インサイド・トヨタ(11)
新プラットフォーム(車台)の出図判定会議。
その会議の中にも取材カメラは入っていく。
判定会議では設計部門の責任者と製造部門の責任者が集まって、出図される部品について、必要な性能や要件を満たしているのかを確認していく。
満たしていると判断された段階でその部品は出図される。そして図面は設計部門から製造部門に引き渡されて、金型作製などの量産準備に移る。
もしも、出図日までに性能や要件を満たすことができていなくて出図が遅れてしまうと、そのあとの量産準備、そして量産開始時期も遅れることになりかねない。量産開始時期が遅れると、その製品の販売にも影響が出てくる。当然会社の業績にも影響が出てしまう。
量産日程を守るために、設計担当はその出図日までに何としてでも部品が抱える技術的問題を解決しなければならなかった。
出図判定会議は、そんな開発から量産までの間に設けられる、重要な会議だ。
しかし、その時点においても、プラットフォーム(車台)における部品、「フロントサイドメンバー」の技術的課題を解決することができていなかった。
製造担当の本田氏は、
「本当に性能も◯、要件◯、全て◯で出図(図面を出す)という段階で我々もそれを受け取って、そこから金型設計に入っていきたいので、本日の図面は製技(製造技術)としては受け取りを拒否させていただきたいと思います」
と図面の受け取りを拒否する。
それに対して設計担当の鷺谷氏は、次のように食い下がった。
「物によっては金型設計をスタートできるものもできないものも当然出てくるので、その選定をしたうえで(課題を)潰し込めたものから金型の検討を進めてもらう。そういうやり方でよろしいですか」
確かにフロントサイドメンバーの技術的課題は解決できていないので、出図はできない。しかし、プラットフォーム(車台)の他の部品の中には性能も要件も満足できているものもあるので、それらの部品を先行して出図できないかという相談だった。
設計担当は、製品において多くの部品を担当する。
その中で課題が解決できたものだけを先行して出図すれば、その部品については量産準備(金型作製)を進められる。その間に技術的課題が残っている部品の問題を解決させ、その部品だけを遅れて出図する。
そうすることで、フロントサイドメンバーの課題解決のための時間を稼ぎつつ、量産日程への影響を最小限に抑えることができる。
鷺谷氏の言葉の意図はそこにあった。
私も会社員時代はメーカーで製品設計をしていたので、その鷺谷氏の思いは痛いほど分かる。
出図日は厳格に決められている中で、自分が抱えている部品の技術的課題を解決しなければならない。技術的課題の中には、どこに答えがあるのかも分からないし、そもそも答えがあるかどうかすら分からないものもある。それなのに、解決までの期限だけは決められている。
出図直前は、暗闇の中を彷徨うような思いで毎日会社に通っていた。
期限までに問題が解決できない部品があると、鷺谷氏と同じように、課題が解決できた部品から先行で出図させて欲しいというお願いを製造担当にすることも少なくなかった。




