EP. 8 RPO-A
「すみません、ちょっと、体調が良くなくて、その、今日は休んでもいいですか?」
「あら?田村さん、親御さんはどうしたの?」
興奮が、身体に妙な浮遊感を与えてくる。腹は縮こまり、指先はふらふらと踊っていた。
「喪中です。僕は殆ど知らない人の。だから、僕が連絡しました。」
「ああ、なるほど……とにかく、お大事に。もし助けが必要だったら、いつでも連絡してね。」
「はい、それじゃあ……」
子機を嵌め込んで、それからふぅと息を吐く。だが、身体はまだふわふわとしたまま、額には汗が垂れていた。
――知らなくて、いい。
毛の一つもない白い肌より、禍々しいロケットランチャーより、何よりも彼女の言葉が、一本の巨大な釘となって、俺をガチンと止めてしまった。彼女が逃げ去っても、家の扉を開けても、真っ黒な隈を擦っても、教師に虚偽を吹っ掛けても。
それでも俺の意識は、あの瞬間から前に進んでくれない。湖にランチャーが棄てられようとしている、あの光景から。
腕を振りながら、私室に駆け込んだ。コップに牛乳を注ぎ込み、勢いよく飲み干す。それから、スクリーンセイバーを振り払うように、マウスをカチンと二回叩いた。
キーボードをガンガンと鳴らしながら、記憶に貼りついているそれの、正体を確かめようとする。脳裏に焼き付いた爆発と、几帳面に並んでいる動画を、同時に片端から再生していった。
「これだッ!」
RPO-Aと銘打たれた兵器は、真四角の画面の中で、昨日と寸分違わない爆発を再現してみせた。
「サーモ、バリック……」
ニュースでも喧伝されていた、全く聞きなれない単語。慣れない言葉の並びに、口が発音を確かめた。
どうして、キャサリンが棄てていたのか?
そもそも、彼女は何故素っ裸だったのか?
暴力団が、本当にあんなものを持つ必要はあるのか?
奇しくも、噓は現実になりつつあった。熱っぽい身体を解すように、マットレスへと寝転がる。
一件の通知。文面の乱れ具合が、両親が朝に感じた混乱を示唆していた。帰ってくるのは、さしずめ夕方だろうか。
「訊くんだ、訊くんだ……」
決意は子守歌になり、俺の身体は眠りへと、泥のように溶けていった。
すみません、本日(11/23)の更新は休止いたします。申し訳ございません。詳しくは活動報告をご覧ください。




