貧困と生きる(2)
番組では始めに次のようなナレーションが入る。
「産業の空洞化が進んでいたアメリカの地方都市は2008年のリーマンショックで大打撃を受けた。
失業や住宅ローン破綻が相次ぎ、多くの中間層が没落した。
本作は、先進国の中でも特に貧困率が高いアメリカの実態を、子どもの視点で描いている」
番組に登場する三人の子ども。
一人目はジョニーだった。
番組が追跡取材を始めた2011年当時は13歳。
黒人の少年だ。
彼の父親は会社を経営していたが不況の中で倒産してしまい、家族は貧困に落ちていく。ジョニーは両親と兄弟たちと小さな家に暮らし、日々の請求書の支払いに追われながら貧しい暮らしを送っていた。
ただ、彼には一つの夢があった。
アメフトの有名選手になること。
そうすれば、貧困から逃れることができる。
そのことだけがジョニーの中の希望だった。
彼は地域のアメフトチームに入り、プレイをする。
しかし、アメフトの道具は費用がかかるものが多く、彼の両親は満足にその費用を賄うことができなかった。結局、彼はアメフトをプレイすることを止めてしまう。悪い仲間とつるむようになり、マリファナを吸い、そして最後は万引きで警察に捕まる。
ジョニーはそこから心を入れ替える。
19歳になったジョニーは物流センターで働き、大学進学のための資金を必死になって貯めた。大学に進学すればそこで再びアメフトをプレイすることができる。そうすれば、子供の頃に思い描いた「アメフトの有名選手になって、貧困から逃れること」という夢を再び追うことができる。
そのことだけを信じて働いた。
ジョニーは大学に進学しアメフトをプレイするようになる。
彼はそこで知り合った女性と結婚して子どもをもうけ、父親として家族を養っていかなければならなくなったが、ジョニーの妻が働いてぎりぎりで生計を立てていた。
一方で、ジョニーは大学でアメフトに打ち込む。アメフトで良い成績を上げることができればプロのスカウトが注目してくれる。そうすればアメフトの有名選手になって、自分も家族も貧困から逃れることができる。そう信じていた。そのことだけを心の支えにして厳しいトレーニングを自分に対して課していた。
しかし現実は甘くはなく、彼がスカウトに注目されることはなかったし、プロのフットボールチームに入れることもなかった。
27歳になったジョニーは、結局プロのアメフト選手にはなれなかった。
彼は番組のディレクターから次のような質問を受ける。
「夢は終わった?」
彼は「終わっていませんよ」と即答する。
「どうせ、40歳になっても50歳になっても僕の取材を続けるんでしょ。その時も僕は、『夢を追っている』って言ってやりますよ」
「夢」という言葉はどこか麻薬のようなものなのかもしれない。
貧困という目の前の現実から目をそらすための麻薬。
貧困という現実はあまりにも厳しく、それなしには一日だって生きられない。
彼はその考え方に囚われて、必死になって「アメフトの有名選手になる」という無謀な夢にしがみつき続けていただけなのかもしれない。
だけど、たとえそれが無謀だとしても、そしてその「夢」を実現できない人生だとしても、「夢」を追求することができる人生はそれはそれで悪くはないのかもしれない。
私はそんなことを考えていた。
「終わっていませんよ」と答えるジョニーの顔は、とても穏やかな表情だった。




