インサイド・トヨタ(4)
豊田章男氏は、トヨタ自動車内でいくつかの改革を推し進めていく。
まず、販売台数や利益という具体的な「数値目標」を設定することをやめた。
わかりやすい数字をトップが掲げると、組織がその数字の達成だけに囚われ、間違った行動や隠蔽などが起こるリスクがある。そのことを懸念してのものだった。そしてそれ以上に、数字だけにとらわれると本質的な価値が見えなくなるという強い信念があった。
番組で、章男氏はそのことを次のような言葉で説明する。
「でも私の立場で数値なんかいったら手段を選ばずやるんですよ。
そうすると全然おかしくなっちゃいますよね。
数値なんて言ったら本当にやりたいことがブレるわけですよ」
この言葉を聞きながら、ニデック(日本電産)のことを思い出していた。
ニデックは永守重信氏が創業した、現在では日本有数の電機メーカーだ。
永守氏はひたすら高い数値目標を設定し、それを部下たちに達成させることで会社を成長させてきた。しかし2025年に関連会社で多数の不正会計が発覚した。
永守氏から達成不可能な目標を課せられ、それを達成したかのように見せるため最後は不正に手を染めざるを得なかったからだと言われている。
では、販売台数という数値目標を取り下げ、トヨタ自動車は何を目標にするのか。
それを章男氏は、「もっといいクルマを作ろうよ」という言葉で表現する。
車はある意味では特殊な製品だ。
移動するためという実用的な面もあるが、人によっては車そのものに価値を見出す人もいる。デザインや「走り心地」に惹かれて車を買う人もいる。
これからトヨタはどのような車を作るべきなのか。
それを「いいクルマ」という言葉で表現した。
敢えて抽象的な言葉で表現することによって、トヨタ社員一人ひとりに「クルマ屋」としての自覚をもって考えて欲しかったからだった。
米自動車雑誌編集長の一人は、番組の中で次のように語る。
「かつてトヨタの車は退屈であると言われていました。
彼はそれを大きく変えて刺激的で運転が楽しい車にしました。
彼の掲げてきた言葉は常に『もっといいクルマをつくろうよ』でした」




