生きた証を抱きしめて (3)
権藤氏はなぜデスマスク製作を始めたのか。
カメラの前で次のように語る。
「両親の死の時に、何も残せなかった。
彫刻をやっていた人間として、何かできないのかなって悔しさみたいなものは常にあったかな」
権藤氏は美術学校で学び、葬儀社に勤めながら創作活動を行っていた。定年退職後に自分の能力を世の中に役立てられないかと考えた際にひらめいたのが、デスマスク製作だったという。
その根底には、自身の両親が亡くなった際に何も残せなかったという心残りがあった。
彫刻の技術。
葬儀社での経験。
自身の両親が亡くなった際の思い。
これらが重なって導き出されたのが「デスマスク製作」だった。
権藤氏は2016年に工房のHPを開設する。
すると、すぐに依頼が舞い込んできた。
「デスマスクの認知度は決して高くは無いけれど、需要はある」と確信したという。
権藤氏は2016年に開始してから現在に至るまでの10年間、デスマスク製作を続けている。
そしてデスマスク製作を続ける中で、そのための技術を自分の中に蓄積していった。
例えば、死者の顔の型を取る際にシリコンを流し込むが、その日の気温や湿度によってシリコンの調合を微妙に調整しなければならない。シリコンの粘り気が少なすぎても、多すぎてもうまく型はとれない。
死者の顔の型を取るだけといっても、そこには繊細な技術が必要だった。
彼は次のように述べる。
「この仕事は芸術家じゃないわけよ。職人だから。
自分の表現じゃないんだから。
黒子に徹して、忠実に再現するというのが俺の仕事だから」
故人の顔や手の形を彫像の形で残すといっても、それが正確に再現されていなければ、残された人の心には響かない。その彫像の姿が生前の故人のありのままの姿を再現しているからこそ、あたかもまだその故人がここにいるかのような感慨を見る人に与えることができる。
いかにして生前の時の顔や手の形を正確に再現するか。
そのことが、権藤氏にとっては何よりも大切だった。




