおう。
「アーウィン家について、少し聞きたいんですが」
アーウィンとはエドワードの家名だ。俺がエドワードの仲間だと知られている以上、悪い部分は話さないだろう。それでもマーガレットから聞いた噂と統合すれば、何か見えてくるかもしれない。情報は少しでも多い方がいい。本人以外から聞くのは行儀が悪いと思いつつも、噂レベルなら問題ない、はず。
いや、問題大ありだ。わかっている。わかっているのだが、どうしてもそこにエドワードの死亡エンド回避のための糸口があるような気がしてならない。……というのはあるいは、言い訳かもしれないのだが。
「ア、アーウィンさんについて? あんたあそこの四男の仲間だろ? 聞きたいなら……」
本人に聞け、という感じだろう。その通りだ。
「エドワードは、あまり家族の話をしないので。今帰省してるんですが、どんな家なのかなと」
「どんな……って、そりゃあ、当主は商才に長けているし、息子も優秀で……。娘も美人じゃないか」
「奥様は亡くなられているのですよね? 再婚とかは考えておられないのですか?」
「どう、だろうか。奥さんとは恋愛結婚で、亡くなったときは随分憔悴していたからね」
「そうですか……」
もちろん店主の話がどこまで正しいのかはわからないが、憔悴、していたのか。
あれこれ話を聞いたものの、結局混乱するだけだった。
宣言通りエドワードは食事を済ませたら俺を呼び出した。なんだかんだ一泊はするだろうと油断していた。もう暗いし、宿から遠くないので徒歩で迎えに行く。今日は宿に二人で泊ればいいだろう。
「……歩きかよ」
「暗いので、危ないかと」
「こんな整備された道で危ないとかあるか。歩きなら迎えに来た意味ねぇだろ」
そう言いつつ、手が伸びてきて俺の頭に乗った。そのままぐしゃぐしゃにかき混ぜられる。
「わっ」
「ほら、帰るぞ」
「はい」
エドワードは先へ先へと進んでしまう。これではどちらが迎えに来たのかわからない。
真っ暗な道の中でエドワードの金髪だけがキラキラと輝いている。
「エド」
返事はなかった。俺も特に返事が欲しかったわけではなかった。ただその光を見失わないように、その背中を追った。




