AIが治療を拒む?(3)
2024年12月4日、アメリカニューヨーク州で一件の殺人事件が発生する。
被害者はユナイテッド・ヘルスケアのCEOを務めていたブライアン・トンプソン氏。
ユナイテッド・ヘルスケアは医療保険サービスを提供している大手医療保険会社で、ユナイテッド・ヘルスケアの医療保険サービスには4,900万人のアメリカ人が加入していると言われている。
2023年の売上高は3,716億ドル(約59.4兆円)、利益は231億ドル(約3.7兆円)に達するような世界最大のヘルスケア企業だ。
12月4日の6時45分、ニューヨークの路上を歩いていたトンプソン氏を、犯人は背後から銃撃した。
事件後、現場からは発射済みの薬莢3つと未発射の3つが見つかった。
薬莢には「delay(遅れ)」「deny(拒否)」「depose(退ける)」という言葉が書かれていた。
「delay, deny, defend」は保険金を支払わないことを意味する保険業界の有名なフレーズ。2010年に出版された保険業界を批判する本のタイトルに由来する。そのことからも、保険業界に恨みを持つ者による復讐殺人である可能性が高いと思われた。
12月9日、ニューヨーク市から西に約450キロ離れたペンシルバニア州で容疑者が拘束される。
容疑者の名前はルイジ・マンジョーネ。
26歳の白人男性だった。
拘束された際にマンジョーネは犯行声明文を所持しており、そこにはユナイテッド・ヘルスケアを名指ししたうえで、「あの寄生虫どもは報いを受けて当然だ」と書かれていた。
ユナイテッド・ヘルスケアは、CEOのトンプソン氏が主導する形でAIの導入を進めていたと言われている。
患者から保険金の請求が出された際にどの程度の保険金を患者に支払うかを、AIに算出させていた。
しかしその実態は、AIを請求拒否のための道具として活用しており、患者は保険金を認められずに必要な医療が受けられないことも少なくなかった。
会社として巨額の利益を上げる裏側では、そのようなことがまかり通っていた。




