Ep.6 готовка
「エへヘ、タノシミデース!」
借り物の割烹着を見せびらかしながら、キャサリンは家庭科室をふらふらとしていた。コスプレのような出で立ち。しかし、違和感を掻き消すほどに、彼女ははしゃぎ回っている。
「始まるよー!」
「ニッポンのアニメで、ミマシタ!ミンナでготовка、タノシミ、タノシミ!」
「ガ、ガトー?」
横板に水をかけたような、散乱した日本語。それに混ざって、聞きなれない言葉が挟まれる。耳が躓く感覚に、未だに慣れることはない。
「ロシア語で、クッキング、こうイイマス!」
「そ、そうなんだね……あー、えっとアニメ好きなの?」
負けず劣らず、詰まったような日本語。身体の横に沿わせた両手は、汗を全体に滲ませながら、きつく握り込まれていた。
「モッチロン!アニメはカルチャ、サイコーデース!」
「キャ、キャサリンはむしろアニメに出てきそうだよね、だって綺麗だし、それに――」
「ホントーデスカ!?」
整った顔立ちが、急に俺の眼前を塞ぐ。両手をぴたりと合わせながら、頬を限界まで持ち上げ、ぷるぷると震わせていた。また立ち込めてくるのは、昨日と同じ匂い。甘さと苦さをパレットで混ぜたような、茜色の香り。
「キャサリンさん、はしゃぎすぎないように。謙介くんも、二人班なんですからね。」
「す、すみません……あ、ほら味噌汁だって、作ろ。えっと、なんとなくなら知ってるし。」
「ハーイ!」
日本式の調理器具を手に取って、ちょいと眺めて、そして置く。キャサリンはずっとそうしていた。
「具材、切るから、あー、ちょっと鍋とか出してもらっていい?えっと、ここにやり方、大丈夫?」
「マカセテ!」
味噌汁は、家で食べるよりずっと濃く、舌を焼くような味だった。果たしてどちらが間違えたのかは、今となっては知る由もない。キャサリンは、舌をぺろんと出して、それから俺に目配せをした。
桃色の舌は、作りもののように鮮やかで、それでいて少し乾いていた。唇の辺りでちょこちょこと波打ってから、くいと引っ込む。
咄嗟に口に入れた豆腐は、ほのかな甘みと共に、喉の奥へと溶けていった。




