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或る人のFIRE日記  作者: 鷺岡 拳太郎
2026年07月

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ワールドカップ事件簿(8)


1986年にメキシコで開催された第13回大会で、ワールドカップ史上最も有名な試合の一つが生まれる。








試合は準々決勝。アルゼンチン対イングランド。




アルゼンチンのエースはディエゴ・マラドーナで、選手として全盛期にあった。第13回大会は「マラドーナの大会」として人々には記憶されている。


この試合では、今では伝説となっている2得点が生まれる。








両チーム無得点で迎えた後半6分。


マラドーナはゴール前に蹴り込まれたボールに向かって飛び込んでいく。


そしてマラドーナに当たったボールはそのままゴールに吸い込まれた。




イングランドはマラドーナのハンドだと審判に抗議する。


テレビ中継の再生映像には、マラドーナがジャンプしながら振り上げた「左手」にボールが当たっている瞬間が映っていた。しかし、審判はマラドーナのハンドを確認することができず、得点は認められた。


マラドーナは試合後のインタビューでこのプレーについて聞かれると、「ただ神の手が触れた」と表現した。以後、サッカー界ではこれに類するプレーが「神の手」と呼ばれることになる。








そして後半10分。


マラドーナはセンターライン付近でボールを受けるとドリブルを始め、ゴールキーパーを含めて5人のイングランド選手をドリブルで抜いてゴールを決める。


いわゆる「5人抜きゴール」である。




その後、イングランドの反撃を1点に抑え、アルゼンチンはイングランドに勝利する。








実は、アルゼンチンとイングランド(イギリス)には因縁があった。




メキシコ大会の4年前の1982年、アルゼンチンとイギリスはフォークランド諸島の領有権を巡って戦争(フォークランド紛争)を行っている。








フォークランド諸島はアルゼンチンの東に位置する群島である。同地は太平洋と大西洋を結ぶマゼラン海峡に近く、戦略上の要衝だった。


アルゼンチンはスペインの植民地であり、同諸島もスペインによって領有されていたが、1816年にアルゼンチンがスペインから独立するとアルゼンチンはスペインに対して同諸島の返還を求める。




そのアルゼンチン独立のごたごたに付け入ったのがイギリスだった。1833年にイギリスはフォークランド諸島を占領すると、その後も実行支配を進めていく。


アルゼンチンは今度はイギリスに対してフォークランド諸島の返還を求めたが、その要望が聞き入れられることはなかった。




フォークランド諸島の領有問題が解決しない中、1982年4月1日、アルゼンチン軍はフォークランド諸島を侵攻した。


即座にイギリス軍は反撃を開始する。


イギリス軍の圧倒的な兵力の前にアルゼンチン軍が敵うわけがなかった。アルゼンチンは大きな被害を出し、イギリスに負けた。








ワールドカップのアルゼンチン対イングランド戦は、アルゼンチンの人たちにとってフォークランド紛争の雪辱を期すための代理戦争でもあった。




マラドーナは後日行われたインタビューで次のように語っている。




「この試合は敵討ちだったんだ。フォークランド戦争で殺された人たちのね。


でも俺たちは違う。


戦争ではなくサッカーで勝つのが俺たちの流儀なのさ」








フォークランド諸島の領有問題は現在も解決していない。


今もイギリスによって実行支配されている。








現在開催されているワールドカップの準決勝でもアルゼンチン対イングランド戦が行われたが、この試合、アルゼンチンはイングランドに逆転勝利を果たした。




試合後にアルゼンチンの一部の選手が、「マルビナス(フォークランド諸島)はアルゼンチンのもの」と書かれた横断幕を掲げている。



挿絵(By みてみん)


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