インサイド・トヨタ(12)
フロントサイドメンバーは技術的課題が解決していないので出図はできない。
だけど日程への影響を最小限にするため、他の問題がない部品は先行して出図させてほしい。
鷺谷氏のこの言葉に、製造部門の一人は次のように答える。
「(課題である)フロントサイドメンバーの打点(溶接)のピッチ(間隔)の話、ものすごく大きな話なんですよ。本当に大きな話なんですね。
議論をして対策の方向性は握れているから次に進んでいいかというと、非常に難しい判断の部品だと思います。
普通だったら、これはダメです」
現状で技術的課題が残っているのはフロントサイドメンバーだけだからと、他の問題がない部品を先行出図し、先行して金型を作製したとする。
しかし、フロントサイドメンバーの技術的課題を解決するために、他の問題がない部品まで変更が必要になる可能性はゼロではない。対策内容によっては周辺の部品も併せて変更しなければならないことも起こり得る。
やっかいなのは、一度、量産用の金型を作ってしまうと、簡単に部品の形状などの変更はできないのだ。
現状で問題がないからと言って、課題が残っている部品以外の部品を先行して出図することにもリスクはあった。
結局、新型カローラの製造担当、本田氏は、
「ましてやフロントサイドメンバーはプラットフォームの本当に性能の一番の親分です。
(図面は)耳を揃えて出した方が、結局一緒じゃないかと思うんですけど」
と述べ、プラットフォーム(車台)の図面を受け取ることはなかった。
番組では、ここまで赤裸々に出してしまっていいのだろうかと見ているこちらが心配になってしまうくらい、生々しいやり取りを映し出す。
確かに、技術的な内容に関わる部分は画面にモザイクがかけられていたが、新型カローラ開発に関わる人たちのやり取りはそのまま放映されていた。
私も会社員時代はメーカーで製品設計を行っており、その当時は「出図判定会議」に何度も出席していたし、番組内の人たちが行っているようなやり取りをしていた。
「まだ世の中に存在しない新しい製品を作り出し、それを世の中に送り出す」
言葉に書くと簡単に見えるが、その裏では血の滲むような地道な作業が行われている。
そのような作業の積み重ねのもとに、トヨタを含めてメーカーは製品を作り出している。
番組を見て、久しぶりにそのことを思い出していた。




